79 捜査差押
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(あ、当たった。良かった。一度しか会ってないから。えと、氷結の騎士?だったかな)
アーシアは、ふと顔を上げて、カルラの説明をしなくてはと、思い、
「カルラさんは、あの、従業員の捕縛で、下の階に行きました。
多分、重要な部屋…オーナー室があるのかもしれません。あの、一人で大丈夫でしょうか?」
フリムカルドは、大きく頷いて、
「ほかのメンバーもこちらから同じ場所に向かったから、きっと合流していると思うよ。
君は、大丈夫か?」
氷結という名とは違って、暖かい人なのかもしれない。アーシアは、ふと、ウェスのお店で大きな氷を作ってくれたという氷魔導師のことを思い出していた。
そう、一級氷魔導師の、フリムカルド・ヴァルケンでは、なかったか。
フリムカルドは、背も高く肩幅が広い金属鎧がとても似合う体格で、水鏡の貴公子と呼ばれる麗人であるステファンに比べると、涼しく一見厳しく見える見た目をしている。
目もハスキー犬のようで、本当に冷たい地方からの出身といった感じだった。一見してみると、魔導師より騎士に見える。
突然、幕の横で大きな何かが転がり出るような音をさせて、太った男が飛び出て来た。
頭は薄く、華美な趣味の悪い格好をしている。出てきた方から、もうもうと煙が出ているが、あれは目くらまし薬だろうとアーシアは検討をつけた。
男は必死に手を突きかき分けるように階段席を昇り、出口に向かっているようだ。
アーシアは、フリムカルドと目配らせして、二手に分かれて、男を追い詰める。
当然、華奢な女であるアーシアの方へ、男はやって来た。
アーシアはサスマタを取り出した。男は一瞬びくっとしたが、直ぐにアーシアに勢いよく向かってきた。
アーシアはサスマタを、構え相手に鋭く突き出した。サスマタの翼は相手を捉えた。相手はそれでも、力では勝ると思ったか、アーシアを跳ね返そうとする。
「アーシアさん!!」
フリムカルドが叫んだ。
「大丈夫です。近づかないで!」
男は下卑た笑みを浮かべた。
アーシアは、棒のスイッチを押した。途端にサスマタの翼の間から、電撃の稲妻が走り、男はギャっと言ってその場に倒れ込んだ。
「死んでないですよね……」
モンスターに対してよりは加減したが大丈夫だろうか。フリムカルドが駆け寄って、相手の首を触る。
「大丈夫だ」
笑いながら、アーシアを見上げた。
この派手な禿男が来た方から、紫色の男と水色の髪の男が、追いかけて入って来て、そいつに近づいた。
「これはこれは……お手柄でしたね」
ステファンが、微笑んで、如何にも可笑しそうに言った。
そして、手慣れた様子で、相手を捕縛していると、横で突っ立っていた紫紺髪の男が、
「あっれー?まだいたんだあ。
時間だったから、突入しちゃったよ。
お目当てには、逃げられちゃったっぽいね」
アーシアは気不味い顔をして俯き、両手握った。
確かに、あの怪しい石仮面の男は、取り逃がしてしまった。
「あら~、それはわたしの判断よう」
カルラが後ろから、嵌めていた白い手袋を引っ張りながら、現れて言った。
アーシアは、カルラのいつもと変わらぬ様子の登場に、ほっと胸を撫でおろした。
カルラは、アーシアを見ると、優雅ににこっと笑って見せた。
「それより、そいつ起こしたほうがいいんじゃない?
運ぶの、めっちゃ重そう~」
そう言って、ヴィクトルは足の靴の先で、伸びて倒れている太った男を蹴った。
「そいつ、悪趣味だけど、オーナーよ。
雇われかもしれないけどね」
そういうカルラも、軽い調子だ。
オーナー(仮)は、汗まみれの髪が貼りついた赤い顔で、いつの間にか自身が縛られて転がされていることに、はっと気が付いた。
猿轡に布まで巻いているので、ふがふが何を言っているか分からないが、激しく文句を言っているようだ。
カルラが、パシンと後ろで音を立てると、男はビクリとして、静かになった。
「ねえ、なんで自分が捕まったかは、分かっているわよね。
それじゃあ、一つ質問なんだけど、絶対に答えて頂戴ね。
さっきの、『黄金のキトリニ』を、落札した石仮面の男、あいつは誰?
知らないとは、言わせないわ。だって、あいつ従業員用口から出て行ったのよ」
カルラが、有無を言わさぬ強い調子で、詰め寄った。
「ふん、そんなものしるかい」
ダンと椅子を蹴り飛ばして、オーナーの赤い顔ギリギリに足を踏みつけ、ヴィクトルは屈みこんでドスの利いた声で言った。
「答えろよ」
オーナーは床に転がったまま身を縮め、震えあがった。
「あれは、ただの使いだ。詳しくは知らん!
な、名前は……ラッチ・リー…だ」
「親分の名前も知ってるんだろう?」
ヴィクトルが畳みかけるように言う。
「知らん!!どんな奴か全く知らん。ラッチ・リーは、自分は使いだと言っていた。
そ、そうだ!ノ、ノ…
……ノシュアラト卿、と言っていた。金払いはよかった。それしか知らん!!」
エージェントは、顔を見合わせた。
「まあ、詳しくは後程聞きましょう」
そう言って、オーナーの男を立ちあがらせて、他の容疑者と一緒に連れて外の格子の付いた馬車へと連行して行った。
ドアの外は、騒然としていた。少なからず近所の人々も集まって、何事かと騒いでいる。
警察が、思った以上に来ており、コンスタントにほかの参考人などを集め連れて行くなどをしていた。
アーシアは、路上で、あまりに非日常の出来事過ぎて、少しぼんやりしてしまっていた。
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ラッチ・リーは、思いがけない警察のガサ入れに、イラついていた。
暗い部屋のカーテンの陰に隠れ、胸の前で腕を組んでマントにしっかり包まった。決して気取られないように。
息を殺し、暗い部屋の主人とその直属の側近とが、会話するのをじっと耳を澄ませていた。
息を殺して、相手に自分が居ることを悟られぬように。
「本物のキトリニじゃ、ないじゃないか!」
ガアアンと、金属がぶつかる鋭い音が響いた。じれにじれた彼は、手当たり次第に物を投げた。
しかし、もう片手には、オークションの目玉であったキトリニと呼ばれたものを持っている。
「しかたありませんわ。しかし、アレも手に入りましたし……」
冷たい感情がないような声が、細く答えた。
常に、冷淡で、常に残酷な、関わり合いになりたくもない声だった。
(ふん、どんなに苦労したと思っているんだ。いつも無理ばっかり言いやがって。
アイツ、自分がそうしろと言っておいて知らんふりかよ……)
ラッチ・リーは、石仮面の中で息を殺し、怒りで震える。
警察の突入の情報なんて、手に入れようと思えば入れられるはずだろうに、と内心沸々と怒りの感情で一杯だった。
本当に存在するか分からない、キトリニなど、何の意味があるのだろう。
「ああっ、これでは、作れない!!早く本物を探せ!」
物が割れる音が立て続けに聞こえた後、震える声が初めは低く、徐々に苛烈さを増して聞こえる。
「ラッチ・リーは、どうしている?!あの、使えないクズめ!
はやく、在り処を見つけるのだ。
あの、フックが作ったというキトリニの!」
雷鳴のような、叫び声が、人知れず響いていた。
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