59 ニャンこ救助計画
サムくんから急に誘われた、先生方との宴会は、混沌の中で終わった。
まず、アレッサンドロ先生が、倒れたので、助手の二人が慣れた様子で迎えに来ていた。
(ハンス先生とクレッグ先生?アレッサンドロ先生の助手さんなのね……)
と、二人を見て気が付いた。ハンス先生は、こちらに気が付いて小さく手を振ってくれた。
その間、皆で片づけし、余った唐揚げも分けた。
カイトさんは帰りに、普段から騎獣にしている従魔のきれいな巨竜鳥に会わせてくれた。
様々な緑色と赤茶の魔獣さんで、大きいが可愛かった。俊足で風系のカイトさんとは相性がいいらしい。
「また、ポーション売ってくれよ。カカン味もいいけど、あのシュワシュワするMPポーションも最初は驚いたけど、スッキリして疲れがとれておいしかったなあ。癖になる味だね」
と、MPポーションのソーダ味を甚く気に入っていた。開発し甲斐があるというものだ。
サムくんも、泥酔していたので、ヘルマンさんに抱えられて運ばれていた。
サムくんはお酒は弱くないのだが、沢山飲むのだそうだ。
また、行きに御者を務めたのも、酔っていいようにだそうだ。
待っていたマドカは、一緒に居たマルコ先生の従魔と仲良くなっていた。あちらはマドカが神獣だとすぐに気が付いたらしい。
マルムーのルビィは明るい性格で礼儀もしっかりしている、よいこだったそうだ。マドカの気持ちが少し癒されたのか顔が明るくなっていて、よかった。
ヴィクトルさんは、涼しい顔で飄々と帰っていった。
宴会に集まった人たちのほとんどは、学園所属特別執行部の実行部隊の隊員さんなので、彼らには先生呼びはしなくていいとのことだった。
アーシアは、振り返って、場違いじゃなかったかと思うこともあったが、鹿之丞の言葉通り、よいめぐり逢いになったのではと、また、サムくんの元気そうな様子も見れてよかったと思っていた。
授業の合間を縫って、アーシアは、マドカのヴァスキス神聖国にいる兄弟たちの救助用器具を作ることに集中した。
所謂、赤ちゃんの保育器だ。元の世界の保育器とは未熟児を保護して育てる医療機器で、容器内の湿度と温度を一定に保つことで未熟児が生存できる環境を作り出すことを目的にした道具だ。
あちらの世界では酸素や栄養の供給からバイタル管理など様々な高度な機能を持つ生命維持装置なのだが、元々は孵卵器から開発されたものだ。
英語名でインキュベーターは卵を孵化させる孵卵器で、歴史は数千年前の古代エジプト時代からで、鶏卵を保温するために使用された。
孵卵器の出現で、鶏が卵の上に座らなくても雛が孵化しより短時間で多くの卵を生むことができるようになった。
元の孵卵器のアイデアの元は火で暖められた部屋に、係員が一定の間隔で卵を回転させて熱が均等に行き渡るようにすることだったそうだ。
マドカの兄弟たちの様子によると、あちらほど、高機能生命維持装置のものでなく、もっと初期のものに近い単純なものでよいだろう。
まず、ガラスカバーになる箱型のものだ。それは以前の3d複製機等で作ったように、特性を上書きして中の空間からなるべく神聖力を逃がさない作りにする。
そこになる箱は二重構造で元になる宝玉を入れる場所と、内側を適温に温める魔石を配置する場所だ。その上に猫が入る。
次に宝玉作りで、これはマドカのブラッシングで出た、大量の抜け毛を材料に作ることができた。
マドカの抜け毛がなければ、神聖力のあるアイテムなど入手できてなかったため、詰んでしまったので「マドカ、グッジョブ!」だった。
作りとしては単純なので、比較的直ぐに作れたが、時間がかかったのは、この保育器をヴァスキス神聖国の兄弟たちに送るための手段だった。
以前、スキルウィンドウの空間創造魔法のなかの空間扉から、枝分かれして新しいスキルが出現した『扉から扉へ』というスキルを発展させるのだ。
この『扉から扉へ』は、マドカのような神獣のテレポートのように一度行ったところなら開くことができるスキルだった。
はじめは本物の実在するドアを魔法で出して使っていたが、レベルを上げれば、空間扉を組み合わせることによって、決まったドアでなくても開くことができるようになった。つまり、実物のドアではなく、空間扉・エアドアを用いる方法だ。
分かれ元が空間扉からのせいか、組み合わせしやすい系統だった。
ヴァスキスの教会は、アーシア自身は行ったことがないが、従魔であるマドカとの絆の共有のお陰で、兄弟たちの面倒を見てくれている神官さんの部屋まで、『扉から扉へ』をなんとか開くことができたのだ。
初めは5㎝くらいの戸しかできず、苦戦した。その代わり猫たちの詳しい様子が分かってきたのだ。
空間扉が作れるようになって、『扉から扉へ』が広くなったとしても、弱った猫たち(生き物)を通すのは心配で、そのまま神官さんに預かってもらうことになっていた。
おまけに、アーシア自身も学校の授業で忙しかった。
なので、保育器が通過できるサイズまで修行しないといけなかった。そのため時間がかかったのだ。
「マドカ!保育器あっちに送れるよ!!」
アーシアの空間創造魔法は、保育器が通るほどのドアを作ることができるようになった。
『やった!!』
マドカは跳び上がって喜んだ。途中一度、心配過ぎてマドカは『扉から扉へ』・ドアトウドアの実験を自分でしようと、無理やり潜ろうとしたことがあった。
途中で術が切れてしまう危険もある、アーシアは、まず物からと必死で止めた。
空間扉を生成して、『扉から扉へ』・ドアトウドアを展開し、そのできたドアをノックした。今の時間なら神官さんがいるだろう。実験を通して、神官さんは一人でなく協力してくれる人も何人かいることが分かった。
この神官さんたちは、教会の主たる派閥から外れた人たちで、口も堅い。マドカとも親しくしてくれていたそうだ。なので、マドカがアーシアの特殊な魔法『扉から扉へ』とアーシアのことは、秘密にするよう約束をしていた。
教会では、邪険にされていたマドカでも、優しくしてくれた人たちがいたことは、本当に有難いことだ、でなければもっと痛ましかっただろう、とアーシアは感じていた。
あちらから、ノックがし返される。この扉は他者でも触れれるようだ。
扉を開けた。
「お待たせしました、保育器ができましたよ。猫ちゃんたち大丈夫ですか?」
「保育器?というのですか?」
いつもの神官さんの声だった。少し年配の女性の声だ。
「はい、この箱の中に、猫ちゃんたちを入れてあげてください。必要な神聖力と温度が保たれています。透明の部分に空いている穴から入れてあげてください」
そう言って、アーシアは保育器を通した。相手が落とさないよう安全に受け取ったことを確認して、保育器の使い方や説明事項を伝えた。
とはいうものの、簡単に使えるものなので大丈夫だろう。
「何か問題がありましたら、言ってくださいね。また、同じくらいの時間に扉を開きますので」
程なくして、アーシアの作った保育器は十分役に立って、兄弟猫たちが無事元気になり、ご飯や水も自分で飲めるようになったと報告された。
元気になっても、神聖力の供給は続けなくてはいけないので、保育器に入っていなければならない。
だが、もっと元気になったら、保育器から外で遊んでまた帰ってくるなどの自由ができるだろう。
アーシアは、ホッと胸をなでおろした。
嬉しい知らせ次いでに、ちょっとしたアクシデントがあって、アーシアは、ぎょっとなった。
マドカが興奮して、『扉から扉へ』を通ってしまったのである。
心配しているアーシアに、
『ほら、おいら、大丈夫だったでしょ。テレポートするより楽だなあ!』
などと、のんきに言っていた。
お読みいただきありがとうございました




