38 トラップを作れるかな?
すみません、いつもより長くなってしまいました
翌日朝珍しく、いつも夕方の訪問が多い鹿之丞が早い時間に訪ねてきた。
ドンドンと二度ドアを叩く音がして、開けてみると、鹿之丞が口に底の深めの籠を銜えている。
しかし、アーシアはドアを開けて小さく叫び声を上げた。
「ど、どうしたんですか?鹿之丞パ……さん、
血、血が、つつつつ角が……とと、とりあえず、治療を」
鹿之丞の頭が血で汚れ、角が折れている。雑に拭いたのか顔の周りも、所々、どろどろに汚れている。
鹿之丞は、軽く頷くとアーシアを外に促した。
そして、家の前に籠を降ろすと、
『はは、おはよう、アーシア。これはね、気にすることないよ。すぐに治るんだ。
特にぼくみたいな聖獣は。
血なんてもう、止まっているだろう』
それでも、と言いながらアーシアは、空間収納から『紫根膏』を出すと鹿之丞の頭に塗りだす。
『はは、驚かせてすまないね。丁度、角を折る時期でね。
それに、大きくなりすぎてしまっていたんだ。
自分で木とかに打ち付けて折るんだよ。
ほら、モンスターも、きみらがいるしね。安心して折れたよ。すぐ伸びるし。
ぼくらには、普通のことだから、うっかりしてたな。心配させちゃったね……
そうそれで、今日ここに来たのはね、いつも色々お世話になってるからね、ちょっとした贈り物を持ってきたんだよ。
この籠の中なんだけど、見てくれない?』
籠の中には、見覚えのある大きな柘榴のような実と、青味がかった光沢のある真ん中に白い線を持つ大きな葉と乱暴に二つに折れた太く立派な角があった。
『いやあ、ぼくの角の片方なんだけど、それでも大きくて、籠に入らなかったから口に咥えてガンガン叩いたら、何とか入るくらいの大きさになったよ』
『ほんのお礼だから、貰ってくれたまえよ』
「で、でも、ここに滞在させてもらってるし、森で採取も沢山させてもらってます」
『うん、でもね、うれしかったんだよ。君たちとこうして過ごしているのは。
こっちのアウロリナの実は覚えているかい?』
「はい、以前、頂きましたね。ちょうど疲れていた時でおいしかったです」
『うん、こっちの葉っぱは、ラ・レーズの葉といって、ぼくや父母のような幻獣の好物でね、人間は、食べ物にはしないけど、ぼくの角も同様みんな錬金に使うレアなアイテムなんだ。
きっと役に立つよ。
それに、きみ、わざと遠慮してぼくら側に採取に来ないだろう。だからね、持ってきたんだよ』
アウロリナはこの世界での初めて食べた食べ物だった。あの時は正直生きた心地がしなくて、味がはっきりと思い出せなかったのが、本当だった。
それに、幻獣の住処に行かなかったのは、金属アイテムを集めていたためで、そういうつもりはなかったのだが、鹿之丞の心遣いが嬉しい。
「あ、ありがとうございます。大切に使わせていただきます」
『うん、ご飯またちょうだいね。あと、ここにいるときはどこでも採取していいから、遠慮しないでね。
もちろん、今ぼくが持ってきたのも、採取出来たら採っていっていいからね』
鹿之丞は籠をもって戻って行った。
アーシアは、マドカが寝床から出てこないことに気が付いて、すぐに、部屋に入り確かめに行った。
いつもいるキャットタワーを覘いてもおらず、心配になる。スリングで抱っこしている時も時折マドカはふっと、いなくなることがあり、飛び猫だからだろうか、気が付くと居たりする。
錬金釜の裏などを這いつくばって探していると、後ろから
『おい、ご主人、おなかすいたぞ!』とマドカが元気にフワフワ飛んでいた。
「じゃ、ごはんにしようか?」
マドカはいつの間にか急に飛べるようにもなっており、不思議な猫である。
『聖なる森』の侵入を防ぐ装置を考えながら、何かないかとスキル・ウィンドウを開いた。
驚いたことに、今まで???という表示だったレシピが、見えるようになっていたのだ。
【聖潔のエリクサー】
解放条件は、材料の入手とあり、アウロリナの実1、ラ・レーズの葉1,羚羊1/2とあった。
(レイヨウ1/2……)いつも採取してからの分量なのでこの貰ったばかりの大きな角のどのくらいのサイズが1/2に相当するのか分からない。試しに『採取』スキルを使うと丁度良く分割されたものができた。
(なかな便利ね……)しかも、ちょっと量が増えていたりする、普通は反対のような気がするのでいつも不思議に思う。
エリクサーの実績解除にはレベルが足らないのでまだ作れないし、名前と材料しか分からないが、エリクサーといったら最上級の回復アイテムではないだろうか?
実績解除レベルは、63。来訪者の上限が大体レベル80越えくらいだ。レシピのレベル的な面ではもっと高いと思っていたので、少し拍子抜けしたが、作れるようになるのと効果が高いものを作るのは訳が違い、ちゃんとしたエリクサーを作るには、ここから鍛錬しないといけないのだろう。
「ふふ、なんだか目標ができたな……」
さて話を戻して、モンスターの侵入についてだが、壁のようなものを錬金でなく、
ほかのスキル――空間魔法を使うにはどうだろうか、と思い浮かんだ。
空間切断を利用して一つのところにモンスターをおびき寄せることはできないだろうか。
そして、最近アーシア専用として表示された錬金スキルを組み合わせたら、トラップができるかもしれなかった。
壁のほうは、空間魔法の空間切断を応用するのだ。空間が切断されていれば当然向こう側に行けない。
そして、いける方へすべてのモンスターが一か所に流れていく先に、『解体』を『転写』しておくのだ。
原理にはできそうだが、ひとつ問題がある。侵入者は全てトラップに嵌まる。モンスターかどうかまでは選べないのだ。
問題は、もし、モンスター以外が入ったら……
後で、鹿之丞にそのアイデアを言うとあっさり許可がおりた。
『あっちから来るのは、モンスターしかいないんだよ』
用事があるものは、必ず、ビッコロ村のほうからしかやってこないそうだ。
ビッコロ村は、だから『聖なる森の番人』と呼ばれていたのだ。
そうと決まれば、トラップを仕掛けよう。危ないからマドカには、泉のテントで待っていてもらう。
少々ごねたが、ブレマティカをまた焼いてあげると言ったら、素直に頷いた。
森の境に行って、隅を隈なく調べつつ罠を仕掛ける場所を確かめる。
途中……、サンダーファングなどに出会ったが、そのグループは直ぐに処理した。
(サンダーファングか、雷系か刺股の電気ショックは効かないかもなぁ。じゃ混乱剤、状態異常の薬を仕込んだ方がいいのかな……)
トラップ作りは、先ずは森に沿って、空間切断をする。これはかなり難しくやり方を悩んだ。
どうしても、木の枝が少し巻き込まれてしまうのは致し方ないだろう。
一旦手を下に構え魔法を噴出させる。丁度それは某有名な映画のライトセイバーのような色だが、幅の狭いチェーンソーのような形だった。
自分には見えているが、ほかの人に見えるか分からない。アーシアは木を見上げて、
「木の高さは……20mくらい?じゃそれぐらいでいいかな、空からの侵入は防げないかもだけど。
空からはいないって言ってたもんね……」
心配なので気休めでも、呪文で指定してやってみる。
『準備・20m』
『空間切断』
下からまっすぐに上へ振り上げる。心配したが、うまくいったようである。
途中MPが切れて、MPポーションをがぶ飲みして、何とかこなすことができた。
因みにMPポーションの味は、改良を頑張って、懐かしのソーダ味にしてある。MP切れの疲れた体に丁度いい。
その動作を繰り返し最後は、その集結場所に見えないように穴を低めに掘って、『解体』を『転写』する。
『転写・解体』
森に背を向けて展開しないと、自分が入れなくなるので注意が必要だ。
しかし、術もうまく転写できたようで、ホッとする。アーシアは『転写』はかなり便利なスキルだな、と思っていた。
仕組みは全て完了した。空間切断の壁を利用して、モンスターを誘導しトラップに掛ける。うまくいくだろうか。兎に角、あとは待つだけである。
拠点に帰って、亜空間作業場の中で修行をしようと入ると、部屋どころか庭付き一戸建てくらいのスペースになっていた。
ステータスを広げるとレベル、熟練度もアップしている。空間切断を連発したからかもしれない。
ワークショップに入って、物の出し入れの練習をしつつ、これだけの場所があればと、思い立って家を作ることにした。
本当は、作業部屋にしようとしていたのだが、トラップを設置して帰ってきたらこんなに広くなっていたのだ、モンスターの退治もあとはトラップが成功するかを待つだけだ。レベルの上りがすごい。
時間も丁度ある。木も沢山ストックがある。足らなくても、ここは森だから貰うことができるだろう。
(よし、わくわくするぞ!)
アーシアは嬉しくなって、次々に作業をしていった。この時のために?図面も(妄想して)作っていたのだ。
基礎を打ち込む必要がないので、移動工房のテントのように上に被せる形になる。地震の心配もないので大丈夫だろう。
まずは、材料づくりからだ。丸太を組み上げて作るログハウスにするため、丸太を用意する。
木は全て『成型』を使って整え、図面に沿って『組立』を使う。丸太はきれいに整えながら同時に鞍型加工に組むための溝を作る。
呪文で一気にやるか悩んだが、部分的に分けてやるほうが自分の好みに近くできるだろう。
もくもくと作業していると、ピコンと聞きなれた音声が聞こえて、ジャーナルが流れた。
「あ、トラップ、うまくいったみたいね!やったあ。
魔石の数が4個か、討伐数4体。よしよし良好良好」
作業に戻って続けるとまた、通知音が、今度は立て続けに鳴った。うまくいってるみたいだ。
外に出ると、すっかり暗くなっていた。
『あ、ご主人~~?!お腹減ったよう!』
マドカがすっ飛んできてアーシアの顔にビタンとぶつかってきた。
(あ、もふもふだ……)
アーシアは思わずしばし我を忘れてしまったが、マドカの要望ですぐに食事の準備に取り掛かった。
イメージは、そう、マ〇ンク○○トのゾンビ涌きトラップです(涌きませんが)
トラップにかかると、通知音が来てジャーナルが流れ、
ドロップ品自動回収とレベルと熟練度も上がります
あと、アーシアは、チェーンソーな見た目の空間切断の呪文も、
少しだけですがカッコよくないなと思っています
お読みいただきありがとうございました




