58 宴会といえば唐揚げでしょ!
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「なんか今日、肉足らなくありません?」
「ああ、デリバリーんとこが、肉が足らないって持ってこなかったんだってー」
「そうなんですよ。申し訳ありませんって、言われましたよ」
「ふふふ、困っちゃうわね」
「や、カルラ先輩は、酒さえあればいいでしょ」
「なに言ってるの、レディに失礼ね。そういうあんたもペース早いわよ」
「いや、これは麦ジュースですから。麦じゅーす!!」
「もう、酔ってるじゃないの…?」
カルラさんとサムくんの楽し気な掛け合いが聞こえる中、
(サムくんが、師匠と同じこと言ってる…お酒を飲む年になるとは…
…歳月って早いものだな)
と、何とも言えない気持ちになるアーシアだった。
確かにこの量では、みな沢山食べる人たちのようなので、足らないかもしれなかった。
(お酒だけ飲んでたら胃に悪そうだなぁ。そうだ!!)
「あのう、わたしが何か作りましょうか?
空間収納があるので道具とか食材も持っています」
「え!いいの?」
そう言いながらみんな嬉しそうだ。
(何がいいかな?そうだ、ゲアラドに着く前のコッコカリスの肉、あとひき肉がいっぱいあったよね。
以前ギルドの上の階に間借りしていた時、塩だれに沢山浸けておいて、その後仕舞ったものがいっぱいあったっけ。空間収納だから生ものも、魔法のようにそのまんまな状態なのよね…ちょっと初めは抵抗あったけど)
少し前にどうしても餃子が食べたくなって、皮を沢山作っておいたのもあったので、それが使えそうだった。
「ちょっと、どこか場所をお借りできますか?」
「私たちの後方じゃなければどこでもいいけど…そうだ、私たちの正面の奥はどうかな?」
「はい、では、いろいろ出しますので…
……わたしの収納大きめなんで、…びっくりしないでください」
「ああ、あのテントが丸ごと入っちゃうなんてすごいよね。うん、わかった」
後ろに行って、作業台とポケットコンロを2台出すと、大きなバッドにコッコカリスの鶏肉を入れ下味をつけて揉んで味が浸みるまで放置する。
その間に、ひき肉と、ニラのような野菜でガリクチャーイブというのをみじん切りにして餡にして、皮に包んでいく。
「あら、なにしてるの?」
とカルラに言われたので、
「これ、やってみます?餃子って言うんですけど…」
「なになに?こっちにいらっしゃいよ」
そして、周囲に餃子の包み方をレクチャーしたりしていると、訓練場の方角から、ファイヤーと、聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
「わああ、サ、サムくん?!」
「大丈夫、いつものことだから。ほら、見てて!
そのためにこの二人が、ここにいるんだから」
「エクスプロージョン!」「ディストラクション!!」「ディストラクション!!」
「ファイヤー!!」「イグニッション!」「ファイヤートルネーード」
「ワハハッハハハハ!我輩にひれ伏すがいい!!」「ワーハハハハハ!」「汚いものどもめ!ハハハハ!」
いつの間にか訓練スペースに移動していた、サムくんは他の二人と共に、酷い爆音を上げながら、次々に的を焼き払っている。
ヴィクトルさんは、丸太の的を大きな破裂音をさせながら爆散させ、アレッサンドロ先生は、手のひらサイズの爆弾をどんどん投げて爆発させている。
アレッサンドロ先生は、肩が野球選手のようにとても強いな、ヴィクトルさんは、攻撃錬金スキルか~と、ぼんやりアーシアは考えていた。
あれ、とアーシアは漂ってくる臭いに気を取られた。
(なんだろう…あ、アレッサンドロ先生の爆弾の臭い…
そういえば師匠に貰ったのと同じ臭い、これに似た臭いをどこかで…)
「あれが、学園名物の
破壊の奇術師、爆炎のマッド科学者、劫火の狂犬だよ。
それで、あっちの二人は防御結界のために来てるんだ。所謂、お目付け役だね。
ここで宴会をするのもアレのため」
「…それにしても、いつもよりアレッサンドロ先生は、爆弾いっぱい持って来てるようだね…
ああでも、防御結界なら、大丈夫だよ」
カイトが説明した後、ステファンが不思議そうにアレッサンドロのことを言う。
それに対して再びカイトが声をひそめた。
「ああ、彼、長い間の許嫁が浮気した上に、新しく婚約までしたんだってさ。
よりによって薬学部の男と。気持ちわかるよね」
爆発の激しさに気を取られ、詳しい話の内容が入らずアーシアは思考を遮られたが、会話の中の強烈な二つ名に一気に意識を持っていかれる。
「ええー…と、お料理の…火気だいじょうぶですか?!」
「大丈夫、大丈夫。私たちがここで防いでいるから安全ですよ。
どんどんやっちゃって」
うんうん、慣れてますとヘルマンさんも頷く。
「ええー?!」
(油使うので、本当に気を付けてくださいよ…)
流石、鉄壁のスクードヘルマンさんと水鏡の貴公子ステファンさんは、まったくテーブル側に被害を寄せ付けない結界を張っている。
片方が水魔法なので、あちら側が霧ですごくなってこちらからは見えない。小さな破片が飛んできても、慣れた様子で鉄壁の結界で防いでいた。
大丈夫だろうか、と思いつつ、テキパキと中華風な深鍋とフライパンを出して、用意をする。
できた餃子はフライパンに並べ、適サイズに切ったコッコカリス肉に粉やらを塗して、もう片方のポケットコンロで揚げる。
じゅわーと、音がしよい匂いと共に油に気泡が湧く。餃子は焦げ目が付いたら水を入れ蓋をして蒸らす。
唐揚げを次々とバッドに上げ、餃子をよそう。完成した分をテーブルに持って行った。味はしっかり目についているので、タレなしで食べてもらう。
「あ、これさっき私たちも協力した…ギョウザだった?美味しそうね」
「焼き加減、皮の光沢、形もブリリアントですな」
「「おいしー」」
結界を張っている二人には、近くまで持っていってあげると、
「これは、ギョウザは、バリっとして中は肉汁が…美味しい…
それにこの肉を揚げたもの!うまい!!」
「ふぅん、まい!ふふ、うまい!!」
ヴィクトルさんが、あちらから手を止めて、不機嫌そうに、
「的がもうないんだけど…なに?新メニュー?うーまそう!」
鉄壁のスクードさんと何やらもめていたが、スクードさんがあちらに行った。そういえばあちら側の少し土ぼこりが無くなっている。
ヴィクトルさんは、んまんまと言いつつ、立ったまま、口いっぱいに唐揚げを頬張っている。
暫くして、スクードのヘルマンさんが戻ってくる。
「できた」と、ぶっきら棒に言って、席に着いた。
んーっと口に一杯、さらに唐揚げを詰めて、手を振ってヴィクトルさんは戻って行った。
いつの間にか、唐揚げ大きい一皿も消えていた。
三人共に酔っ払いかと思っていたが、彼はいつも、お酒を飲まないで、素でやっているというのに、可笑しな人だと、宴会参加者は言っていた。
全部破壊し尽くすと、ヴィクトルさんは対象物がないと『破壊』・ディストラクションスキルが使えないので、ヘルマンさんが、的代わりに適当な岩を用意してあげるらしい。
皆よく食べる、アーシアは、餃子はなくなったので、唐揚げのお代わりを唐揚げ製造機のように次々と揚げまくった。
(この人たち、この学園の第一人者でいいんだよね……コッコカリスをいっぱい狩ってよかったな)
なかなか、見た目も華やかで個性の強いメンバーだなと、思うアーシアだった。
お読みいただきありがとうございました




