57 宴会は突然に
練習場を背にして、水色の長髪の男の人と、大きな身体に少し浅黒い肌の人が座った。
そこは定位置らしく、あとは好きに座っていいよと言われた。
紫紺の髪のチャラいお兄さんは水色の人の手前横に、あとは空けて、後ろの席から皆座った。
そのタイミングで猫背のひょろっとした高い頬骨で、目には小さい眼鏡をしている、癖のある黒髪の白衣の男が入って来た。
腰には大きな袋を括りつけていて奇妙な姿だった。
「ああ、間に合ったようだな。我輩が来なければ、始まらないからね」
「いや、そんなことないよー」
紫紺髪のお兄さんが合いの手のように軽く返した。
「酒の用意はいいのかね?」
「わーい、待ってました。アレッサンドロせん・せい~」
そう言って、アレッサンドロ先生は、空いている紫紺の髪のお兄さんの前に座った。
「そういえば、新顔じゃないか。我輩への紹介はまだか?」
と、顎をくいっと突き上げた。サムくんが慌てて、
「ああ、この人は、オレのお姉ちゃんみたいな人で、
オレの母さんの弟子で、アーシア・デイスって言うんだ」
サムくんが、ちょっと改まって言った。アーシアは立ち上がって、ぺこりと頭を下げた。
「アーシア・デイスです。錬金科4年に編入しました。
よ…よろ、ろしくおねがいしまゅす」
(あ…噛んだ…)「……この子は、従魔のマドカです」
小さなテーブルを出してもらって、クッションを引いて座っていたマドカが、元気よくにゃーんと言った。
「そう、かしこまらなくても構わんよ。
我輩は、アレッサンドロ・ヴィスコンティ、錬金科だ。貴様の先達にあたるな」
「こっちの先生は、応用の准教授だよー」とチャラ兄さん。
「なんだ貴様ら、まだ自己紹介もしておらんのか?」
お兄さんを無視しながら、アレッサンドロ先生は言う。見た目ほど、奇抜な人ではないのかもしれない。
我輩なんて言うのは、ハ〇ーポッ〇ーのス○○プ先生しか記憶にないが、なるほど見た目も少し似ている。もっと痩せてはいるけど。
「そうだね、私はステファン・デルメールという。1級水魔導師だ。会えて光栄だよ、アーシア・デイス」
コンロ愛用者の水色の髪の人は柔和でハンサムな人だった。物腰も少し優雅な感じだ。
「水鏡の貴公子って言うんだよー。
そっちの大きいのは、鉄壁のスクィード」とチャラ兄さん。
(スクードって、盾っていう意味かな?すごい、それっぽい。貴公子も鉄壁の盾さんもイメージぴったり)
「ヘルマン・グラウベンだ。自分は、2級岩魔術師だ」
照れたように言ったのは、鉄壁の盾の2つ名がある、短髪で浅黒くはっきりした顔立ちの一際大きな男性だった。
「私は《絢爛華麗の栽培家》カルラ・アイビー、1級草魔術師よ。
今日は女の子同士よろしくね♪」
「カルラ先輩は、巷では、'魅惑の花の魔導師’のほうが有名ですよね~」
とサムくんが横から言うと、
「自分から、言うものじゃないわ」
と艶やかに躱していた。
いや、豪華華麗も結構……とサムくんが酒を片手にごにょごにょ言っていた。
カルラさんは、女性でもポーっとなってしまうような美しい妖艶な女性だ。スタイルもすごぶるよく、優雅に足を組んで座っている。
その隣で小さく座っているのは、口ひげと金髪を綺麗に流してセットしてある中年の男性で、
「マルコ・ブリリアだ。細工科の教師だよ。学科は違うが、興味があったらいつでもおいで。
今日はわたしもここにお邪魔してるよ。
わたしも従魔と一緒なんだ、君の猫くんと一緒に居させて貰ってもいいかな?」
そう言って、懐から小さな生き物を出した。
「まあ…」
ずんぐりした茶色いクワッカワラビーに似ているが、やや小さい。
(可愛い動物。でも、マドカは猫だけど、大丈夫かな?ちょっとねずみっぽいけど……)
気にする風でもないマルコ先生を見ると、大丈夫なのかもしれない。マドカが念話を使ってきた。
(大丈夫だぞ。まかしとけ!面倒見といてやるよ!)とのことだった。
「マルムーという動物でな、とても温厚なんだ。
ルビィって言うんだ。マドカくん、いいかな?」
マドカは、ルビィを見て、大丈夫だよと言うようにニャンと鳴いた。
マルコ先生が立ちあがって、ルビィを近くにやると、お互い鼻をふんふんくっつけて挨拶していた。
「うん、ブリリアント!」
一度、2匹を撫でると満足して戻って来た。
「ほら、あんたも、自己紹介しなさいよ」
カルラに急かすように、紫紺髪のチャラい感じのお兄さんに言った。
お兄さんは面倒臭そうに、一度伸びをしながら、不服そうにえーっと言った。よく見ると、態度のせいか若いと思っていたが、そこまで若くないかもしれない。
それでも、皆の眼差しによる無言の圧力で、
「僕は、特級錬金術師のヴィクトール・ビィドメイヤーだ。ヴィクトルでいい。
授業は持つことはほとんどないけどね。よろしく。
発明家のアーシア・デイス、サン」
と、軽い感じで言った。
アーシアは一瞬で、鳩が豆鉄砲を食ったようにぽかんとした。
「び、び、びびびび…………」
「ど、どうしたの?」
カルラが言葉とは裏腹にげらげら笑いながら聞いた。
「ビィドメイヤー先生ですか?!ビィドメイヤーの錬金術の本の!」
アーシアは、ちょっと食い気味に言う。
「僕は、特級のほうのビィドメイヤーね。天才のほう!
本の方は僕の大叔母さんだ。やんなっちゃうな~未だに、この反応ー」
「す、すみません…とても…ずっと尊敬しているので」
「ん~そうだね、僕を尊敬するのはセンスがいいよ」
「いえ、マルゴ・ビィドメイヤー先生をです」
「え~~~」
当然ヤジなどが飛び交う中、宴会は和やかに続いていた。アーシアも、どうぞどうぞと勧められて、結構沢山食べてしまった。
パイ皿を分けてもらうと、その中にはミートソース仕立てのパスタが入っている。独特なスパイスも入っているのか、物珍しく美味しかった。
「やあ、もう始まってしまった?」
ふざけて突っ伏しているヴィクトールの横に颯爽と緑髪の男性が座った。その男性がアーシアに気が付くと、
「あれ、君は、カカン味のポーションのお嬢さんじゃないか?!」
「あ?!カイトさん、でしたっけ。あの節はどうも……」
「いや、こちらこそ、助かったよ。カイト・ゴットフリート、風魔術師の1級なんだ」
「あれ?カイト先輩、知り合いですか?」サムくんが、驚く。
「ああ、ついこの間の任務、ほらゲアラド地区の…あれ。
俺、へましちゃってさ。ポーションが急に必要になったんだ」
「珍しいですね、貴方が失態をおかすなんて」
と、水鏡のステファンさんが、優雅に串焼き肉を食べている。
(串焼きすら、上品に食べられるもんなんだなぁ)
と、アーシアは密かに思った。
「え~、おまえ、逃げ足は速いもんな~光風の精霊でもへますることあるんだな」
串から肉を乱暴に歯で引き抜きながら、ヴィクトルさん。
「ああ、ちょっとね……
そうそう、ポーションだけじゃなくて、ステーキもごちそうになったんだよ。めちゃくちゃうまかった!」
「ああ、お姉ちゃんの料理はめっちゃ美味しいんですよ!」
サムくんが、自慢げに言うと、
「お姉ちゃんって?君のお姉さんは見たことあるけど?
それに――お前より年下なんじゃない?」
「っ、や、オレの母さんの弟子なん、です」
カイトさんにはちょっと丁寧なんだなと思いながら、
「あ、アーシア・デイスです」
「デイスって、あの?ポケットコンロの?」
「「「「「そうだよ!!」」」」
と、合唱のようになるので、アーシアは顔が赤くなるのを感じた。
「わあ、君、うちの生徒だったんだね」
「はい、今年度から、お世話になってます」
恥ずかしいが、声を絞り出して返事する。
「それでは、みんな揃ったところで、乾杯しましょうか?」
美人のカルラさんが、澄んだ声で言った。
「え、でもみんなもう飲んでるじゃん!」
カイトがみんなを見回して拗ねたように言った。
「乾杯は待っていましたよ」「………」
「「「「「かんぱーい」」」」」
なかには、すでに酔っぱらいの声も混じっていた。
先達:(せんだつ/せんだち)1.先にその道に通達して、他を導く人。先輩。2.先に立って案内する人。
ここでは、せんだちと呼んでいます。アレッサンドロの個性と思っていただけたら幸いです
お読みいただきありがとうございました
楽しい回がお届けできていているでしょうか?
また、よろしくお願いいたします




