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異世界放浪~クラフトワークス~  作者: 紫野玲音
第二章 聖なる森と出発
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41 釜作りとスイートポテト

 

 移動式工房に戻り、錬金釜の調合を始めた。材料で作らなくてはならないものがあったのでレシピ通りに行う。

 宝玉、とあるが種類はなんでもいいようだ。一番レベルの低い【錬金師の(ぎょく)】というのを作る。これは丁度、3つできた。

 それに、普通の大釜がいるようだ。


  レシピ【普通の錬金釜】大釜1,鉄鉱石1、(粘土)2、(宝玉)1


 ほかの釜も材料は、ほぼ似ていたので作りやすい。順番に作っていくことにする。

 上級、熟練、実験錬金釜のそれぞれの使い勝手を比べてみるに、一番アーシアが、興味があった実験錬金釜は、大変癖のある釜で、普通のレシピのものでも特性や品質に極端な(あたい)がでた。

 後は、材料を好みで入れて何ができるか、という闇鍋(やみなべ)的な使い方だ。

 説明文章を見るに、発明家はこれを(もち)いてやる人が多いそうだ。


 飛び猫のマドカは、最近よく寝る。猫だから普通かもしれないが、本人が言うには、成長期らしい。

 あと、ふらっといなくなっている。必ず戻ってくるから、よいのだけれど。

 キャットタワーでうたたねしていたマドカを振り返り、思い切って尋ねた。

 タワーから身体を伸ばしているので、足と手先だけがでているのが見えている。


「ねえ、マドカ。ちょくちょくいなくなっているようだけど…何かあるの?」


『う~ん?…ああ、神殿に帰ってるんだ。

 あ、ヴァスキス神聖国のほうだよ』


「えっ?そんなに遠く?」


 マドカはタワーの上に座る体勢になって、


『テレポートで戻ってたんだ。一度行ったところなら移動できるんだよ。

 ここの聖気も美味しいけど、あっちの神気のほうがおいらのからだに合うんだ。

 おいらたちが生まれる、ステアの庭っていうところで吸収してくるんだ。 

 神気は幼獣の時期に成長するまで必要なもので、別にいまは特にいらないんだぞ。

 おやつみたいなもんだ。 


 それに、どっちかって言うと…神殿の外にいる…

 おいらの兄弟の様子を見に行ってるんだ。

 家族の猫の孫の世代になっちゃってるんだけど、定期的に会いにいってるんだ。


 じいちゃんとか言われるから、いつも、お兄ちゃんと言えって言ってるんだぞ』


 マドカは言った後、両手を伸ばし、伸びをする。

そして、は、と何か気づいたように、片耳をピクピクさせた。


『あ!おいら、ご主人の作ってくれる食べ物は、特別だいすきだぞぅ!

 マスターの食べ物は、マスターの魔力が込められてて、とても、おいしいんだ!!』


 グルグル喉を鳴らしながら、『ごめんよぅ、心配かけて』と言ったあと、アーシアが優しく額から喉をなでてやると、嬉しそうに頭をこすりつけ、コロンと転がると、器用に上体を後ろに倒し、柱の部分に(もた)れて腹を出して座り、身体を舐めた。いわゆるスコティッシュフォールド座りだ。

 マドカは、下半身に重心があるのか、よくやるポーズだ。苦しくないらしい。




 外へ出ると、鹿之丞(ろくのじょう)が待っていた。

 珍しいことに数匹の鹿たちも遠くの方に姿を現していた。鹿たちの寛ぐ、泉の(ほとり)はまるでパステルで書かれた絵のように美しかった。

 この聖域で暮らしているのは、幻獣だけなので、頭数はかなり少ない。

 でも、森の外に隣接する森には、普通の鹿がおり、交流もあるらしい。道理で、ほかの動物は見えなかった訳だ。

 ほかの鹿も、色は鹿之丞よりも鮮やかではないが青鈍色の色をしていた。

 こうしてみると、鹿之丞は、体格もよく身体に艶があって立派だ。


「ごめんなさい、鹿之丞さん、待たせたかな?」


『いいや、きみのおかげで、ここも随分、居心地よくなったからね、お礼にと思って。

 それとね、モンスターの侵入がまったくなくなって、ぼくも時間ができてゆっくりしてるんだよ』


「ああ、それはよかったです。あそこの道を塞いでしまって、不便はないですか?」


『心配ないよ。あっちに行くのは、ぼくだけだしね。きみは、あの罠を維持している魔力のほうはだいじょうぶなのかな?』


 アーシアは少し考えて、ああ、そうかと納得した。


「はい、気にしたことありませんでしたけど、設置のとき以外は、トラップにかかった時だけしか、魔力を使ってないようです」


『そうなんだ、興味深いね。空間魔導師というのは』


「あと、もう少ししたら、ここをお(いとま)するかもしれません」


『ああ、そういえば、学校に行くんだってね。懐かしいな』


 勇者になる来訪者は、必ず学園に最短1年間入学する。そこで、訓練して勇者の旅に出発するのだ。

 だから当然、従魔である鹿之丞も一緒だったという。


『きみ、来訪者だって、知られたくないんだよね?なら、勇者と会うことになったら注意するんだよ。

 従魔自体は珍しいものじゃないけど、喋ったりその従魔の話の内容が分かったりするのは、異世界人だけだから。


 従魔たちのほうは、マドカくんがいるからね、わかると思うよ。でも、自分のパートナーにそれを伝えることは、聞かれない限りしないんだ。

 面白いだろ?』


「そうなんですね、気を付けます…

 …あの、自分のこと黙っていてもいいんですか?」


 鹿之丞は、切り株に凭れ横になっていた前足を悠然と前に組み、


『うん、生き方は自由だ。来訪者にもいろいろなパターンもあるしねぇ。

 転移じゃなくて、転生っていうの。

 たまにいるんだよ。彼らも聖獣や神獣と契約できるし、同じ来訪者扱いなんだ。


 きみは…なんだか、そっちのようでもあるように、見えるんだよね……

 …ぼくが、ここにきみが来た、証人(しょうにん)なのにね…』


「転生者は…どんな感じなんですか?」


 アーシアは、自分の髪の毛や目の色が変わったこと、またしばらく気が付いていなかったが、腕のに付いていたはずの古い傷の跡がなくなっていたことなど、不審に思っていたのだ。


『転生者の資料はあまりないからね、よくわからないんだけど…

 アルディアで普通に赤ちゃんとしてみんな生まれている、かな?で、以前の世界の記憶が戻る場合が多いんだ』


 アーシアは、しばらく呆然としていたが、鹿之丞が心配げに見ているのが分かって、気を取り直して明るい声で、


「たまには、おやつでも、作りましょうか?」



『おやつ~~~!!』マドカが横から叫んだ。



 鹿之丞は、それは素敵ですね、と楽しそうに笑ったように見えた。




 いつもの場所に、折り畳み式テーブル、移動式キッチンストーブを用意する。

 材料は、(とう)イモといって、黄イモより甘みのあるイモだ。橙イモは、さつま芋に近く、黄イモはじゃがいもで、メークインのような感じだ。

 橙イモは、皮をむいてゆでる。炎がもったいないので、下の段のオーブンでも同時に橙イモを焼く。

 次にマッシュして、よくすりつぶす。


『その他に持ってる、網?が棒についてるの、なんだ?おもしろい道具だな』


「うまくつぶして、マッシュポテトにする道具だよ。マッシャーっていうの。

 こっちにはない?」


『おいら、料理道具のことは、しらな~い』


 ふふ、と笑いあって、大きなボウルでマッシュを続けていると、粗方つぶれてきた。

 ほかほか湯気の出るタネに(マッシュしたポテトの素)砂糖とバターミルクを混ぜ、今度は摺棒ですりつぶしていく。


『わあ、なんかいい匂いだぞう!』


 尻尾を膨らませ、髭を前に出してマドカが興奮する。


 確かに、バターミルクを混ぜると、ポテトの湯気を含んだ温かい蒸気に、バターの香りが相乗効果で強くなり、ふわっと鼻腔に広がった。

 ()し器はまだないので軽い『抽出』で、繊維を取って滑らかにし、成型して、卵黄を少量の水で溶いたものを表面に塗る。

 そして、丁度熱されたオーブンに入れた。


『わ~いい匂いだなあ!なんていうおやつなの?』


 お皿を準備していると、イモとバターと香ばしさの混ざった匂いがオーブンからしてきた。


「スイートポテトっていうのよ」


 橙イモのスイートポテトは、上手くできていた。焼きあがると、また次の分だ。オーブンが小さいので量を作ろうと思うと回数を増やさないといけないのだ。

 マドカにひとつ味見させると、


『わぁ、すごいや。おいしいね!これ、いくつか神さまにお供えしようよ』


「へえ、どうやったらいいの?」


 おばあちゃんの家なら神棚があったけど…と思いを馳せて居ると、


『そこのテーブルに置いて、その名前を念じながら祈ったらいいよ。

 おいらのお勧めは、〖紡ぎの三女神〗運命の女神さ!

 名前はね、ウーズさま、ヴェイルさま、スゥードさまだよ絶対だよ。


 おいらたちを合わせてくれた運命に、ありがとうって』


 アーシアはぱっと破顔した。


「そうだね!あと、個人的にお礼したい神様がいるんだけど、大丈夫?」


(確かに、そうだ。師匠やマドカはもちろん…こんなに素敵な出会いに感謝したい…)


『うん、もちろん。何人でもいいんだよ。』


 お供えを用意して、マドカと手を合わせる。


(アルディアに招かれたこと、素晴らしい出会いに感謝をします。そしていつも、見守ってくださり、ありがとうございます……キッチンストーブができて、こんなお料理ができるようになりました。ウーズさま、ヴェイルさま、スゥードさま、そして…かまどの神さま…)


 しばらく、祈って、「お供えは、どこかに置いておいたらいいの?」


 気になってアーシアは言った。


『後は、普通に食べちゃってもいいよ。神さまはおいらたちがお祈りしたら、食べられるんだから』



 全て出来上がったので、浅い籠に数個のスイートポテトを入れて鹿之丞を呼び、


「これ、みなさんの分。良かったら食べてください。少ないかもしれないけど…」


『わあ、いい匂いがしてるなぁって、楽しみにしていたんですよ。ほかのみんなもソワソワしてました。

 はは、うちに帰ったら、ぼくだけで食べちゃおうかな』


「いえ!鹿之丞さんのは、別にありますから!」


 鹿之丞が一度、籠をあちらに置きに行って戻った頃、残りのスイートポテトはできていた。

 ライヤンのコーヒーにミルクたっぷりめもつける。


『『おいしいね!』』


 手作りおやつを、皆に喜んでもらって食べるのは、殊更に嬉しく感じた。

 湖畔の幻想的な景色の中、(なご)やかで楽しい時間が過ぎて行った。







お読みいただきありがとうございました

また、よろしくお願いいたします

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