43 遠足に行こうみたいに言わないでください
『きみ、すごいんだねぇ』と、静かに聞いていた鹿之丞は言った。
『そこまで打ち込めるなんて、なかなかここに来る来訪者の中でも、めったにいないんじゃないかな。
うん、いいことだよ』
急な誉め言葉に恥ずかしくなったアーシアは、横で浮かんでいたマドカを引き寄せて、ぎゅっと抱っこする。
マドカはやや迷惑そうな顔をして、手をぐーっとアーシアの顔に押し当てた。肉球の感触すらご褒美のアーシアには効かないが。
『ところで、ずっと迷惑かけられっぱなしだったんだから、あいつらのところに、こっちから出向いて行ってみないかい?
ボス戦といこう。
あいつらの親玉は、ベルググィストというレアモンスターだ。闇炎、影攻撃、ドレインって厄介なスキルを使う』
(え……ちょ、何を言い出してるんですか鹿之丞パイセン……それって、端的に言うと仕返しとか、お礼参りとかいうやつでは?)
『はは、善は急げだ。早速行こう』
随分と急ではあるが、このところ、トラップの討伐ジャーナルが流れてきても、レベルアップした形跡がないので、頭打ちになってしまったかな、とも思っていたので、前向きに検討することにした。
「はい、よろしくお願いします。
って、場所、遠いんじゃないですか?」
どのくらい時間が経ったか、正確には分からない、が、早くセドゥーナへ行かなくてはならない。
「あ、あの、今っていつなんでしょう?ええと、わたしたちが出てきたのってどの……何年っ、くらい経ってますか?」
鹿之丞は、首を傾げた。
『うーん、下の子たちが生まれたのは、5,6年前で……だから、この上の子が生まれて、もう15年は経つのは間違いないなぁ。
すまないね、ぼくら、あまり時間の概念ってないんだよね』
はっきりわからなくて、ごめんね、とすまなそうに言った。
(少なくとも15年以上は経っているってことか……ど、どうしよう。早く学校に行かなくちゃ……)
アーシアはあまりのことに焦り、気が遠くなって倒れそうになった。
そしてそのアーシアの悄然とした態度を見ていた鹿之丞が、気分をかえるように、
『ところで、うん、ぼくが連れて行ってあげるよ』
「え、え?」
『ボス戦だよ。死の原戦場跡の一画にいるんだ。ぼくが連れて行ってあげる』
「え、乗せて行ってくれるんですか?」
鹿だが、ペガサスっぽいのに乗れるとは、ロマンがあると、アーシアはちょっとわくわくしていたが、鹿之丞は、
『いや、この羽の付いている所を、見てよ。
勇者はみんなそう言うんだよねぇ』
と言いながら、射干玉のように黒光りする大きな羽を広げる。
『座れそうなところないだろう?羽に乗られると痛いんだよね。
ぎりぎり乗れなくもないんだけど、首の後ろになっちゃうよ。
ぼくの主人だった人も、ぼやいてたよ。
ぼくに乗れたら楽だなあ、って。
でもね、今回は、ぼくが一度行ったことのある『死の原戦場跡』って所にあるからね、テレポートで連れて行ってあげるよ。』
確かにそうだなと、気の毒に思っていると、テレポートという夢のようなワードに、アーシアは跳び上がった。
でも、マドカは一緒は無理だって言っていたが――
『うん、神獣や聖獣は一度行ったことのある所ならテレポートできるんだ。きみの相棒もそうだろう、ね。
でも、自分以外を連れて一緒にっていうのは、ぼくぐらいベテランじゃないと、ちょっと無理だな』
ちょっと得意げに言う。やはり、子供たちの前だからだろうか?
小さい子たちが、父鹿を潤んだ尊敬の目で見上げている。
『おいらも、訓練がんばるぞ』マドカは鼻息も荒く、言う。
『うんうん、若者は頑張りなさいよ!』
胸当て等の装備に着替え、爆弾の入った鞄を持つ。用意ができると、鹿之丞との待ち合わせ場所に向かう。
鹿之丞は若い鹿と一緒だった。
『ぼくの長男も一緒にいいかな?
なかなか修行も頑張っているから、足手まといにはならないと思うよ』
若鹿も、ゆっくりと頷いた。お父さん似の知的な見た目で、まだ若いからか、ややスレンダーだった。
「もちろんです。よろしくお願いします。
ただ、わたしの戦闘スキルが、ちょっと特殊でして……」
『あの、空間を裂くやつじゃないの?』
アーシアは鹿之丞の言葉に跳び上がる。
「いえ、あれは……戦闘で使ったことありません。えっと、オリジナルの攻撃錬金術なんですが……」
アーシアの説明を頷いて聞いていた鹿之丞は、笑いだして、
「ははは、そんなことができるんだね。
でも、一発で仕留めちゃうのも詰まんないから、ぼくらが傷めつけてからでいい?」
「はい、で、でも、大丈夫でしょうか(わたしが)……」
『もちろん、(ぼくらなら)大丈夫だよ。
でも、あのスパーンていうの本当に使わなくていいの?』
「はい、(主に周囲の巻き込みが)危ないので」
マドカも張り切ってふんふんと鼻歌を歌っている。
『じゃあ、寄ってね』
と鹿之丞が言うと、シュンと音がして前が真っ白になった。
光が止むと、乾いた砂っぽい空気の場所に着いていた。
数匹のモンスターが、驚いて襲ってくる。
『わ、ごめん。いなそうなところを選んだんだけどな、昔と変わったのかな……』
口調とは反対に焦ったように鹿之丞が、動いた。向こうも突然の出現に慌てたようだ。
フレイムファングとブラックハウンドが数匹いる。
若鹿も滑らかに鋭く前足を振り上げ応戦している。相手がすっ飛んでいくところをみると風魔法も使っているのだろう。
アーシアも刺股を取り出すと、振るって威嚇した。マドカは風に乗り舞い上がる。
「前の2体を片付けます!気を付けてください」
アーシアが言う。狼タイプで素早いが、皆が風魔法で妨害してくれているので、狙いやすい。
『集中』!『解体』
『解体』
『すごいね。聞いていたけど。助かるよ』
そういう、鹿之丞たちも3体倒していた。
「じゃ左いきます!」
『加勢するにゃ!』
左側の敵に鎌鼬を使って鋭く相手に切り込んでいたマドカは、サッと後ろに飛びのいて強い風を相手に送り込んで足止めした。
『集中』!
『解体』
『解体』
大きいが素早く狼モンスターが動く。だが俊敏さでは鹿たちのほうが勝るようだ。
だが、狼は鹿の天敵だけど大丈夫だろうか。
そんな心配は無用で、鹿たちは、次に現れたフレイムファングにも、出会いざま頭突きして、蹴散らしていった。
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