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異世界放浪~クラフトワークス~  作者: 紫野玲音
第三章 セドゥーナ学園・前編 学園生活と影
77/190

73 醤油をコピー?(郷愁は味だけ)

 

 ウェスと分かれて、寮の自室に着いたのは、暗くなりだした頃だった。食堂の横のカウンターで頼んでいた夕食の受け取りの時間ギリギリだった。

 学校が忙しいアーシアは、大概(たいがい)の食事は寮の食堂のものを食べているのだが、従魔(じゅうま)も居るため自室で取るようにしている。

 部屋に帰ると、マドカがドアまですっ飛んできて出迎えてくれた。毎日の食事まで、この寮は、タダなのだ。その為ほとんど、食堂を利用しているが、マドカもいるため自室に持って行って食べている。

 時折、時間があると、亜空間作業場の自分の家に帰って、食事を作ったりもしていたが。



『今日は、遅かったなあ。楽しかったか?』


「うん、ありがとうね。

 そうだ、子猫たちの様子はどう?」


『うん、()()()に入って寝るようになったら、めちゃめちゃ元気になってきたんだ!

 おいら、驚いたぞう』


「ふふ、そうか。よかったね」


『今日もいっぱい遊んでやったり、特訓(とっくん)してやったりしたんだ!

 もっと元気なったら、また、ご主人にも会わせてやるからなあ!』


「そうね、楽しみだわ」


 二人で、食堂のご飯を食べながら、お話をする。

 今日のメニューは、平たいパンとイモと野菜のスープ、スパイシーなお肉に、ラザニアに似たナッスゥ(茄子)の重ね焼きだった。


(学食もこっちの風土料理が中心なのよね。今日のウェスちゃんの店でも美味しいのを一杯食べたから、今度は暇ができたら、食事を自分で作って食べようかな…)




 アーシア自身、時間ができたら()()でもやりたいことがあった。

 ウェスとジュェワ物産の店に行ったときに購入した大豆のことだった。

 もちろん、醤油(しょうゆ)らしいものの試食はすでに済んでいる。醤油よりも塩味が強い魚醤に似た感じだった。若干違うので、心が折れる。


 そう、醤油である。醤油とみりんで甘ダレである。

 できたら、蒲焼(がばや)きが食べたい。急に食べたくなってしまったのだ。

 実は、物産店で入手した珍しい見た目の鮮魚、ムナギを鑑定したところ、どう見ても、(うなぎ)だった。姿は胴が太くて長い不思議な形ではあったが。

 そうしたら、どうしても食べたいわけだ。空間収納で時間が止まっているのでいつでも新鮮だ。


 もともと、醤油(しょうゆ)味噌(みそ)、とうふなどの大豆(だいず)発酵(はっこう)食品(しょくひん)や、みりんはどうしても作りたかったものだ。

 できたら、また今度物産店に行ったら、煮干(にぼし)しやら昆布のような海藻で出汁になりそうなものはあるか探してみたい。

 しかし、如何(いかん)せん、時間が足りないので後回しになってしまう。


 だがしかし、アーシアには、3d複製機(ふくせいき)なるものがある。

 懐かしのサバイバルバッグには、あちらの世界から持ってきた各種調味料(携帯サイズ)と、酵母パウダーなどニッチなものまで入っていたため、持参していた。

 今までは、中々自由に使う機会がなかったのもあって、携帯サイズとはいえ結構残っている。

 また、アーシアのサバイバルバッグの中には、あちらで家庭教師のバイトの参考に化学が苦手な子だったので科学系の本と、自分の趣味と重なったため、「発酵生活の科学」という本とその実見本も持っていた。

 このような、本は数冊あってここでの授業にも役立つのではと、期待していたのだった。


 極めて久しぶりの3d複製機を使い、まず、納得のいかなかった現地の醤油である。

 先ほどの本によって、必要な材料はほぼ分かるので助かった。ラベルの後ろにも書いてあるがどのような仕組みでまたは量が分かるのはよかった。

 梱包(こんぽう)してある醤油と、大豆、一応の中和剤も入れて、機械を起動させる。


「わあああ!!やった。できたかも」


 今回は液体なので、釜の部分に残っているので、瓶の容器に入れる。3本分くらいできた。

 釜に残った醤油らしきものを、指で(すく)って舐めてみると、


「めっちゃ、しょうゆ!!」


 まぎれもないお醤油の味である。これぞ正しいチート??そんな風に思いながら、ワクワクしてはやる気持ちを押さえられないアーシアを見て、


『どうしたんだ?ご主人。

 なんか、いつもとちがうぞ…どうしたんだよう』


 マドカが、心配してるのと不安で両手をついて座り、遠巻きに見ている。

 アーシアは、2本の醤油瓶を空間収納に入れて、シンクで3d複製機の釜の部分を洗いながら、マドカに言った。


「ふふふふ、お醤油って調味料を、増やすことができたの。それはね、あちらの世界のわたしが住んでいた国の懐かしの味って言うのかな?

 …ちっとも、向こうには未練なんてないんだよ。でも、食べ物はできたら再現したいんだよね。

 自分だけでも、こそっと食べるなら大丈夫かなって…」


『この間の唐揚(からあ)げとかもそうなのか?』


 マドカが急に目をキラキラさせて聞いて来た。


『そうだね。この間は塩だれベースだったけど、お醤油ベースのも美味しいよ!』


『うわあああ!!!』


 マドカもすっかり興奮したようだ。


 醤油のような発酵食品のコピーは、不思議である。何故なら、微生物の作用によって作られるものだからだ。

 今までの経験やオットー先生の授業を受けても、発酵を促進させるため錬金術は非常に有効だということは理解できる。

 しかし、複製の場合、生きている微生物を生み出せているのだろうかと。今の実験では、元の世界の醤油という実物も材料にしているのでそのためかもしれないが。

 いつか、一から醤油をあちらベースのクオリティで作れたら良いなと、アーシアは思っていた。


 さて、物産店で購入したムナギという魚のことであるが、何度も言うが、これは、ぬるぬるした皮を持ったずんぐりして長い身体(からだ)の魚であった。

 家に帰って鑑定すると、姿はかなり違うが、結果はアーシアの思っていた通りだった。


 [ムナギ(魚類・レア):川や湿地に生息する長い魚。脂がのって濃厚で香ばしい味わい/

 蒲焼き・白焼きに最適/ 

 食用時:一定時間【スタミナ回復速度上昇】効果あり]


(うん、完全に「うなぎ」!もう、ほとんど、(うなぎ)でいいんじゃない?…)


 この鑑定結果を見て、急に蒲焼(かばや)きが食べたくなってしまったのだ。


 丁度アーシアにとって洋食ばかり食べていて、和食が食べたくなるあるあるかもしれない。

 こちらに来てかなり経っているので、普通の日本人なら遅いくらいだ。


 そうなると、もう一つ必要なアイテムがあって、それは、みりんであった。

 勿論(もちろん)、なくても作れないことはないが、おばあちゃんっ子であったアーシアの味覚(みかく)には、みりんは欠かせなかった。

 あちらの世界にいた頃から、態々(わざわざ)みりん風ではなく、みりんを買っていた。一人暮らしして初めて買ったのは間違えてみりん風調味料で、作ってみてから気が付いたのだった。

 それでアーシアは自分がかなり、みりんの味を好むということが分かった。


 みりんは、酒の一種であるから、参考になるのはやはりオットー先生の授業だ。

 また、あちらから持ってきた、「発酵生活の科学」という本、これが非常に役に立った。あちらでは時間がなくて、まだしっかり読んでいなかったのでアルディアに来てしっかり読み始めたのだが、雑学本と思いきや、かなり学術よりの内容だった。出版社を見たら、やはりそうだった。


 みりんとは、本みりんのことで、漢字で味醂(みりん)と書く。みりん風がアルコール度数0.1%であるのに対し、本みりんは、なんと14%で清酒と同じだけあったりする。


 みりん醸造は、「一、麹 二、仕込み 三、熟成」といわれているそうだ。


 材料は、もち米・米麹(こめこうじ)焼酎(しょうちゅう)と案外シンプルにできている。もち米はそれらしいのが物産展で購入してあり、焼酎はこちらの米から作ることができないだろうか。

 米麹や種麹(たねこうじ)は、あちらの世界ではそのまま売っているが、ここでは一から作らないといけない、そんな風に漠然と思っていた。

 日本でも昔は、稲などから菌を採取して、他の余分な菌を灰を使って殺菌することで純粋な麹菌を培養していたそうで、現在は精米の表面にほんの少し傷つけ、蒸らしてヌカ層を麹菌の栄養にする方法だ。

 因みに、麴菌のことを学術用語で、Aオリゼーという。この世界にいるかいないかわからないが、是非ともお迎えしたい、Aオリゼー氏。


(これができたら、きっとお味噌もできるに違いない!)


 アーシアは、作業しながらずっと、この名前をぶつぶつと呟き続けていた。

 ふとサバイバルバッグを探ると、そこにはパックご飯が残っていた。――そう、〇とうのご飯だ。

 つまりアーシアは、無意識のうちに「Aオリゼー氏」をこの世界へ同行させていたのだ。


(いける!これはいける!!)



 気が付けば、自分の傍らで頼れる発酵博士が腕を組んでにやりと笑っているような気がして、アーシアの心は希望に満ち、踊りまくっていた。


「……って、待って。いやいや! いやいやいや…

 こんな衛生管理の行き届いたレトルトご飯に、麹菌が生き残ってるはずないじゃない。

 日本企業なめんな!」


 日本のメーカーへの誇りとともに、アーシアの心は急降下。ちょっと残念である。


(だとすると……あ! そういえば、家庭教師用の教材に“発酵の見本セット”を作って、その中にあったような……。もしかして、あれに種麹が混じっていたのかも?)


 アーシアは納得して小さく拳を握った。


「そうか、そうだったんだ……無意識に、ちゃんと連れてきてたんだな、Aオリゼー氏!」




『え~おりぜぇー、えーおりぜー!えーおりぜーはげんき~

 えーおりぜーだいすき~どんどん、お・り・ぜー♪』


 ふわふわと浮かんでいた、マドカが聞き覚えのあるメロディにのせて歌っていた。微妙に音が外れているが、これは最近鼻歌でよく歌ってなかったろうか。

 そこに、可笑(おか)しな歌詞が付いているのだ。


「ね…ねねねねえ、マドカ、なんでそんな歌うたってるの?

 なんでその曲知ってるの?その歌詞はなに?」


『ん~?アーシアが…ご主人が歌っていたぞう。ほら、鹿と別れた後、いっぱい歩いたろう。

 その時はうたの意味はあんまりわかんなかったなんだけど、これ歌いやすいんだぞう!』


「Aオリゼーは、どこから来たのかな?」


『ん~、ご主人、さっきからずっと言ってるぞう』


(おおう……確かに言ってたかもしれない…

 ああ、どうしよう…マドカのせいで、この世界に“変な歌詞の童謡(どうよう)”が生まれてしまうかもしれない……)







 マドカは大変この歌を気に入ったのか、今後ずっとこの歌を聴くことになっていくのだが、アーシアはこの時はまだ知らない。



お読みいただきありがとうございました

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