63 勇者の事情
棒術のレッスンは、週に3回決まり、魂が抜けそうになったアーシアだったが、カルラ自身も訓練を同時に行うので遠慮しなくていいと言われれば、はいとしか言わざるを得ない。
初心者には、ちょっときつめのスパルタレッスンなのだろうか。
マドカもたまに付いて来て、一緒になって、ニャッニャッと、飛び跳ねて真似している。
一方、カルラの従魔は、孔雀のような色に長い尾を持つ美しい鳥で、かなりの大きさがあるそうだ。幻獣の一種、幻鳥というらしい。
この羽毛の色は特殊で、自由に周囲に溶け込んで移動することができるのだそうだ。
所謂、ステルス効果があるのだろうか。
マドカはどこで会ったのか、いつの間にか、カルラの相棒とも打ち解けて仲良くなっているらしいので、猫ではないのだな、と思うアーシアだ。
(マドカって、結構コミュ力おばけかも……鹿之丞ともルビィちゃんとも直ぐに仲良くなってたしな)
2週間目になった頃、ようやく身体が慣れて、体力も付いてきた。
時々、素振りをする視線の端から見える、カルラの棒の型は、流れるよう動き、舞踏か何かのようだった。
そうすると、フォームが崩れるのか、直ぐに気が付かれて注意されてしまう。
休憩のときに、水分を取りながら、
「そういえば、アーシアって、メインは何で戦っているの?サスマタ…ではないでしょ。
爆弾を使うイメージもないし…」
アーシアは鋭いなあと思って、カルラを見あげると、こちらを興味津々に見ているアンバーの瞳と目が合った。
「そうですね、言ったことなかったですね……
わたし、ちょ、ちょっと特殊で……」
「うんうん」
「錬金術を攻撃に使うんです」
「ええと、ヴィクトールくんみたいに?」
「そうですね、攻撃錬金魔法、同じカテゴリだと思います。
わたしのは、相手を瞬時に解体して、収納してしまう、というスキルです」
(とても、“ポッケナイナイ攻撃❞とは言えない……
それに、実際は空間魔法との複合スキルなのかな)
「ええええ…ユニークね」流石のカルラ先生も驚いている。
「ただ、相手が気が付かないで射程に入れば、問題ないんですが、相手に気が付かれると、スピードに追い付けなかったり、押し負けてしまったりして……
今までは、ラッキーで生きてこられましたが……結構、気が抜けないです」
「そうか…なら、相手を躱せるようになれたら、一番いいわね!
それにしても、モンスター相手に、あの不殺の得物を使うなんて……ふふふふふふ――」
また、お腹を抱えて笑い出す。そんな仕草も優雅さが崩れないのが不思議だ。
「そういえば……カルラ先生は、草の魔術師ですよね。武術もとても、お上手なんで驚きました」
それにしても、結構な笑い上戸なのでは、とアーシアは思ってながらも、疑問に思っていることを聞いた。
笑っているカルラは、ふっと息を吐くと、なんてことないように言った。
「みんな、現場に出る1級ならやってるわよ。だって、魔力を省エネして肉体強化に回す方が、ずっと効率的だもの。
魔力を温存しておかないと、いざって時に使えないわ。魔力を無尽蔵に使える、バケモノなんて、早々いないわよ。
ああ、アーシアは、違うからね…ふふ」
(いえ、お気遣いなく。わたしも無尽蔵とまでいきません。多分……。
MP切れて、倒れたこともあるし……)
そのように、棒術のレッスンに通うアーシアだったが、この練習場に来るまでは一般学部の中を通らなくてはいけないので、人目がかなりある。
折角、カルラの気遣いで、この運動場を使わせてもらっているので、あまり目立ってはいけない。
かと言って制服は持っていないので、その日は、着替えやすい編んだ紐がアクセントになった太いハイウェストのベルトのフレアスカートと小さな刺繍飾りの入ったブラウスの普通服に、白衣は着ないで行くことにした。
髪も普通の学生のように、ハーフアップにして、さり気ないリボンで結んでいる。
今日はマドカが肩に乗っている。普通の猫従魔くらいなら誰も気にしないからだ。
運動着は、向こうに行ってから着替える場所もあった。あの運動場は、どんな構造をしているのだろう。やはり迷路、メイズの中ようだ。
《げえ…》マドカが突然、念話で呻いた。
《何?どうしたの?》
その日は、なにやら一般学部の庭に人があまりおらず、だが、それを囲むような渡り廊下に人だかりができて、こっそり何かを見つめている。
庭の噴水の辺りで、数人の男子が一人の女学生を囲んで揉めている?ようだ。
(え、こここれは、巷で言う、乙女ゲームな展開? なんてったっけ……)
目立って見えたのは、その男女が皆揃って、見栄えが良く、黒っぽい髪の毛だからだ。
この世界にも、居ると言えばいるが、大概ほかの色が混ざっていたり、逆に真っ黒だったりする。
(あ、逆ハーレム?こ、これがうわさの?!)
こちらの世界では、あまり見ないような雰囲気に、アーシアはハッと思った。
(来訪者!
……そういえば、勇者一行が、学園に通い始めたって……)
奇異だったのは、周りに獅子やら大型黒っぽい豹や、半透明な狼とか鳥の従魔たちがいたからだ。
これは、普通の学生には珍しいだろう。狼の従魔だけは、他の生徒を気にするようにこちらを見ていた。
勇者一行なら、アーシアとしては、なるべく顔を合わせたくない。隠れる一択だ。
《マドカ、勇者みたいだけど……大丈夫?気づかれない?》
《ああ、大丈夫だよ。来訪者同士はお互い来訪者かどうかなんて、ぱっとは分からないよ。
従魔の方は、神獣だから分かるけどね。あいつら、聞かれたこと以外ほとんど言わないから大丈夫だよ。変だろう?
それに、おいらには気が付くだろうけど、おいらのこと、見下して、神獣扱いしないやつが多いし……》
マドカの頭を、ふにふにと撫でる。マドカも嬉しそうに目をつぶって、手にその額を押し付けてきた。
本来なら、勇者が学園に通学するのは、一年間と決まっていたそうだが、今年からは暫定という形で、それ以上いるらしい。
なんでも、もっとこの世界に馴染んで、訓練を積んでから旅に出すという方針になったらしいのだ。
《前回のが、失敗まで行かないけど、討伐が不完全になっちゃって、
だからロクさん(鹿之丞)とこも、死の原から来るモンスターが増えたって言ってたろう?
そのせいなんだよね》
マドカが説明してくれる。なんでも、異世界からの召喚には周期性があるらしく、魔王が全盛期になる前に来訪者も増えるのだそうだ。
前回の一行は、勇者の中心になる人物が問題で、魔王討伐がうまくいかず、今回の来訪者たちも、早く召喚されたようなのだ。
パーソナリティが幼かったこと、訓練が不十分だったことを考慮して、学園生活を伸ばして学んでもらおうとのことらしい。
勇者には早く討伐に行ってほしいが、でも失敗は避けたい、という選択によるものだったそうだ。
よく見ると、二人の男子が一人の女人を巡って言い争っているようだ。もう二人の男子をよく見るとあまり会話に入ってないようだった。
子供のように若い。ここに入ってきているのだから、同年代だろうに、他の学生に比べても幼く見える。
(まあ、平和な世界から来たんだから、違うよね……いろいろ大変だろうな)
それとも、実際に皆より若いのだろうか――
ただ二人の遠巻きにしてる内の、一人の背の高い男子は少し違った。輪の中から少し離れて仲裁しているようだ。
その背の高い男性は、かなり大人っぽく筋肉質で、背も高い。まるで制服に着られてるようなちぐはぐな違和感状態だった。
その非常に困ったような顔をしていた背の高い男性が、パッと不意に、アーシアと目を合わせた、ように見えた。
(ひっ?!目が合った?)
その瞬間、ドンと後ろの方から背中に衝撃を受けて、よろめいた。人垣をぶつかるように、一人の砂色の髪の男子が急ぎ駆け抜けていったのだ。
だが、無理に人を当たって抜けようとするため、方々で不満の声が上がっている。
過ぎ去るとき、男子学生には不似合いな、タバコのような甘い香水の匂いがわずかに残っている。
(あ、あの子……)
アーシアは、その男子学生を気にしながらも、移動場所が空いたので裏庭へ向かう。
庭に出ると、庭師らしいちょっと若めのおじさんに出くわした。時々、こっちに来るとお花の話などの世間話を交わすようになったなったおじさんだ。
こちらの世界の花の名前などを教えてくれるので、花も好きなアーシアは、勉強になって嬉しかった。
長い渡り廊下を小走りに行く、砂色の髪の男子が角を曲がるのが見えた。
庭師はアーシアに気が付くと、
「あの子、一般の学生じゃないのによくこっちに来てるんだよね……
友達か、ガールフレンドがいるって感じじゃないんだけどねぇ」
と、つぶやくように言っていた。
アーシアは、急いでいたので、また後でと会釈して先を急いだ。
アーシアは、本当に隠し切るつもりなので、勇者一行とは積極的に絡んで勇者の旅に出るような展開はありません。すみません(汗)
背の高い来訪者と目が合ったのは気のせいではないです。
アーシアが可愛いなと見ていただけです。ちょっと、好みのタイプだったんでしょう(笑)
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