77 産業ってなんだぁ?
爆破事件は、普段平和なポルタベリッシモには、大した事件だったようで、学校の休講はまだ、依然として続いていた。
専科だけは、どんな時もやるあたりぶれない。
マドカがよく面倒を見に行く教会の猫たちの様子も気になるし、鹿之丞とも連絡した、保育器の件をギルドに報告したので、ノーラ神官と連絡を取らなくてはいけなかった。
時間の余裕ができたので、保育器も複数台作っていた。
『今日は、あいつらに会いに行くのか?』
「ええと、まだヒトが向こうに行けるほど、ドアが大きくないよ。
今日は、ノーラ神官さんに、用事があるの」
ふーん、と言いながらも、マドカは機嫌が良さそうだ。
アーシアは、『扉から扉へ』を唱えた。ドアは前回同様の大きさで、やはり、距離のせいで必要レベルが高いのか、中々普通のサイズでは呼び出せない。
ドアができて、アーシアはノックをする。
トントン、外側からも返事があった。アーシアが扉を開くと、ありがたいことに、丁度良くノーラ神官がいた。
「あの、アーシアです。この間の返事をしに来ました。
あと、最初に、保育器の件ですが、保温のみなら、もう数台作ってありますので、そちらにお渡しできます」
「まあ、ありがとうございます。こんなに早く。
もし、回復のアイテムでご協力できることが、私どもにありましたら、是非協力させていただきます」
「一応、アイディアとしては、ポーションを霧状にして保育器の中に充満させるとかも考えたのですが」
「まあ、そんなことができるのですね。わたしは、わたくしたちが治癒魔法を込めた魔石を利用するのはどうかと話しておりました」
「それもいいですね…サンプルがありましたら、お貸しいただけますか?」
ノーラ神官は、少し時間がかかる旨、アーシアに伝えて、席を外した。
マドカは、まだ窓の上あたりに浮かんで、機嫌よくふふん~と鼻歌を歌っている。
アーシアは、ふと、マドカに聞いてみたいと思っていたことを思い出した。
アルディアの産業の発達のアンバランスさについてだ。初めは村にしかいなかったから、そこまでおかしく感じなかったが、ゲアラド、セドゥーナと旅して、不思議に思う、その気持ちは強くなった。
念話でマドカに聞いてみた。
《ねえ、マドカ、建物とか、とても大きな立派なものがあるでしょう、
当然それの材料運びとか…
なにか、いっぺんに物を運ぶような移動の手段がないのかなって》
《だって、魔法があるじゃない。みんな大きな事業の時は沢山の魔術師が、呼ばれるんだ。
岩魔術師には、念動力が使えるやつがいるし、何だったら、その場で作れるしな。
ほかの地方はそれぞれ、木が多い地域だったり、岩や石の地域とかそこの風土に合わせて、建物を魔導師が建てたりすることが多いんだ。
だから、建物は地域差があるだろう。もちろん、魔導師を雇えない小さな村なんかは、自分たちの力を合わせて作っているよ》
《あちらの世界の「産業」を、勇者が広めたりしなかったの?》
《産業ってなんだあ?》
《農林漁業、鉱業、製造業、工業とかの…
生産を大きな規模で行うことや経済活動のことかな……》
《うーん、ムズカシイナア…勇者が、その、産業?を興すかって?
そうだな、来訪者で生産系のスキル持ちは、おいらが勉強した限りいないな。
ただ、勇者の旅が終わった後、勇者たちが自分の居住地で、こんなものが欲しいって、お願いして作ってもらうことで、いろいろ発達したものはあるよ。
保育器?に関しては、今までの来訪者が気が付かなかったんじゃないかな、自分はとっても勇者だから丈夫でしょ。当然、子供も丈夫な傾向だからね。
だけどなぁ、結構な人数の元勇者は頑丈と言っても、自分のパワーを最大限に使い、無理がたたって本人は短命になったりしてるんだ。
だから、直接どんなものかわからないままできたりしてるのもあるんだって。
ああ、アーシアは心配しないでも大丈夫だと思うよ。普通の来訪者は、アルディア人より丈夫なんだ。それに、仕留めるときは、一発で怪我なんかしないだろ》
話し終わるとまた、マドカは空間扉の上縁にぶら下ってぶらぶらしながら、軽やかに鼻歌を歌いだした。
「そうなのね…」
(魔法があるから、不思議な発展の仕方をしているのね……それに、勇者が短命になりやすいか……)
アーシアは複雑な気持ちになっていた。
ノーラ神官が戻って、サンプルを貰い、保育器についての話し合いをしながら、アーシアは新しい保育器をドア越しから渡した。
「とりあえず、5台お渡しします。様子を見てください。
あと、子猫たちのことなんですが、
『聖なる森』の聖獣の鹿之丞さんと連絡を取ったのですが、あちらはあの子たちを受け入れてくれるとのことでした。
一度、わたしのドアのスキルでこちらに、それから、『聖なる森』にドアを出して、みんなで行ってもらったらいいかと思います」
「まああ、よかったわ。これで、安心です。鹿之丞さまも、お元気そうなんですね、よかったわ。
どうぞ、よくお礼をお伝えしてください」
ノーラ神官は少し頬を緩めて、ふっとマドカに目をやって、
「神獣さまは、とってもご立派になられましたねえ。
それに、お歌がお上手ですね」
と言うと、マドカはひょいっと下の窓の枠に飛び降りて、自慢げな顔をした。
『おいら、ご主人と契約してからすっごく強くなって、ご主人を助けているんだぞう!』
「ふふふ、そうなんですねえ」
ノーラ神官は、少し心配事からの緊張がほぐれたのか、柔らかい声色になっている。マドカとも、以前から気やすい間柄だったのだろう、和やかに会話し続けていた。
「今日は、子猫たちは外に遊びに行ってるんですか?」
アーシアが聞くと、ノーラ神官はええ、と頷いた。
「最近は、とても元気になってきたのですが、まだまだ保育器で寝る時間も多いです。
身体は、普通の子猫より大きくなっていませんし、食事の量も多くはないんですが……
充分に元気なようですよ」
ノーラ神官は神獣の傍にいた経験も長いので、子猫たちの現状に関しても的確な判断をできるのだろう。
マドカも、今の彼女の言葉に同意するように、
『聖獣になるのには時間がかかるんだ。
それに、もう普通の動物じゃないからなあ、成長速度とか寿命とか違ってるんだぞう。
今まで苦しかったのは、その変化が急激過ぎたからなんだ。
いまは安定してるから、大丈夫なんだぞ!』
なるほど、成長痛の酷いものような感じだったのかと、アーシアは二人の言葉によってしっかり納得できたのだった。
子猫たちは、半月後にこちらに引っ越しすることとなり、保育器も、乳児院の神官たちと協力して、改良を進めることにしたのだった。
マドカと子猫たちは、仲がとてもよく、子猫の訓練を見てやったり一緒に遊んであげたりしているらしい。
最近は少し危なっかしい遊びも増えてきていたが、向こうで安全に過ごせていると知り、アーシアはやっと肩の力を抜き、深く息を吐いた。
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