42 クラフト三昧♪は計画的に
アーシアは、この移動式工房を仕舞って、亜空間作業場にしばらく籠って作業する旨を、鹿之丞に言った。
初め鹿之丞は、移動工房をたたむことを聞き、少し驚いて、
『ええと、作業とか大丈夫なの?』
「いえ、実は、空間作業場ストレージワークショップの容量が増えまして、そこに住むこともできそうなんです」
鹿之丞は、なにか納得したように頷き、こちらは大丈夫だから頑張ってくださいね、と言った。
すぐに工房を仕舞って、エアドアを出し、マドカとともに入った。亜空間作業場の中は居心地がいいという。
亜空間の家は、作業部屋をまず整えないと、仕事ができない。
配置は、移動工房と似たようにする。
慣れているからだ。
師匠のところのような大き目の作業台に椅子、そして、マドカのご要望の新しいキャットタワーは、大きくなっている。
タワーを設置すると、マドカは目を輝かせて、飛び乗っていった。
結局、錬金釜は、実験錬金釜は使うときは出し入れすることにして、三つを並べることになった。三つというのは、移動工房の師匠からもらった釜も並べるからだ。
この師匠の釜は、なかなか、使いやすかったのだ。
もっと精進しなくては…とアーシアは思った。
次に、主寝室にベッドを用意する。作業部屋で作って一度仕舞ってその場所で取り出せば楽に運べた。
眠れればいいので、すぐに次の作業に進むために早々に部屋に戻る。
キッチンストーブを改良して、小型キッチンのようなものができた。
これは、移動工房にも置けるだろう。
移動式キッチンストーブもだが、魔石を使うので煙がほぼでない。料理からでるくらいだ。
家用に改良するために、作業台で何枚も設計図を描く。錬金だと一度にできてしまうので、綿密な図を描かなくてはいけない。
あと、シンクもだ。かなり金属が必要になりそうだ。水は亜空間ウォーターサーバーがあるけど、こちらにきちんと通常のウォーターサーバーが必要だろう。
甕のようなものの下側に蛇口を付けて、金具の引っ掛け部分をはずすとでてくる、あれを作ろう。
次々と図面が出来上がっていった。
設計ができたら、大物から作っていく。オーブンコンロのユニットとタンク付シンクユニットを中心に、ほかの収納棚などを作る。
以前クラフトした、古いタイプの石窯オーブンも置いてしまおう。石窯で焼くと美味しいのだ。
できると、キッチンに設置しに行き、何もない部屋の状態から、なかなかのダイニングキッチンが出来上がってきた。
デザインは少しレトロだが、機能は充実したキッチンセットの出来上がりだ。
使う分の道具なども空間収納から出して仕舞いつつ作業を、次の錬金の構想が浮かんできた。
ひとつは、カセットコンロのような小型コンロ。こちらには大きなものしかないから旅の間や、野営の時に便利ではと設計しながら思っていたのだ。
丁度、仕組みも何度も作って分かっている、便利なことにこちらの世界には魔石があり、小型化できそうな気がしていたのだ。
もう一つは、複製機。これは、アイテムを複製で増やす機械だ。難しいかもしれないが、クラフトには兎に角、材料が大量にいる。
自分がつくった調合品くらい複製できないだろうか。一応、トラップで作った魔法陣の装置に着想を得ているので、アーシアは可能ではと思っていた。
家を整えながら、錬金の開発をする。アーシアの集中力はすさまじく、一心不乱に作業し続けていた。
最終的には、カセットコンロは、鋼に燃料を入れる部分と五徳を繋ぐホースにゴムの実を利用しできるようになった。
燃料入れの口に魔法陣を転写して、魔石を液状から気化させ、パイプで五徳のほうに送る。五徳には小さな火種が出て着火する仕組みを作った。
実験は危ないので小さめの亜空間作業場をその場で出しその中で、着火の実験を行った。
何度か危ない目にあったが、そのおかげで、無事コンロが形になってきて、形は少し違うものの目指していたものに仕上がった。
名前は…【デイス・楽々★ポケットコンロ】となっていた。
こちらでは、発明品の名前は勝手に決まってしまうものなのだろうか?
クラフトの合間に、忙しいこころを癒そうと、マドカのお手入れをする。
ぬるいスチームタオルでやさしく拭いて、猫用の毛を取る金ブラシを作って、マドカにブラッシングすると、綿あめのような毛がごっそりと抜けた。
(わたあめ機の中…みたいよねえ、いつも思うけど……)
その後、いつもの柘植の櫛で整える。ふわっふぁのモフモフキャットの完成だ。
マドカはごろごろ喉を鳴らしっぱなしで、身体を伸ばしたりよじったり腹天したりして気持ちよさそうだった。
因みにマドカの抜け毛は、再利用しようと集めて保管している。
蜘蛛の糸や羊の抜け毛でも大丈夫なので、きっと良い素材になるだろう。
そう思い鑑定すると、
[風神獣の毛(毛・糸素材):(品質S・325)風魔力100 神聖力100/攻撃防御83 魔防75 俊敏・風魔法強化/(特性)浮遊]
思った以上に凄かった。マドカは、こんなにかわいいが、神獣なのだなぁとアーシアは思っていた。
見つめた先のマドカは、タワーのベッドで大きく欠伸をしていた。
複製機も、なんとできたのだ。業務用かき氷機のようなサイズになってしまった。
合金とガラスでできていて、中が見えるようになっている。見た目もガラスカバー付の業務用かき氷機かエスプレッソマシーンのようだ。
アイテム複製には、材料となるものが必要で、無からは、やはり何もできなかった。
しかし、試作品の仕組みができた時、実験で自身の魔力を使ってアイテム複製を試してみたのだが、HPポーション1本でも、かなりの魔力が持っていかれた。
ポケットコンロの複製はというと…やっている最中にいつのまにか倒れてしまって、気が付くとマドカが半泣きになって横に縋り付いていた。
効率が非常に悪く、現実的でなかった。一度でなく実験でアーシアは何度か倒れた。その度にマドカが泣いて、可哀そうなことをしてしまった。
一方、そのレシピの原料を使うとスムーズに複製するまでになった。そのため上部に四角い小型に錬金釜をはめ込むスタイルになった。
その後、改良を重ねてレベルの高い触媒アイテム、アーシアが作るのなら宝玉というアイテム、を媒介にすれば、魔力でも少しの量で複製が可能になった。
そこそこ満足できる発明品ができて、意気揚々と亜空間から出てきた。
外は、清らかな空気に溢れ、泉は相変わらず美しく、アーシアの拓いた広場には柔らかそうな草が生えて、大人の鹿と子供の鹿たちが和やかに過ごしていた。
鹿たち………子供……
はて、アーシアの視線の先には、鹿の家族が座って寛いでいる。小鹿なんていたかな?とアーシアが思っていると、小鹿のそばの一際大きな鹿は、よく見知った鹿之丞パイセンだった。
心なしか、鹿之丞は貫禄も増して見える。鹿之丞は、こちらに気づいたようで身体を立ち上げて、こちらに向かって来た。
『やあ、きみたちか。久しぶりだね。また会えて、うれしいな』
アーシアはぼんやりして、思考停止してしまい、しばらく固まっていた。それを見て、鹿之丞は、
『あっちはね、ぼくの子供たちなんだ。
きみたちのお陰でモンスター退治する必要がなくなって、
余裕ができたんだろうな…
結婚したんだよ。お嫁さんは普通の鹿だったから、もう、死んじゃったんだけどね。
この子たちは幻獣と聖獣になったから成長はゆっくりだし、長寿種でね、ぼくが面倒見ているんだ。
今は、上の子が大きくなったから、下の子の面倒も見てくれて楽になったんだよ。
ははは…きみは何を作っていたの?』
アーシアがお母さんだと思っていた鹿は、お兄ちゃんだそうだ。
警戒心がないのか、小鹿が寄ってきてアーシアが珍しいのか、しきりと見上げてきたり、羽を広げてパタパタさせ周りを歩いた。
小鹿のせいか、濃い色の斑点が背中に残っていて可愛い。
「は、羽だったんですか?!その背中の飾りにしては大きいなと…」
『うん、そうだよ。ちゃんと飛べもするよ。森は木が多いから、広げると翼がぶつかって邪魔になるからね。仕舞ってるんだ』
だから、広場は助かるんだ、子供たちも飛ぶ練習ができて、と鹿之丞が言った。
しばし、驚きすぎて口を開けたままにしていたが、
「そ、そうなんですね…わ、わわたしは………」
アーシアはひたすら、どんな発明品を作ったか、あわあわとなって説明していたが、うんうん、と鹿之丞は嬉しそうに聞いていた。
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