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異世界放浪~クラフトワークス~  作者: 紫野玲音
第二章 聖なる森と出発
53/117

49 岩塩坑の観光

 

 ゲアラド旧市街地商業ギルドは街では高い建物で、アーシアの泊まっている一番上の方の階からは、アーシアたちの来た死の原戦場跡側の城壁の向こうの平原まで一望できる。

 城壁はこのゲアラドの前は特に頑丈だが、北東方向にずっと伸びている。北東には岩塩坑(がんえんこう)があるそうだ。

 今は平和な平原だが、以前までは死の原戦場がすぐに迫っていたそうで、冒険者があの、丁度、アーシアたちが最初にたどり着いた村あたりまで追い詰め、定期的に討伐に行っている。


 北東方向にはアーテーがあるそうだが、アーテー帝国というだけ大きく、一方、他国とはあまり交流しない国であるそうだ。商人たちは、モンスターの地域になってしまっているため自由に通れなくなった。ホノリア経由で他国へ行き来する。

 ゲアラドはその数少ない中継地点で、アーテー人の大きな布を巻いたような民族衣装を見るのも、度々(たびたび)あった。

 この階は、別に専用のリフト(エレベーター)が付いており、他人とはほとんど顔を合わせずに移動できる。ご飯だけは、下の階の食堂か外のカフェやパン屋を利用した。

 宿泊もでき、広い会議室のようなものもあるようだ。

 

 アーシアの部屋は、角部屋で落ち着いた内装に、大きな頑丈なベッド、ソファ、テーブルと椅子、そして作業がにできるようなスペースがあって、かなりの広さだった。


 アーシアの部屋からは建物の裏も見え、大きな荷馬車が入って来て、ギルド員が積み荷をチェックしたり、出し入れする様子がよく見える。


 また、街側には、伝書鳩による郵便局があり、その鳩たちの飼育されている小屋も見えた。

 鳩が、仕事でぱたぱたと飛び立っていく様は、面白かった。

 ギルドは流通網を使って、こういった郵便事業も行っているそうだ。ここのギルドは配達できる範囲が一番広く、全国規模だった。

 だから、あの御者のおじさんは、こっちの商業ギルドを紹介してくれたのかもしれない、と気が付いた。


 アーシアは気軽に、ギルド員に不要の採取物やドロップ品を、ここで引き取ってもらおうとしたが、わざわざ副ギルド長のペプロー氏がやって来て、アーシアの相手をすることになった。

 一遍に大量に出すのは不正解だ、やはり、分散して出していかなくちゃいけない、ということが分かった。


 ポケットコンロは、ある程度在庫があったが、どんどん必要とされる数が増え、収納の在庫がなくなって、新たに作るようになった。

 材料も、ギルドがある程度用意してくれた。師匠の錬金釜はやはり使いやすく、(もっぱ)らそれを使っている。

 なんだかんだ言われた数個はすぐ作れるので、ギルドの二階の講義室で行われている、錬金製品取扱管理士の講座も受けに行くことができた。


 そうやって一週間を過ぎるころ、ペプロー氏から呼び出しがあり、応接室へ向かった。


「お待たせしました。証書ができました。

 こちらがポケットコンロ、こちらが、スリングです。種類が違うからよく読んでください。


 あと、デイスさんのギルド登録ですが、こちらで勝手に商業兼冒険者証を発行したのですが、よろしかったでしょうか?デイスさんなら、冒険者として行動しないといけないときもあるかと思いまして。

 もしかして、冒険者証をすでにお持ちでしたでしょうか?」


「いいえ、そういえば、冒険者ギルドにも登録に行ったほうがよかったなんて、今気が付きました。

 ありがとうございます」


「それでしたら、よかったです」


と言って、ペプロー氏は、チェーン付きの金属プレートを渡してきた。



 身分証明書ができたので、これでどこででも行けるし、講習を受けて管理士も取り、同じく証明プレートも貰って、行商もできたりする。


 出発の日まで、スリングのレシピの手続きをしたり、コンロの追加注文で忙しかった。

 コンロは自分が思っていたより高価なのに、次々注文が入るのが不思議だ。売れ行き好調らしい。セドゥーナに行ってからも、引き続き納品を収めることとなっている。

 コンロの材料は、今後ギルドで仕入れた方がよさそうだ。


 寂しいことにマドカは、教会で忙しいようで、しょっちゅう留守にしている。

猫の兄弟が少し心配な状況になっているようだ。

 病気か何か?とアーシアが聞くと、口を濁して、


『近いっちゃ近いけど、そんなんじゃないよ。また今度話すね』


と言っていた。

  心配だ。



 少し時間ができたので、岩塩坑のほうに観光に行ってみようと、ギルドを出てきた。

外出するとギルド員さんが、なぜか心配そうにアーシアをうかがっていた。


 ここから、距離があったので、ロータリーで岩塩抗の地域まで馬車に乗せてもらう。

 貸馬を勧められたが、アーシアは生憎(あいにく)、乗馬はできなかった。ビッコロ村の荷物引きはもっぱら、らばとか大型の山羊っぽい動物だったし、馬に乗る人はいなかったように記憶している。


 城壁に沿うように、なだらかな道を行き、集落が見えてきた。観光地にもなっているのか小さなお店がいっぱいある。

 食べ物の屋台などもある。ソーセージに、ピクルス、ザワークラウト、ちょっと変わった卵とソーセージの輪切りの入ったスープ、ライ麦発酵液を使っているそうだ。フィリングののったドーナツもある。

 アーシアも、食べやすそうなソーセージを買って、


「お祭りでもあるんですか?」


と店主に聞くと、きょとんとした顔をされてしまった。


「ここは、抗夫もいるからね、みんなここで食べてるのさ。観光のひとも多いよ」


 お土産屋さんを覘くと、岩塩の塊やら、粉状のものや、ご当地ハーブがミックスされているものがあって、アーシアはそわそわした。


(塊もいいし、ミックスハーブソルトが美味しそうだな…)



 岩塩抗の観光向けに公開されている所を、ツアーグループで見学させてもらう。おじさんやおばさんに混ざって並んで見て行った。

 12人くらいのグループで3,4人のグループが集まっているそうだ。カップルも一組いた。デートだろうか。女の人は嬉しそうにしきりと男性に話しかけていた。


 洞窟の中は、入り口は低く狭かったが、奥は広く天井も高かった。

 塩のオブジェとかがあって、濡れたように見える側面で、中はちょっと幻想的な感じだ。

 並んで細長い観光船に乗って、向こう岸に渡る。船は丁度、アーシアが先頭になってしまった。まさか船に乗れるとは思っていなくて、嬉しい。アーシアの前で、軽装の船頭が長い棒のようなオールをゆっくりと突きながら漕ぐ。

 薄暗い洞窟の中をポウ、ポウと、等間隔で付いている明かりが、(にじ)んで見える様まで美しかった。


 ここではもう、岩塩を取る作業はしておらず、観光ツアー専用の場所で、実際の岩塩抗は、もう少し離れたところに点在してあって、このような洞窟で掘られているらしい。


 後ろのご夫人同士が話している。


「そういえば、この間、この近くで爆発があったそうだけど」


「ああ、大したことはなかったらしいんだけど、犯人捕まらないんだって…」


「「怖いわね~」」声をそろえて言う。


「あ、あの、こういう事件みたいなことは、よくあるんでしょうか?」


 思い切って聞いてみる。


「いいえ、私たちもここのことは詳しくないけれど…

 ここらは田舎だからそんなことは、そうそうないみたいよ…犯人、よそから来た人かもね」


 船を降りて、また開けたところを見て回ると、ちょっとした飲み物を出す店もあった。

そこで、周辺の名所などをおばさまグループと話しながら、一緒にお茶をした。


 ツアーを終えると先ほど話していたおばさまのグループと、思いのほか仲良くなれた。岩塩坑のなかのツアーは2時間以上の長いものだった。ホノリアの首都から来たそうで、お土産のおすすめを聞いたり和やかに過ごした。

 皆さんは、ここで一泊するらしい。美味しいお酒と肉料理があるのだとか。ほかのグループも銘々の目的地へと向かい、さっきのカップルは細い道の方に消えて行った。


 アーシアはひとり、馬車に揺られて、商業ギルドへ戻って行った。







お読みいただきありがとうございました

これで、第二章が完結します

次話より、第三章になる予定です 遂に、学園に向かいます!


どうぞ、今後ともよろしくお願いいたします

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