51 いきなり入学試験?!
駅馬車で三日、山が下りに差し掛かると、目前にセドゥーナの首都ポルタベリッシモと大きな湾が広がっていった。素晴らしい光景だった。
アーシアは、思わず身を乗り出しそうになり、御者に注意された。南の街だけあって、遠めに見ても明るく華やかな街並みだ。
ポルタベリッシモは坂道と港の街だそうで、景観が優れているのも特徴だ。馬車は中心街まで行くが、アーシアは、学園前という停留所で途中下車する予定だ。
大きな城のような白い建物が見えてきた。いくつもの建物が連なっていて、その周りを高い柵が取り囲んでいる。
窓の縁のオレンジ色と青い屋根が白い壁に対し、コントラストが効いた建物だ。
エントランスの前で降ろしてもらい、大きく立派な建物に気圧されながら、アーシアは門の端からくぐろうとした。
するとその瞬間、ドン、甘いようなに焦げっぽい砂の埃っぽさが混ざったような匂いが、鼻をついた、
(な、なに?!)
と同時に、アーシアに酷くぶつかっていった人が門を急いで駆け抜けて行った。
「きゃあ」
咄嗟にマドカのスリングをかばった。振り返ると、砂色の髪をした制服姿の生徒の後ろ姿が見え、さっさと遠ざかっていく。
「大丈夫だった?」
マドカに聞くと、眠そうにアーシアを見上げた。
(うん、大丈夫そうね。それにしても……あんまり人がいないな)
正面のエントランスに向かうと、丁度、女の人がいたので、事務室を訊ねた。
髪をひっつめにして後ろでまとめ、地味なスーツ風の服装なので先生だろうか?
「あのう、すみません、事務室は……
こちらの学校に入学したいのですが、どちらに行ったらいいでしょうか?」
「ああ、そこをまっすぐ行ったらすぐにありますよ」
少しぶっきらぼうに言う。
「ありがとうございました。お手間をかけました」
女性は一度顔を傾けて、違う方角に歩いて行った。
エントランスの中は広く、三方向に廊下が伸びていた。壁はオイスターがかった白で統一され、床はこげ茶の木で、外装程派手でない。
言われた通り、真っすぐ行くとすぐに事務所があった。窓口で書類を見せると、
「あ!あの?!」
と驚き、後ろから責任者らしい人が飛んできた。
師匠の紹介状は特に期限がないものだったので、充分に有効で大変助かった。
それと、ギルドで言われた通り、コンロとスリングの発明証明書を見せた。
「は、発明しょ、証明書、確かに確認しました。
こちらで、手続きしますのでどうぞ、いらしてください」
事務員さんの説明では、発明をすると飛び級どころか学費も免除、学生寮にも無料で利用できる特待生の扱いになるそうだ。
マドカのような従魔も許可されており、その手続きもスムーズにできた。
アーシアは、内心、大変驚いてしまっていた。学費のためにいろいろ計画していたのだが、寧ろ幸運だったと言えよう。
ここの正確な名称は、セドゥーナ国際総合学園・大学といって、アルディアで最も大きい学園である。中等科等があるが、主はこの総合大学部門になる。
中等科は大学の近くに、初等科は、市街地地区にあるそうだ。学園大学には16歳になると入学するのが一般的ではあるが、年齢はまちまちだ。
一般的には、セドゥーナ学園と呼ばれている。
専門学科も数多くあり研究職だけでなく、肉体強化系の部門も進んでいる。
「こちらです。どうぞ」
先ほどとは違う若い事務員が、案内すると近づいてきた。
案内人の後ろを歩いて行くと、一階の広い教室に連れて行かれた。今まで誰とも生徒と会わなかったのが不思議なくらい、教室には人がずらっと座って待っていた。
「間に合ってよかったですね。
あの、後ろの席にどうぞ、あの列が錬金科なんで、もうじき試験が始まりますので座ってお待ちください」
アーシアは言われた通り、後ろの席に座って、筆記用具を出して待った。
すぐに、試験が始まり、一般教養、錬金術の試験を受けた。錬金術は、楽に解けたが、一般教養はバベット先生の授業を、思い出し思い出しやって何とかなった。
試験が終わって、皆が退出し始めると、アーシアのことを手続きしてくれた事務のおじさんが慌てたように跳んできた。
「すみません、うちの新人がやらかして、行き違いがあっとようで。
デイスさんは、入学試験じゃなくて、確認だけでよかったんだけど……
……ああ、すみません」
なんと、入学試験も免除だったのか、と驚いていると
「寮は準備がありますので、しばらくは街で宿を取ってもらえませんか。
新学期からの予定はこの書類に書いてありますので、確認してください」
ベテランそうな事務員さんはわざわざ、エントランスまで見送ってくれた。
アーシアは一度おじさんにお礼を言って、門の外の街行馬車のロータリーへと向かった。
外に出ると、今度は学生の帰宅時間と重なったのか、ちらほらと見かけた。
校門を出ると、ロータリーがあって3方向に道が伸びている。西側は学校の外側へ向かう道、東側はそれより幅の広い道だ。奥の道は広く自分が馬車で来た道で、ちゃんと2車線あった。さてどちらに行こうかとキョロキョロしていると、後ろから暖かい明るめの声がした。
「何か、困りごと?」
右に振り返ると西の歩道側近くに、明るい栗色のおさげの髪に、髪より濃い飴色の目をした制服の少女が立っていた。
「あ、あのう、2,3日泊まる所を探しているんですが、今日着いたばかりで……」
「まあ、それは大変ね。この辺も、お店ならいっぱいあるのよね。ただ、宿は入学準備期間だし、どこも一杯かも。中心街に出るといいわ。そこの学園の馬車があるから。
わたしが案内してあげたいけど……委員会の仕事が残ってて戻らないといけないの」
アーシアは大丈夫、ありがとうございますとお礼を言った。親切なひとでホッとする。
「わたしの名前は、ウェスタ・ハート。ウェスでいいわ」
「わ、わたしは、アーシア・デイスといいます。新学期から錬金科に入学します」
「そうなのね!わたしは、火魔法科なの、よろしくね!」
ウェスは、買い物に出て来たらしく、しばらく一緒に歩いて、馬車の停留所まで来てくれた。
「ええと、宿だったわね。
それなら、小鹿の憩い亭がいいわ。値段も安いし、泊まりやすい感じよ。
少し行ったところに、美味しくてリーズナブルなレストランもあるの。
コル・デル・クオーレって、言うのよ。
ふふ、わたしのうちがやってるお店なんだけど」
ウェスは茶目っ気たっぷりにニコニコ笑って、またね、と手を振った。
感じのいい人で、また会えたらいいなとアーシアは思っていた。
街行の馬車に乗り、数人の学生と共に中心街へ向かう。馬車は坂を下って、割と直ぐに着いた。
遠くから見た以上に、ポルタベリッシモの中心は華やかで活気があった。白い漆喰の壁に、カラフルな屋根で青い空に映えそうな印象だ。
建物と建物の間にガーランドのような飾りがかけてあったりで、にぎやかだ。
今は街が、夕日に赤らんで、それもまた、美しかった。
急いで、小鹿の憩い亭を探さないとと思い、周囲を見回す。停車場所からすぐ右の道を行ったら、小鹿の看板が見えるそうだ。
大きな街のせいか、人通りが多い。馬車から乗り降りするためだろうか、特に多かった。ここの停留所は大変広く、傍に駅馬車が数台止まっていたり、馬小屋も並んでいる。立て看板に、貸と時間が書いてあるので、貸馬か馬を預ける場所のようだ。
通行人は皆、やはり明るい色の服を着ていることが多く、軽装だ。歩道を道なりに東へと、人の波の間を、懸命に覗いて看板を探す。
はっと、目の縁に気になる、背の高い人影が過った。背の高いワイン色に近い赤い短髪で筋肉質な男で、人混みを縫うようにサッと移動し、素早くいなくなった。
(え、ま、まさかね……)
アーシアは、ぎょっとする。
(まさか……ね……)
右の路地を行くと、直ぐに高い位置に、小鹿の看板が見えた。一本道をずれただけなのに、路地は大通りと違って思ったより静かだ。
看板の小鹿は、古く少し緑色になっていて、聖なる森の小鹿を思い出させて、ふと笑顔になる。
中は、こじんまりとした丸太風の壁で感じがいい。カウンター横のスペースには大きなテーブルセット、壁には本棚がある。
ありがたいことに、ペット可の部屋も空いていて、すんなり泊まることができた。
ここでは従魔は割と普通のことらしいが、同じ部屋とは珍しいそうだ。
やはり、宿泊には可能サイズがあるらしい。ほかに騎獣には裏に数は多くないが専用の小屋もある。
部屋は格別に広くなくていい。作業は亜空間作業場に行けばいい。ただ、外と中の時間の差が分からないので、ちょくちょく戻らないといけない。
ゲアラドのアポテーケ錬金術店で、時計を買ってきたのには、理由があった。
時計はカラスのドームのような枠に入った置時計は下側にカレンダーの仕掛けがあった。
亜空間でも外の時間が分かるように、工夫ができないかと購入したものだった。
また、スキルウィンドウに空間扉のレベルが上がり、新しくそこから分かれて、ドアトウドアというスキルが現れた。
(ドアからドアへ……?
そのままだと、ど○○もドアみたいな感じかな――うん)
あの派手なピンクのドアが思い出された。
試しに『扉から扉へ』と唱えると、見覚えのあるドアが数枚出てきた。
亜空間作業場のアーシアの自宅の部屋のドアだった。
アーシアは、自分の寝室のドアをスライドして選んで開けてみると、まさに自室のドアだった。これは便利だ。
このスキルもレベルが上がったら、もっと制限なく、色々なところに行けるのかもしれない。
マドカが顔を出して、
『なんだこれ! おいらたちの部屋じゃないか!!』
今気が付いたというように、叫ぶ。
「うん、そうみたいだね」
マドカは、
『これなら……』
と、ぶつぶつ何か独り言をつぶやいていたようだが、アーシアは急に眠くなってしまって、気が付いたらベッドに横になっていた。
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