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異世界放浪~クラフトワークス~  作者: 紫野玲音
第三章 セドゥーナ学園・前編 学園生活と影
86/117

82 捜査の経過報告

 

ー調査書抜粋ー


 闇オークション潜入の結果、違法魔具の取引は確認されたが、黒幕の姿は(つか)めず。

 購入者の一部は偽装身分を使用、追跡困難。なお、“ラッチ・リー”の名が複数回出ており、関連が疑われる。

 また、ラッチ・リーの主人として、ノシュアラト卿という謎の人物の名前も挙げられている。


     ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 執行部は、警察による事情聴取(じじょうちょうしゅ)の調査書を確認しながら、今後の方針を話し合うこととなった。

 摘発(てきはつ)当日は、カルラが別行動で同じ場所に潜入していたため、それとの情報のすり合わせの必要もあった。



「どうなんですか、そちらは。なにか爆破犯の手掛かりは?」


「あのね、怪しいやつの尾行をしようとした矢先に、摘発よ。

 ほんっとに、タイミング悪いんだから」


 ため息をつきながら胸の前で手を振って、カルラが言った。


「すみませんねぇ、こればっかりは、警察との連携もありますからね」


 執務室のエージェントは、まだ任務からの帰路途中の若手抜きでの話し合いだ。

 と言っても、いつも議長役のようになってしまうステファンが会話を回してまとめないと、皆、積極的に話さないメンバーではあるが。


「爆破事件とオークションの関係は、調書の内容によると、直接にはなさそうです。

 ですが、闇オークションで出品されるものの見当がついていての揺さぶりなら、犯人は、オークションの関係者と何らかの個人的な繋がりのある人物でしょう」


「爆破事件のほうは?ええと、何件だっけ」


「ポルタベリッシモでこそ、まだ一件ですが、セドゥーナ国内で4件目で、他国を合わせると分かっただけですが11件です。

 他国の場合は、死の原戦場跡の人の少ない国境近辺に集中しています。また他には、流通を(わざ)と混乱させるようなポイントですね。

 現在、2か所の爆破現場に”劫火”のサミュエルとヴィンスがそれぞれ行っています。

 どちらも、原因不明で出現したモンスター退治に、しばらくかかるとのことです」


「ちょっと待って、モンスター?

 あの辺りは確かに出ることはあるけど、そんなに人里に出てくることはないでしょう?」


「はあ、そうですね。ですが、そのように二人から連絡がありました」


「俺の時も、いつの間にかモンスターが押し寄せたなあ…」


 カイトが、嫌な顔をしながら、思い出すように言った。きっと、ゲアラド国境周辺の3回も連続した爆破事件が起きた時のことだろう。


 カルラは、離れてだらけて座っているヴィクトルを見遣(みや)った。ヴィクトルの方は、プイと顔を(そむ)けたが。

 以前、興味深い会話をアレッサンドロの研究室で、アーシアとアレッサンドロがしていたことを思い出したのだ。

 また、聞きにいかないといけないわね、と小さく独り言のようにカルラが言った。


 フリムカルドが調書を持って来て読み上げた内容からは、分かったことは、そう多くない。

 犯人が、数多い爆破事件を起こす理由も今のところわからない。モンスターの出現との関係も。


 また、闇オークション自体は、時折このポルタベリッシモでも開催されているという噂は以前からあった。

 そして、この周辺でイレギュラーに行われる闇オークションの真のオーナーには、いつも同じ人物の名前が浮かび上がっていた。



「やっぱり、大ボスには手が届かない感じ?」


 カルラが訊ねると、優雅にお茶を飲むステファンが、水色の髪を揺らしながらため息をついて、


「あのオークションの雇われオーナー、見た目と違って口が堅いんですよね。

 あっちの事件のことはペラペラ話すのに自分の雇い主のことは…

一切知らないって、そんなことありますかねえ」


 警察と共に証人尋問にカイトとフリムカルドが加わっていたので、カイトがその時のことを話した。


「ペラペラって程でもないよ。

 アイツ、本当に(なん)にも、結局分かってないじゃないか。

 まあ、あの石仮面の男ラッチ・リーは、よくオークションを利用していたこと、それから、魔石を全部出すよう脅迫があったことは本当らしいけど」


「やっぱり、オークションに何が出展されるか、爆破犯には分かってたとみるのが濃厚ね」


「オークション主催の本当の黒幕は、やっぱりアイツかなあ?

 最近、本業の方でなにか怪しい動きはある?」


「ああ自分の商売と別に、変な美容食品を手広く売っているみたいよ。所謂(いわゆる)、ねずみ講の売り方でね。

 サプリ自体は、毒にも薬にもならない成分だって、ナオミ・グレーヌ博士が言ってたわ。

 でも、もう少しその線で探ることができるかもね」


「……フリン商会ね。あの嫌な感じの。何年も怪しいんだけど、尻尾、掴ませないよねえ~」


「あの狸爺ね」


「ガース・フリン、表向きは、実業家で投資家として知られているね…

 …だが、裏ではどうも、きな臭い……


 ……家族は、娘が一人だけだったかな…」


 ステファンはカルラとカイトの話に入り、困ったように眉間を指で摘まむように揉んで、息を吐いた。


 『ガース・フリン』、麦の穂色の髪は既に薄く、背はさほど高くはない。自宅は現場からも離れており、丁度、逆方向の高級住宅地にあった。

 ただ、現場裏の土地は彼の会社が広く所有しており、その線から話が聞けるかもしれなかった。

 また本人は、前途ある人物に惜しみない投資をすることで有名な人物で、慈善家でもある。

 しかし、表面上は紳士然としているが、何とも言えないいやらしい雰囲気のある男だ。



 フリムカルドが、警察の調査書をじっくりと見返しながら一度口を真一文字にした後、静かな声で言った。



「俺自身、もう一度、あの闇オークションのオーナーの取り調べに行ってきます。

 品物の入手や、金銭の引き渡しに、知らないなんてはずはないんです」


「……ああ、よろしく~

 氷結の騎士サマの取り調べは厳しいからね~

 氷漬けになる前に、話すんじゃない?はは、楽しみにしてるよ」


 カイトが、傍に立っているフリムカルドを肘で軽く小突いた。

 ステファンも、飲んでいたティーカップをテーブルに置くと、調書をじっと見ながら、カルラの方を向いた。



「それにしても、ラッチ・リーね、どうせ、偽名でしょうね。

 見た目も全く分からないって話だし、そうそう、実際に見たのはカルラ嬢とアーシアだったと思うけど、どんなだったんです?実際」


「そうね、声はすごくくぐもってて、変だったし、あんなにゴツイお面の割に身長もそんなに高くないし華奢だったわね。

 でも、女って感じでもなかったわね。……アーシアは、鋭い子だから、なにか気が付いているかもしれないから、今度聞いてみるわ」


「あいつ、本当に変だよね」


 アーシアのことを思い出してか、行儀悪く座っていたヴィクトルが身じろぎして、ボソッと言った。

 今まで一言も声を発していなかった彼に、皆の視線が集中した。


「やめてよぅ!私の弟子を変な目で見ないでくれる~?」


「そうですよ。見事な捕り物だったじゃないですか。ほら、あの武器。

 犯人を捕まえるのにとても合理的な設計になっていて、警察署のでも話にのぼったくらいなんですよ」


 カルラが、アーシアを庇うと、続いてフリムカルドも擁護に加わった。

 カイトとステファンが珍しいものを見るような顔をして、揃って彼を見た。

 カイトが茶化すような笑みを唇に浮かべていることに気が付いたステファンが、話を戻すようにカルラに訊ねた。



「君の従魔からの、情報はなにか有用そうなのはありますか?」


 カルラは、しばらく綺麗な指を顎に当て考えると、パッと顔を上げた。


「そうね、港町側に近い地域にも変な建物があって、そこでも闇オークションをやってる噂があるみたい」


 ポルタベリッシモに於いて、港のある南部の街は、輸入会社か魚市場がある様な主に漁師が多い地区で、オークションを行うような雰囲気はない。



「……あんなところで?」


「そうね、こっちほどでないけど、時々あるんですって。


 ……もしかしたら、石仮面が来るかもしれないわね」






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