53 学園初日
「あなた、アーシア・デイスさん?私は、エミリー・ファウラー。
アーシアさんに学校について説明するように先生に頼まれてるの。
こっちにどうぞ」
しっかりしてそうな金髪の女の子だ。お洒落な私服の上に白衣を着ている。
「こっちは、私の友達のソフィー」
隣にいたたっぷりした青味のあるブラウンの髪を、幅の広いヘアバンドで留めた、愛嬌のある女学生が、
「ソフィア・ベルナールよ」と柔らかい声で言った。
「それで、こっちの二人の男子は、ルーカス・ローゼンとエリアス・シュミット。
貴女に早く会ってみたくて来たんですって」
「ルーカスって呼んでよ」
「ぼくはエリアスでも、シュミットでも好きにどうぞ」
ルーカスは人懐こそうな茶色い犬っぽい雰囲気で、エリアスはグレーの猫っぽい見た目だった。
エミリーとソフィーは顔を見合わせて小さく笑いあうと、二人を小突いた。
5人で向かい合うように座ると、4人から口々に、いきなり飛び級で最終学年に入学したアーシアは、かなり有名なのだと言われた。皆、屈託ない感じで嫌な気はしなかった。
「まずね、ここの正式名称は、分かってると思うけど、セドゥーナ国際総合学園の大学にあたるのね。
世界中から生徒が集まってくるから、かなりのマンモス学校よ。
一般教養学部系と魔法学部系があって、魔法学部系に錬金学部があるわ。
見ての通りとても広くて、町一つ分くらいの敷地があるわ。
国の中枢をになう一大プロジェクトだからね」
産業学部はちょっと違うんだけどね、事務的なまとめね、とエミリーが言う。
学園は、魔法学部、薬学部、錬金学部、鑑定学部、産業学部、一般に分かれていて、裁縫、細工、鍛冶は産業学部になるそう。錬金術は人数は少ないのに学部なのだそうだ。
魔法学部には、魔法科に火、風、水、雷、岩、草、氷があって、一般には、いわゆる教養系学部と、武術運動学科があるそうだ。
また、神聖魔法に関しては講師が教会から派遣されている。
神聖魔法を本格的に学ぶには、ヴァスキス神聖国のアカデミーに行くのだそう。
錬金学部は、商売をするために入るものも多い。商業系に行きたい者は、鑑定スキルを持っている場合は、鑑定に行くことが多いそうだが。
4人とも実家が錬金術師で、2人は家業のために来ていて、エミリーは、いわゆる公務員になりたいらしい。卒業後すぐに就職でなく、一度、研究室に所属した後でという話だった。
またもう一人のソフィーは、魔法学部岩魔法科にボーイフレンドがいるそうで、彼の実家の稼業関連に就職希望だそうだ。
4人は、アーシアの飛び級転入に興味津々だった。
エミリーは、一度話を切ると、学校の冊子と見取り図の紙を広げた。建物が正門から左右が一般学部で、奥が魔法学部のような専科になっているようだ。
一般学部と魔法学部の建物は、ほとんど別の学校のように独立しているそうで、魔法学部は正門でなく別の西門という門を使っているのだそうだ。馬車のロータリーへは、西門から外回して行くそうだが、そちらの方が時間が早いとのことだった。
確かに、建物の形や場所を見ても、全く別の学校のように見える。
魔法学部の建物は、一般学科の大きな中庭を突っ切るように伸びた渡り廊下で繋がっているだけだった。
「魔法学部系は階級を取らなきゃいけないのは知っているよね?
商人になりたい人以外は必ず3級は取らないと駄目なの。
4級がLv.18以上のレシピの成功、
3級がLv.25、2級がLv.35、そして、1級はLv.42~50相当になるわ。
進級試験は随時やってもらえるから、心配いらないわ。
大体ここの教師陣は2級以上あるんだけど、1級クラスになると教師っていうより、学園所属の高ランク冒険者のような役割になるのね。エージェントっていうの。
だから、錬金術師として将来、職に就きたいなら3級を目指すのよ。あとは1級より上は学校だけでは取れないし、生産で持ってる人はいないからここでは関係ないかな」
アーシアは、説明に頷きながら聞いていたが、はたと、自分の今のレベルを思い出した。そう、エリクサーを作った時、確かLv.63だから、当然今はそれ以上あるのだ。
(うわ……上げすぎちゃった?でも、来訪者だからなのかな……)
ステータスウィンドウのセキュリティという名のレベル隠蔽でも、2級くらいにはなりそうだなと、思っていた。
しかし、本人は気が付いていなかったが、すでにポケットコンロという発明をしているアーシアは、入学時に分かる人には、1級相当だと思われていたのだった。
「あと、服装は4年生の錬金術、薬学は私服の上に白衣だから、制服を購入する必要はないかな。
下の学年は着てる子も多いけど、3年生になると大半の子は白衣になるのよね。
……まあ、色々あるのよ」
苦笑しながらエミリーが言う。
「うん、汚れたり、焦げたり、破れたりね」
楽し気に、男子が合いの手を入れた。
「そうそう、先生もだけど、ファーストネームで呼ぶのがこの学校では普通だから。びっくりしないで!」ソフィーが言う。
「どの授業を取るかは今から、オリエンテーションをするから聞いてね。で、校外活動は……」
わいわい4人で話をしていると、時間になったようで若い先生が入って来た。
ちょっと神経質そうな感じだ。
「皆さん、本年度のオリエンテーションを担当する、クレッグ・ホーソンです」
クレッグは、そう言って、ちらっとアーシアを見た。そして、直ぐに何でもないように話し続けた。
「今学期の選択科目については、1週間の間に履修届に各科目名を書いて、教務に渡してください……
錬金術部長は、ヘレン・オーエン教授、主任にマリック・ブラウン准教、講師に、オットー・ブラウアー、応用にアレッサンドロ・ヴィスコンティ教授が担当します」
「最後の応用はマニアックだから、出ても出なくてもいいのよ。人気ないし…が変わり者だし…」
こそっと、ソフィーが言う。
オリエンテーションが終わって、また、5人で話し出した。
「そうそう!学園の花形、有名人はね、何と言っても、さっき話してた、学園所属のエージェントなのよ!」
ソフィーが身を乗り出すように言うと、
「やっぱり、水鏡の貴公子ステファン・デルメールがかっこいいわよね」
と、エミリーが頷きながらため息交じりに言う。
「いやあ、やっぱり光風の精霊、カイトが安定して人気はあるね」
エリアスもそう言って会話に入って来た。
「今の新進気鋭は、2級なのに2つ名持ちの劫火の狂犬サミュエルでしょう!」ルーカスが言う。
「うーん、男子~」
「そこは同じ2級なら、鉄壁のスクード ヘルマン・グラウベンの方にしときなさいよ」
沢山の名前に混乱するが、学園所属冒険者?とでも言うのだろうか、を兼務しているエージェントは、学園の誇りであり、ポルタベリッシモで大人気で、時には全国を駆け回るヒーローなのだそうだ。
一学科に一人か二人は、2つ名持ちがいるそうだが、授業を持つことはほとんどないとのことだった。
また、授業を受け持つ先生では、オットー先生が最年長で、本来リタイアして当然の年齢なのだが、毎年学園に引き留められ、未だに臨時講師の扱いで残っている。
オットー先生は、醸造の錬金が得意で、多くの名だたる醸造家が先生に指導を受けたそうだ。
オットー先生の授業の実技は二十歳を過ぎないとできない。にもかかわらず多くの受講者が毎年後を絶たないのでやめられないのだった。
オットー先生の授業を受けるために年齢が高くてもこの学園に入学する人もいる。聴講生も多く、授業の平均年齢は、当然高めだ。
忘れないうちに、エミリーたちに相談しながら、科目を選び、マドカの待つ寮の部屋へ戻って行った。
最後がなぜか、怒涛のオットー先生押しになってしまいました
お読みいただきありがとうございました




