50 セドゥーナへ
旧市街地の商業ギルドに間借りして、お気に入りのカフェや公園を見つけたりできるようになるころ、遂にここ、ゲアラドを離れセドゥーナに向かうこととなった。
出発前に、ペプロー氏が、
「必ず向こうに着いたら、商業ギルドに寄ってくださいね。必ずですよ。鳩のマークのほうね!」
と、念を押して言っていた。鳩のマークというのは、商業ギルドはどこも同じ名称で分かりにくく、国立やらその町のものもあり、マークで差別化を図っている。鳩は、このギルドが郵便事業を広く行っているため、シンボルとして採用しているそうだ。
因みに、空の青と白い鳩の、どこかで見たようなマークをしている。
そのためどこのギルドを利用するかは、マークで判別するから重要なのだ。
マドカをスリングに入れて、いつもの旅の服装より少し小奇麗なものを選んで、駅馬車に乗り込んだ。約30kmくらいの距離だ。
ここから、セドゥーナの首都ポルタベリッシモへは、馬車を乗り継いで約三日かかる。
4人乗り合わせの馬車の中は狭いが、仕方がないだろう。時折、悪路で揺れて窓枠をつかんだりしながら道を進む。
向かいの男性は、慣れたものなのか、腕を組んで寝ていた。
一度目の停留地について、周囲を見るとキャンプや、馬車を置く貸広場が見えた。場所を借りて移動工房を出そうかと、周りのほかのテントを見ると、結構大きいものもある。これならと思い、借りに行った。
端の方の一画がアーシアの場所で、一応、物を売ることも自由だ。
目立たぬように周りを見て、工房を出し、中に入る。
久しぶりだ。奥の釜は未だ見慣れぬ自作の錬金釜だ。
『あーこのおいらのタワー、落ち着くぞう~』
いつの間にか戻っていたマドカを、
「マドカ~」と言って、ぐにぐにと撫でまわす。
キッチンストーブで、簡単な食事を作ろう。このテントの中で料理するために、ポールの三角の部分を利用して空気孔を作ったのだ。上に小さな雨除けも付けた。
丁度、人からは覗けない高さとなっている。
こんこんとドアを叩く音がした。
「どちら様ですか?」
「ああ、ここの隣に、と言ってもちょっと先だけど、キャンプするものだ。
ちょっと挨拶にね」
男の声だ。まだ、十分明るいので大丈夫だろう。いざとなったら、刺股サスマタもある。
「はい、お待ちください」
といって、アーシアは、戸を開けた。
外には赤っぽい髪のそばかすのある、若そうな男が立っていた。
どこか見覚えがある……。
「ああ、同じ馬車だった?!」
そう、あのぐっすり寝ていた男性だった。
中に入るよう勧めると首を振って遠慮した。悪い人物ではなさそうだ。
「ぼくは、方々旅している旅人さ。アス・ホワイト。
ほら、あそこがぼくのテント。慣れたもんだろ。
一応、隣近所挨拶するのが流儀なんだ」
「ええ、よろしくお願いします。わたしは、アーシア・デイスです。
短い間ですが、錬金の行商もしています。
ポーションなどご入用なら、どうぞ」
「ふ~ん、そうか。じゃ、よろしくね。
それじゃあ」
ホワイトさんは、さっと、身を翻して自分のテントに戻って行った。
帰っていく先の彼のテントは結構大きかったので、アーシアは自分のテントが目立たなそうだとホッとした。あの人も、空間収納があるのだろうか。
さて、マドカも待っているので、料理の準備をする。
今日は、ステーキだ。上等の肉がギルドでも売ったが、まだまだ収納に一杯入っている。
まず、ココットに蒸留水、黄イモ、カロット、玉ねぎ、干し肉とブーケガルニを入れて、火にかける。
次に肉の用意で、やや分厚くカットして、フォークで刺し、脂身を筋切りしていく。
その間、スープ鍋を注意して、オーブンに入れ換えて温める。
このスープ鍋は、ココットといって、アーシアが頑張って作った金属製の鍋で、オーブンに入れられるようになっている。
合金を色々配合してベースを気に入ったものにし、ガラス釉薬うわぐすりというのを外側に塗布する。
ログ石2:土灰1:藁灰1/2でガラス釉薬を作り、合わせて錬金する。
作った料理がとても美味しくなるので、アーシアは満足している。ガラス釉薬はビーズなどにも使える。
このココットは、以前作ったなんちゃってではなく、所謂ちゃんとした、琺瑯ホーローと呼ばれているものだ。
モンスター肉は塩コショウとハーブを振って、熱したフライパンに油をひいて、強火で表面においしそうな焼き色を付け、両面を焼く。
横にして脂身の側面も焼く。バットにとってしばらく休ませ、もう一度焼く。
残った肉汁に、バター、小麦粉、胡椒、塩と赤ワインを入れる。塩はゲアラド岩塩だ。
ソースが焦げるいい匂いがしてくる。
『あ~おいら、たまらないよぅ』
スープを取り出し、パンを温める。付け合わせは小松菜のような、エゲリア菜をさっと炒めて添えた。
ステーキは食べやすくカットする。
その時、ドアがノックされる音がした。
「あのう、すみません、ここでポーションを売ってくれるって、聞いたんですが」
聞いたことがない若い男性の声だ。
なかなか扉を開けないせいか、扉の向こうで男性が、隣のテントのお兄さんにここを聞いたんだ、と続けて言った。
「はい、少々お待ちください」
アーシアは空間収納からポーションが入った大き目の木箱を用意した。この木箱なら何か他の物が必要になっても、さり気なく何か出すときのカモフラージュになるだろう。そして、ドアを開けた。
外には、明るい緑色の髪の背の高い優男風の男がいた。柔和な顔立ちだが、少し辛そうだった。
「どうぞ、ちょっと、中は……そのままなんですが」
「ああ、食事中!すみません。
……いい匂いですね。
ええと、HPポーション、どのくらいありますか?」
「とりあえず、5本はありますが?」
「うん、じゃ、お願いします。MPのほうもあったら、3本貰えますか」
木箱から、HPポーション5本、MPポーション3本を出す。
「HPが50ペリー、MPが40ペリーです。合計、370ペリーになります」
男は代金を出して、
「つりはいらないよ。今飲んでも?」と聞いた。
「どうぞ、空き瓶はお預かりします」
そして、HPポーションを2本一気に飲んだ。
「あ! 不味くない。カカンの味だ」
「ミルク味もあります」アーシアが笑いながら言うと、
「いや、カカンがいいです。これは……良く効きますね」
男は、少し驚いたように自身を見ていた。そのとき、グゥゥゥ~~、と大きな音が鳴った。
「いやあ、体調がよくなったら、腹が空いちゃって。
めちゃめちゃいい匂いだもんで。
図々しいついでに、良かったら、食べさせて貰えませんかね……お金は、払いますんで」
なかなか、押しの強い人だなと、思いながら、
「いいですよ。椅子が小さいけど、こちらにどうぞ」
聞くなりマドカがニャアと不服の声を上げた。
「マドカ、まだ、いっぱいあるから……沢山、焼こうね」
男性は、簡易椅子に身を小さく折り曲げて座り、自己紹介をした。
「ああ、俺は、カイト・ゴットフリート。カイトでいいよ。よろしくね」
「アーシアです。セドゥーナに行きながら、行商もしています」
アーシアは自分の分だったものを、先に客人に出して、次のステーキに取り掛かった。
カイトは、待ってましたとばかりに肉にかぶりついた。
「これは、うまい!!モンスターボア肉ですか?」
「ええ、そうです。モンスター肉で、よかったですか?」
「いや、とってもおいしいよ。モンスター肉大好き」
人懐っこい笑顔だが、液体のようにどんどん平らげる。
マドカも負けじと沢山食べた。アーシアは肉を黙々と焼きつづけた。
「どうぞ、スープも召し上がってくださいね」
アーシアが言うと、
「はいはい、ああ、これも美味しい!」
すっかり、食事が気に入ったようで、カイトさんはびっくりするほど、食事を平らげていった。
アーシアの初めてのお客さんは、満足して代金を多めに払って帰って行った。
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