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異世界放浪~クラフトワークス~  作者: 紫野玲音
第三章 セドゥーナ学園・前編 学園生活と影
54/190

50 セドゥーナへ


 旧市街地の商業ギルドに間借りして、お気に入りのカフェや公園を見つけたりできるようになるころ、遂にここ、ゲアラドを離れセドゥーナに向かうこととなった。


 出発前に、ペプロー氏が、



「必ず向こうに着いたら、商業ギルドに寄ってくださいね。必ずですよ。鳩のマークのほうね!」



 と、念を押して言っていた。鳩のマークというのは、商業ギルドはどこも同じ名称で分かりにくく、国立やらその町のものもあり、マークで差別化を図っている。鳩は、このギルドが郵便事業を広く行っているため、シンボルとして採用しているそうだ。

 因みに、空の青と白い鳩の、どこかで見たようなマークをしている。


 そのためどこのギルドを利用するかは、マークで判別するから重要なのだ。





 マドカをスリングに入れて、いつもの旅の服装より少し小奇麗なものを選んで、駅馬車に乗り込んだ。約30kmくらいの距離だ。


 ここから、セドゥーナの首都ポルタベリッシモへは、馬車を乗り継いで約三日かかる。



 4人乗り合わせの馬車の中は狭いが、仕方がないだろう。時折、悪路で揺れて窓枠をつかんだりしながら道を進む。


 向かいの男性は、慣れたものなのか、腕を組んで寝ていた。



 一度目の停留地について、周囲を見るとキャンプや、馬車を置く貸広場が見えた。場所を借りて移動工房を出そうかと、周りのほかのテントを見ると、結構大きいものもある。これならと思い、借りに行った。


 端の方の一画がアーシアの場所で、一応、物を売ることも自由だ。


 目立たぬように周りを見て、工房を出し、中に入る。


 久しぶりだ。奥の釜は未だ見慣れぬ自作の錬金釜だ。



『あーこのおいらのタワー、落ち着くぞう~』


 いつの間にか戻っていたマドカを、


「マドカ~」と言って、ぐにぐにと撫でまわす。




 キッチンストーブで、簡単な食事を作ろう。このテントの中で料理するために、ポールの三角の部分を利用して空気孔を作ったのだ。上に小さな雨除けも付けた。


 丁度、人からは覗けない高さとなっている。



 こんこんとドアを叩く音がした。



「どちら様ですか?」



「ああ、ここの隣に、と言ってもちょっと先だけど、キャンプするものだ。


 ちょっと挨拶にね」



 男の声だ。まだ、十分明るいので大丈夫だろう。いざとなったら、刺股サスマタもある。



「はい、お待ちください」


といって、アーシアは、戸を開けた。



 外には赤っぽい髪のそばかすのある、若そうな男が立っていた。

どこか見覚えがある……。



「ああ、同じ馬車だった?!」


 そう、あのぐっすり寝ていた男性だった。

 中に入るよう勧めると首を振って遠慮した。悪い人物ではなさそうだ。



「ぼくは、方々旅している旅人さ。アス・ホワイト。


 ほら、あそこがぼくのテント。慣れたもんだろ。

 一応、隣近所(となりきんじょ)挨拶するのが流儀なんだ」



「ええ、よろしくお願いします。わたしは、アーシア・デイスです。

 短い間ですが、錬金の行商もしています。


 ポーションなどご入用なら、どうぞ」



「ふ~ん、そうか。じゃ、よろしくね。

 それじゃあ」



 ホワイトさんは、さっと、身を(ひるがえ)して自分のテントに戻って行った。


 帰っていく先の彼のテントは結構大きかったので、アーシアは自分のテントが目立たなそうだとホッとした。あの人も、空間収納があるのだろうか。




 さて、マドカも待っているので、料理の準備をする。


 今日は、ステーキだ。上等の肉がギルドでも売ったが、まだまだ収納に一杯入っている。


 まず、ココットに蒸留水、黄イモ、カロット、玉ねぎ、干し肉とブーケガルニを入れて、火にかける。


 次に肉の用意で、やや分厚くカットして、フォークで刺し、脂身を筋切りしていく。


 その間、スープ鍋を注意して、オーブンに入れ換えて温める。



 このスープ鍋は、ココットといって、アーシアが頑張って作った金属製の鍋で、オーブンに入れられるようになっている。


 合金を色々配合してベースを気に入ったものにし、ガラス釉薬うわぐすりというのを外側に塗布する。


  ログ石2:土灰1:(わら)灰1/2でガラス釉薬を作り、合わせて錬金する。


 作った料理がとても美味しくなるので、アーシアは満足している。ガラス釉薬はビーズなどにも使える。

 このココットは、以前作ったなんちゃってではなく、所謂ちゃんとした、琺瑯ホーローと呼ばれているものだ。



 モンスター肉は塩コショウとハーブを振って、熱したフライパンに油をひいて、強火で表面においしそうな焼き色を付け、両面を焼く。


 横にして脂身の側面も焼く。バットにとってしばらく休ませ、もう一度焼く。


 残った肉汁に、バター、小麦粉、胡椒、塩と赤ワインを入れる。塩はゲアラド岩塩だ。


 ソースが焦げるいい匂いがしてくる。


『あ~おいら、たまらないよぅ』


 スープを取り出し、パンを温める。付け合わせは小松菜のような、エゲリア菜をさっと炒めて添えた。


 ステーキは食べやすくカットする。



 その時、ドアがノックされる音がした。


「あのう、すみません、ここでポーションを売ってくれるって、聞いたんですが」


 聞いたことがない若い男性の声だ。


 なかなか扉を開けないせいか、扉の向こうで男性が、隣のテントのお兄さんにここを聞いたんだ、と続けて言った。


「はい、少々お待ちください」


 アーシアは空間収納からポーションが入った大き目の木箱を用意した。この木箱なら何か他の物が必要になっても、さり気なく何か出すときのカモフラージュになるだろう。そして、ドアを開けた。


 外には、明るい緑色の髪の背の高い優男風の男がいた。柔和な顔立ちだが、少し辛そうだった。


「どうぞ、ちょっと、中は……そのままなんですが」


「ああ、食事中!すみません。

 ……いい匂いですね。


 ええと、HPポーション、どのくらいありますか?」


「とりあえず、5本はありますが?」


「うん、じゃ、お願いします。MPのほうもあったら、3本貰えますか」


 木箱から、HPポーション5本、MPポーション3本を出す。


「HPが50ペリー、MPが40ペリーです。合計、370ペリーになります」


 男は代金を出して、


「つりはいらないよ。今飲んでも?」と聞いた。


「どうぞ、空き瓶はお預かりします」


 そして、HPポーションを2本一気に飲んだ。



「あ! 不味くない。カカンの味だ」



「ミルク味もあります」アーシアが笑いながら言うと、



「いや、カカンがいいです。これは……良く効きますね」



 男は、少し驚いたように自身を見ていた。そのとき、グゥゥゥ~~、と大きな音が鳴った。



「いやあ、体調がよくなったら、腹が空いちゃって。

 めちゃめちゃいい匂いだもんで。

 図々しいついでに、良かったら、食べさせて貰えませんかね……お金は、払いますんで」


 なかなか、押しの強い人だなと、思いながら、


「いいですよ。椅子が小さいけど、こちらにどうぞ」


 聞くなりマドカがニャアと不服の声を上げた。


「マドカ、まだ、いっぱいあるから……沢山、焼こうね」



 男性は、簡易椅子に身を小さく折り曲げて座り、自己紹介をした。


「ああ、俺は、カイト・ゴットフリート。カイトでいいよ。よろしくね」


「アーシアです。セドゥーナに行きながら、行商もしています」



 アーシアは自分の分だったものを、先に客人に出して、次のステーキに取り掛かった。


 カイトは、待ってましたとばかりに肉にかぶりついた。



「これは、うまい!!モンスターボア肉ですか?」


「ええ、そうです。モンスター肉で、よかったですか?」


「いや、とってもおいしいよ。モンスター肉大好き」



 人懐っこい笑顔だが、液体のようにどんどん平らげる。


 マドカも負けじと沢山食べた。アーシアは肉を黙々と焼きつづけた。



「どうぞ、スープも召し上がってくださいね」



 アーシアが言うと、



「はいはい、ああ、これも美味しい!」



 すっかり、食事が気に入ったようで、カイトさんはびっくりするほど、食事を平らげていった。


 アーシアの初めてのお客さんは、満足して代金を多めに払って帰って行った。







新章突入しました


お読みいただきありがとうございました

今後ともよろしくお願いいたします

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