37 猫と鹿とわたし
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鹿之丞の言う通り、次のモンスターが来るまでには時間があった。
その間、アーシアは『聖なる森』を隈なく採取したり、亜空間作業場を広げる練習をしていた。
亜空間作業場はかなり広がり、次のモンスターが来るまでには、12畳くらいの広さができるようになっていた。それに伴い透明の空間扉も大きくなった。
初めてエアドアを出したときは半透明のノブのある、形だけは普通の形状だったが、今はドア枠だけがはっきりしている押し扉のようなものだった。
もちろん、ワークショップというだけあって底が、抜けるようなこともない。
入れるようになったので中に入ると、内側の様子は、明るいがなにもない、靄のような壁と床のある不思議な空間だった。
亜空間作業場・中(6畳サイズ)ができるようになった頃、新スキル、空間切断にやっと取り掛かれるようになった。
なぜなら、その後に『解除』というスキルがあって、それが解放されたのがその時期だったからだ。
空間を切り離すというスキルだが、とにかく危ない。
試しにやった時は未熟ですぐに元に戻ったが、切った物質は戻らず、切れたままだった。
慎重派、ビビリのアーシアはそれを見て驚き、必死で解除を覚えたのだった。
ただし、習得後に分かったが、『解除』スキルで戻るのは切れた空間だけで、一緒に切れた物質は元には戻らなかった。
錬金のスキルウィンドウは、レシピが埋まってくると、新しくスキル(またはレシピ)が解放された。
名前が分かるのもあれば、???というマークのものもある。
錬金修行も兼ねて、錬金で猫のケアグッズやリラックス満点な、特性モリモリの素敵クッションを作った。
マドカが乗ると溶けたようになり、
『もう、何にもしたくないにゃ』と言って、自分のものにしてしまった。
そしてアーシアも、マドカが寛いでいるのを利用して、ブラッシングして撫でまわす。
マドカの毛はふわふわで柔らかい、抜け毛が沢山出るので時間があるとブラッシングを欠かさない。
今は、換毛期なのか特に多い。マドカは、どんなに撫でても、クッションのお陰でされるがままだ。
いつかお腹に顔を埋められるかもしれない。
アーシアは、にんまりしながら、マドカの毛を梳いていた。
鹿之丞とも打ち解けて、クラフトしてマドカと同じ【デイスの何もしたくなくなるクッション大・快】をあげたら、見るからに大変喜んでいた。
鹿之丞は聖なる森の神殿の小さな社務所に当たる部屋に一人で住んでいるそうだ。
そこで、一人暮らしと部屋の狭さを生かして、手に届くところに何でも取れる、気に入ったものを収集しては眺めたりと、非常に快適に過ごしているのだという。
【~クッション大・快】はそこにお気に入りの一つとして持ち帰っていった。
また、食事のときも、いつの間にか現れて、時折、一緒に加わっていた。
モンスターが現れるようになって、今度はモンスター狩りに行くようになり、森での生活は慌ただしくなった。
先発隊が全滅だったためか、かなり数が多い。それでも、捌けるくらいだったので、今はよい。が、どうにかしなくては、とアーシアは頭をひねった。
何か錬金で作れないだろうか?そう思っているとお腹がすく時間になっていた。
ひと先ず、置いておいて、食事にしよう。
さあ、今日の料理の時間だ。
採取をするうちに、懐かしいアイテムを入手したのだ。
それは、藁に入った玄米で(厳密に言うと元の世界と同じでないかもしれないが)一度の採取で1合くらいの量が採れた。
そのために専用鍋も昨夜のうちに作り、準備をしていた。食べる分の玄米も『抽出』を使って精米し、ぬかと別にとっておいた。
ブレマティカ(魚類系)Lv.53 の切り身一枚を大きすぎるので適サイズに切って(中身は鮭のモンスターだった)、水、岩塩と少量の酒で漬け込み、一晩おいて水分を切って塩鮭をつくる。
これは一度失敗して、空間収納に保管したらまったく塩分が入っておらず、入れた時そのままの状態で変化しなかったため、今回は工房に出して置いておいた。
お米砥ぎは収納から出した水、最近はサーバーの様に出てくる、を使ってとぎ汁をとりあえずバケツにとっておき、あとで鹿之丞に了解をとって洗い物に使った後に、隅の土に捨てさせてもらおう。
手製ごはん釜に入れて米を入れ給水させ、移動式キッチンストーブで炊く。
その後、以前採取したズッキーニ風のズットーネを輪切りに、同じようにスライスした根野菜(食べられる根っこ)と一緒に、フライパンで素揚げ風に焼く。
ハーブ塩を降って完成だ。丁度ごはんも蒸らしあがり出来上がったころだ。
ごはんに合う焼き鮭とズットーネと根野菜の温サラダ、今夜のディナーの完成だ。
味噌汁がないのが残念だが、あちらから持ってきた発酵食材のレシピの載ったムック本も、なぜかあるいつか自作できるのではと、夢が膨らむ
かわりに、簡単な玉ねぎのコンソメスープを温めなおし用意した。
ご飯の釜の蓋を開けると白い湯気が立ち上がり、お米がつやつやだった。とてもうまく炊けた方じゃないだろうか。
不思議と、こころが熱くなるのを感じた。(ここでご飯が食べられるなんて…)
アーシアはアルディアに来てから、不思議と郷愁の想いなど沸いたことがなかったが、蓋を開け湯気に包まるようなご飯を見て、初めてそんな気持ちになったのだ。
そして、いつの間にか来ていた鹿之丞とともに、席につく。
『うあ、今日はお魚だ!いい匂いだぞぅ』傍でソワソワして見ていたマドカが、飛び跳ねるようにして声をかけた。
『ん、なんですか?今日も美味しそうですね。ああ、このかおりは…』
鹿之丞も、レストランの常連の紳士みたいな佇まいしてやってきた。
『米ですね。めずらしい、このような調理法のご飯というのは、なかなか食べられないのですよ』
「ということは、お米料理があるの?」
『ふむ、米はジュェワ国の主食なんですよ。勇者のお供をしたいた時代に食べたことがありますが…
これは、また、よい匂いですね』
お腹がすきます、と言いながら、定位置に腰かけた。
「塩分とか、食べられないものとかありませんか?」
と言いながら、アーシアは、食事の皿を置いて行った。
『はは、本当に大丈夫ですよ。心配性だなあ』
仕方ないなあという様子で呆れた様子で鹿之丞が言った。
「…そうですかねぇ…」
そうは言っても、アーシアから見たら、いいのかなぁ、と心配になってしまうのだ。
しかも、肉類も大丈夫だなんて。猫は雑食だが、鹿は草食なのでは、と不思議に思うアーシアだった。
『『「いただきます!」』』
まずは、一口ご飯を頬張る。ああ、こんなに胸がいっぱいになるなんて。
次は、焼き鮭を載せて真っ白なご飯と一緒に、塩鮭は少し辛めだが、またそれが炊き立てのほかほかご飯にあう。
(ああ、しあわせ。うれしいな、異世界でこの味が食べられるなんて…)
横を見ると、ふんふんと二匹?がお皿に顔を寄せて食べている。マドカなんて必死だ。猫なのに皿を舐めるようにして食べている。
(猫ってあんな食べ方するんだな…)すると、鹿之丞が顔を上げて、
『いやぁ、こんなにおいしいお米料理、ご飯ですか、を食べるのは初めてですよ。
素晴らしい、炊きあがりですね!水分も申し分ない。なんと、噛めば噛むほど甘みも出て…
…恐縮ですが、ごはんのおかわり貰えませんかね。』
と、グルメ評論家かな、という風情で鹿之丞が言った。
「もちろん、いいですよ。あ、でも、下の方は…おこげがあるかもしれませんが、大丈夫ですか?」
『もちろんいいです。おこげですか…ふむ、試してみましょう、たのしみです』
すっかりご飯が気に入ったのか鹿之丞は、おこげもまたいいですなあ、とか言いながら食べていた。
マドカのほうは、脂がのったブレマティカがたいそう気に入ったのか、大きい切り身を次々に欲しがった。
ブレマティカはモンスターだが、脂がとても多く焼いてる時から白くジュワジュワと沢山浮き出していた。
身はふっくら皮は旨みが強く、噛むほどに美味しい。
『んまっ、んまっ、うまいにゃ!……』と言いながら忙しく食べている。
最後には、お腹も膨れ、楽しい時間が過ぎて行った。
森の生活も楽しいものだと、アーシアは感じていた。
(おまけ)
「そういえば、こっちの世界でも、いただきますって言うんですね」
『不思議かい?こっちの世界では、来訪者の歴史が古くてね。
そのせいで習慣が根づいたものもあるんだよ。ほら、旅を終えた勇者たちが方々に散らばってね。
あちらの世界はアルディアにとって、密接なかかわりになって昔から影響しているんだ』
「そうなんですね~」
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