76 実地訓練?
ー数日前ー
セドゥーナ国際総合学園とは、表面的には学校だが、国内外の問題を解決する国家機関だ。
セドゥーナ国は正しくは、セドゥーナ首長国といい、数人の国の代表が世襲制連番で、国を治めている。
国政を行う議事堂とは別に、学園は国内外の調査をする機関があり、その中の執務室内、特別執行部の実行部隊としてエージェントが存在する。
モンスター討伐においても他国の要請で派遣されることもある、凄腕のエージェントだ。なので、やっている仕事は、冒険者や警察と協力体制になることもあった。
現在在籍しているのは、11名、1名は技術提供の錬金科アレッサンドロ・ヴィスコンティ1級と、他3名の2級が仮在籍という形になっている。
火と雷のベテランのエージェントは、長期任務中で現在いない。
今日は、珍しく1級のエージェントたちが、学園内の執務室に集められている。
アディアに於いてモンスターは、どこにでも発生するものであるが、モンスターしか生息できないようになってしまった地域に、死の原戦場跡が挙げられる。
死の原はすり鉢状に広大に広がり、そこに国境を接している国々は、その地域の広がりを防ぎ、自分の領土を守るために日々努力を必要とする。
セドゥーナ国は、死の原地域には、直接接していないため、国内の時々出る地域のモンスターのみを討伐すればよく比較的頭数も安定して対処できている。
しかし、国交との関係もあり、死の原にて協力をしに行く場合も多く存在する。それが、エージェントであった。
エージェントは、各々の魔法能力が極めて高いもので構成され、少数精鋭の部隊だ。
それが、ほとんど集められているのは、国内外で連続で起きている爆破事件が、ここセドゥーナ国に徐々に近づき、起こり始めたからだった。
「そういえばカルラ嬢、貴女、アーシア・デイスさんに、稽古をつけてあげているそうですね。
珍しいこともあるものだ。貴女が弟子を取るなんて」
執務室で優雅にお茶を飲んでいるのは、水鏡の貴公子ステファン・デルメールだ。
エージェント専用執務室は、大変広く豪華で、トレーニング施設も付いている。
「あら、だって危なっかしいんだもの。あんなに才能があるのに、
ワルい奴に、狙われちゃうわ。せめて、自衛できないと、ね」
雑誌(何かの薄い冊子のようなもの)を読んでいた、カルラが足を組みなおして、チャーミングな調子で言った。
「はは、まあ、彼女は1級は間違いないでしょうからね。
遠慮しないで、訓練場に私たちが居る時でも、自由に使ったらいいでしょう」
ステファンが言うと、周りの隊員も頷き同意した。
「あら、じゃ今度連れて行くわね」とカルラが陽気に答えた。
「あいつ、絶対強えだろ」 ヴィクトルが、不貞腐れたように言った。
「え?棒術は教えてるけど、まだまだねえ」
「そうじゃねえよ。あいつ、なんか隠してる」
「ふん、やぼねえ。そんなこと気にして。
あの子の武器見てごらんなさいよ。あれは、あの子の心根よ」
「へー」
「……本当に、カルラ先輩がそんなに可愛がるなんて、珍しいですね」
鉄壁のスクード、ヘルマン・グラウベンが言うと、
あらー、あなたのことも、かわいがってるわよう、と茶化すようにカルラがヘルマンに言うと、普段から彼は武骨で口下手なのもあって、肌が褐色なのにも拘らず、一気に顔が真っ赤になった。
カルラは楽し気な表情から、ふと真面目な心配気な顔になって続けた。
「でもね、あの不殺の武器でモンスターと対峙してたんだって…
武術のいろはのいの字も知らない普通の女の子よ……そんなの、危なすぎるじゃない…」
部屋は、水を打ったように静かになった。
普段から陽気な態度を崩さないカイトや、皮肉な表情を浮かべていたヴィクトルでさえ顔色が変わった。
「…彼女は……エゲリア森公国出身なんですよね」
空気を換えるように、ヘルマンくらい、寡黙なフリムカルド・ヴァルケンが訊ねた。
氷結の騎士と呼ばれているように実直な男で、在学中から、実行部隊に入っていた、珍しい氷魔法の使い手でもある。
「あら、珍しい、興味があるの?」
「い、いや、そうだったら、俺も同郷なんで」
「そうなんだですね。エゲリアっていったら、結構ここに来るの大変だったでしょうね」
「はい、山があちこちありますからね。距離よりそっちが時間がかかります。
死の原方向の西側の国境が、落ち着いていますんで、短い距離の道も使えますが」
「そういえば、死の原戦場跡は西と東でモンスターの出現数に開きがあるんだよ。興味深いね」
「地元では聖獣さまが、増えたせいではと言っています」
「なるほどねえ。しかし、聖獣が増えるのはよいことだね」
腕立て伏せをしていたカイトが急に話に入って来た。
「それにしても、あの子のポーションは、うまいのよ。
なんだろうね、料理作るのがうまいからかな?また、売ってくれないかな~?
なんか、シュワシュワしたポーションもあったのよ。あれ、最初はビビったけど、おいしかったな~」
カイトが、如何にも名残惜しそうに言うので、
「なに?お酒でもはいってたあ?」
と、ヤジられ、周囲がドッと笑った。
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小鹿の憩い亭のそばで、カルラと待ち合わせで、アーシアは街に繰り出していた。
今日は魔石発見機を持って来て、アーシアはその画面を覗き込んでいた。生活用の魔石は粒よりも小さく表示されているので、今のところ成功ではないだろうか。
しかし、これを作った後で、もしかして爆発物を見つけるにはこの発見機では範囲が狭く、また、気が付いても爆発されてしまう可能性があり、すわ、失敗かとも思い少し落ち込んでいた。
しかし、思わぬところで役に立ったのだから、まあ、どうなるか分からないものだ。
カルラは直ぐに来て、二人でこの間の爆破事件の現場に向かった。
「あら、それが発見機ね。まあ!面白いね」
「いえ、でも、ちょっと役に立つか分からないんですが……」
「ふふふ、気にしない、気にしない」
やはり、いつも通りの感じの良い通り道だ、脇道を行って、現場の通りに着いた。現場はきれいに片付いて、すっかり元通りだ。
発見機を覘くと画面の隅に矢印が出て、点滅した。
カルラと顔を見合わせる。
二人で矢印の方角に道なりに進む。
民家の多い、少し寂れたように見える場所だ、こんなところあったのだろうか。
ポルタベリッシモは民家にも外階段があったりと短い階段が斜めに存在して大変入り組んでいる。
坂のせいなのだが、大通り以外はこのように緩やかに曲がったり段によって上り下りして移動するのだ。
同じ高さの店が多くある広い場所から下に降りる階段が端の方にある場所は地価が比較的リーズナブルなので民家が多くなる。
発見機は、急に強い反応を示し、一か所に極端に沢山の点が光る場所が現れた。
「こ、ここは……」
「ああ、そこは元連結した建物の民家でね、
人がいなくなって、今は夜に開くクラブって言うのかしら、になっているのよ。
住民にはあまり、評判はよくないわね。
それにしても、おかしいわね、魔石の取り扱いはギルドを通して管理されているの。
販売できるのは、決まったお店だけよ。おかしいわね
ふふふ、役に立つじゃない、発見機!」
カルラはにこっと微笑んだ。恥ずかしくて目線を下げると、目の端に見覚えのある影が横切るのを見かけた。
そのクラブのある反対側の階段からさっと誰かが出てきたのだ。丁度アーシアが20㎝位高い場所に居たので、ふわっと例の香りが香ったのだ。
フードを深く被っていたが、ちらりと見えた横顔と背格好はあの彼に似ている。そう、錬金科3年トム・ロックそっくりである。
もう、見失ってしまったので、直ぐに発見機を見ると、大きな点が彼の行った方に移動していっていた。
「どうしたの?」
「い、いえ、一つ大きいのを持った人が向こうの方角に去って行ったようなんです」
「ああ、あっちはもう、人通りが多くてちょっとややこしいのよね…
乗り物で移動出来るから、きっともう近くを離れているわ。
…そうだ!
3日後にイレギュラーなオークションがあるっていう話なの、
その会場が、ちょうど、あの建物なのよ。
いわゆる、闇オークションね、きっと魔石の取引があるから、ここに集められているのよ!
…はあ、魔石はダメなんだけどねえ。
ねえ、アーシアもいらっしゃい。実地訓練よ」
「え、ええー?!」
(いや、カルラ先生、わたしまだ、素振りしかしてないですよ……)
首長は、単なる代表という意味で使っています 王という身分ではないので、連合王国などが使えませんでした 元その地方の王であったものや新しく台頭した豪族・領主のような人たちが代表として一つの国を動かしている、という設定です
お読みいただきありがとうございました




