78 実地潜入訓練
闇オークションの開催される付近に、カルラに連れられアーシアは来ていた。
以前に、爆破事件があった近くの場所だ。この場所を魔石発見機レーダーで、見つけた二人はよく人の出入りが見える場所で待機していた。
「なんで、こんなところで開いているんやら、
全く怪しげな場所がないようなところなのよ、見てのとおりね」
そこは、連結した住宅の壁を取り外して広げた作りで、夕方からの営業の会員制クラブのような店舗になっていた。
オーナーは、どんな人物か名前の記載はあっても、分からないとのことだった。
周囲は、元々民家が多い場所だったが、いつの間に空き家が増え、住人もまばらだ。それでも、住民による深夜の騒音などの相談は行政にされていた。
「かえって、そこに目を付けたのかもしれないわね。
民家の連結した建物が空きがまとまってある所があってね、
そこの一画に、この間、見に来た建物があるの。
最近、夜、流行っててね、
その地下が何やら怪しいのよ。
別に搬入口があるには違いないんだけど…
あるとしたら、反対側の山の森になっているところかしらね。
調べによると、オークションでは、
魔石の出品は、数は毎度一つとか出ていたようなんだけど、
アーシアの発見機では一杯在庫は貯め込んでいるようね。
まあ、目くらましなら違うところを爆破したほうがいいと思うわよね」
クラブに出入りする派手な人物は、下の区域から階段を使って昇ってくる。その派手な客に混ざって、地味ながらも一目で裕福そうな連れやフードを目深に被った者などが入っていっていた。
かなり繁盛していることが、目に見えて分かる。
爆破事件は、本当にここから近い、何か意味があるのだろうか……
稀少な魔石の販売に、爆破……
「でも、爆破が一種の脅迫だったら、話は違う」
個人的に脅迫しなくても、爆破で脅せばいいのだ。
魔石は、いつ出品されるか分からない、もし、目当てのものがあったなら、魔石の倉庫が爆破された場合、かなりの損失になるだろう。
イレギュラー闇オークションは違法だし、見つかる確率も増える。
どの魔石か分からなくても、今まで一つだったものが、複数個出品され、手に入る可能性が上がるかもしれない。
考えようによっては、気が長い計画だ。連続する爆破事件そのものが、愉快犯ではなく、計画の一部という可能性もありうることになる。
「よし、そろそろ行こきましょうか?
さあ、これ着けて」
と言って、カルラはアーシアに猫の仮面を渡した。
「え?ええ?潜入って、中に入るって意味……あ、はい…」
アーシアは諦めて、仮面を着けた。カルラは大きめの鳥の面だった。
二人ともマントのフードを被り、店のエントランスへと向かう。
表の入口には、内側にチェックする案内人が一人いて、直ぐにクラブホールになっている。
外からは分からないほど人が居て、生バンドが、端の方のステージのような場所でアップテンポの曲を演奏していた。
足の踏み鳴らす音や楽器の低音の騒つきも大きく、これは、近所迷惑だろう。
カルラは、迷わす、楽団とは反対の奥のパーテーションで隠された方へと向かった。
仕切りの向こうには、屈強な黒い服の男が二人下りの階段の入り口を守っており、カルラは、胸元から二枚のチケットを彼らに渡した。
二人は頷いて、入り口を通した。
この下が、オークション会場になったいるのだろう。
暗い廊下を抜けると客席の上段になっていて、階段状に席があり、その向かいにオークションのステージがある。ステージは台が中央に一つあって、後ろは大きな幕が下がっている。
指定の席に歩いて行くと、上の方にはボックス席もあるようだった。
すでに、オークションは序盤だが始まっていて、客席は間を広く取っていて多くはないが、満員に入っているようだ。
皆、似たような仮面にフード姿も多い。
外側からは、想像できないほど中が広い。恐らく裏の崖を利用して、せり出させて部屋を作っているのだろう。
地震の多い日本ではあまり見かけない建築方法だ。裏手は、森の木々でカモフラージュでもしているのだろうか。
カンカンカン…
「本日、一品目の魔石でございます。こちらは…………」
仮面に、燕尾服の男がプレゼンテーションを始める。品物はボス級の魔石のようだ。
次々に稀少魔石が、競りに出される。会場が騒つき、今日は魔石が豊作だななどの声が漏れていた。
やはり、魔石の在庫を放出させる目的だったのだろうか。
魔石は、ほとんど一人の男が競りに勝っていた。手に入れているのは、全て赤い石だった。アーシアが、死の原戦場跡で手に入れた血脈石の欠片もあった。
線の細そうなそんなに背の高くない石のような模様の仮面を着けている。
アーシアたちが通った時はいなかったので、後から入って来たのか、いつの間にか一番廊下に近い席に座っていた人物だ。
フード付きのマントをしっかりと着込んで、様子がしっかりと見えない感じだ。
「最後は、こちら、本日の目玉でございます!
伝説級の金属にして、大変な稀少価値の宝物でございます。
その名も、『黄金のキトリニ』!!!!
決して、手には入らぬ、幻の金でございます!!!」
興奮した様子で司会の男が、手を振り上げる。金額の提示は驚くほど高い金額で始まった。
「……あのキトリニって、魔石反応が凄く強いです」
こっそり、発見機を見つめていたアーシアが、小声でカルラに言った。カルラは、さり気なく周囲を見回していたが、その言葉に視線だけで反応した。
高額にもかかわらず、客席から複数の声が上がる。次々に値が競り上がっていく。
例の石仮面の男も、ざらついたくぐもった声で短く声を上げる。
最終的に、先ほどの石仮面の男が、キトリニを競り落とした。
オークションはまだ続くが、石仮面の男はキトリニの競りが終わるや否や、席を立ち品物の受け取りに向かったようだ。
アーシアとカルラは、さり気なく受け取り場所近くの廊下に出た。
黒服の一人が、二人を見とがめるように声を掛ける。
アーシアは気もが冷え震えあがったが、カルラが落ち着いた様子で、用紙を出し、装飾品の受け取りだと説明した。
いつの間に購入していたのか、スマートな対応だった。一緒の受け取りの部屋へ行くが、キトリニと魔石は個室のようだった。
それでも、隣の個室の様子を注意しさり気なく会話を伸ばし、石仮面が出てくるのと同時に何とか手続きを終わらせた。
急いで、男の後を追う。アーシアは、石仮面の男を会場よりも明るいところで見て、背格好やマントが何やら見覚えがあることに気が付いた。
競りの時聞いた声は、老人のようだったが、身のこなしや体格がどう見ても若い。
すると、オークション会場が、急に騒がしくなった。
「あ、もう来ちゃったわね」
カルラが言うと、客席の人が狭い通路になだれ込んできた。石仮面は直ぐに気が付いたようで、ケースを胸に抱え廊下に出ると急に逆方法に身を翻した。
大量に逃げまどう人々に遮られて、石仮面は通路の奥へと消えた。しかし、あちらは出口の方ではないはずだ。
三日前の見た時、階段下で見かけたので、もしかしたら、搬入口を知っているのかもしれない。
カルラは、踵を返して、素早く受け取り所の部屋に戻った。
アーシアも、少し迷って、その後を追う。
カルラは、現金や、帳面をまとめ逃げようとしていた従業員を、蔦で縛り上げ、さらに逃げようと階段を降りて行く従業員の後を追っていった。
「アーシアはホールで待って居て頂戴!!」
そうカルラに言われて、オークションホールへと行ってみると、数人の客と従業員関係者が、端の方に繋がりれていた。
客はほとんど、クラブに逃げて行ったのでそちらは、人が満帆になっているだろう。
警察の制服を着た者が2人、他の容疑者らしき者を縛っていた。
「やあ、きみもいたんですね。令状が下りてね、警察と捜索差押に来たんですよ。
大丈夫ですか?」
銀の髪に騎士のような佇まいの金属鎧の男が、アーシアに声を掛けた。
「ええと、フリムカルド・ヴァルケン…さん?」
相手は、不器用な感じに笑って、
「はい、覚えていてくれたんですね」
と言った。
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