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異世界放浪~クラフトワークス~  作者: 紫野玲音
第二章 聖なる森と出発
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36 お料理はやはりしたいものです

 

 討伐から泉に戻り、鹿之丞(ろくのじょう)に許可を取った周辺にテントを建て、一息つく。


 モンスターは熊、狼タイプで狼のほうが多そうだった。熊2,狼はまた後から出て来て、8頭いた。

 そのうちの一頭は、ファイアファングといって中級モンスターだが、火魔法を使う。森なので、レベルより火のほうが心配だ。


 鹿之丞に討伐数を報告すると、

『やっぱり、多かったね。それに、つぎはちょっと時間が()くかもしれないね。

 あいつらも、手下が帰ってこないってなってから動くから』と言った。


 森の護り手にはモンスターが森に近づいたかが分かるそうで、来たら知らせる、と言っていた。


 アーシアは、モンスター退治をしばらくやる代わりに、聖域での採取と滞在(クラフト可で)を許可してもらった。


 鹿之丞(ろくのじょう)氏の父母に出会い(にく)い端のほう中心だ。

聖域での採取は種類が豊富なので、ここに居たらなんでも錬金(クラフト)できそうだ。

 拠点用に泉の少し奥の場所にテントを出すと、近くにいた鹿之丞が少し驚いていた。


「あ、空間魔術も使うんですよ。グ、グランピングテントって言うんですけど…

い、移動工房なんです…お、大きすぎますか?」


 つかえながら、急いでアーシアが言った。


(そういえば言い忘れていたっけ)


 来訪者のイベントリとは明らかに規模が違うので、驚かせてしまったのではと焦った。


 鹿パイセンは穏やかに、


『気にしてないよ。これ、すごいね~、家みたいだ。

 じゃ、よろしくね』


と、言っただけだった。



 夕飯はまだ持ち合わせの食べ物があったが、調理する道具も作れたらいい。

 あちらから持ってきたものも、気兼ねなく自由に使えるようになったのは、嬉しいことだった。

 だが、カセットコンロのようなものは、アーシアのサバイバルバッグには残念ながら入らず、持ってこれなかったのですぐには料理できなかった。


 テントに入って、内装を整える。空間収納(ストレージ)からスノコのような分割式の床に敷物を敷く。

 そして、錬金釜と中央には作業テーブルを置き、椅子も一脚置く。部屋の右側にはコット(アウトドアで使う折り畳み式簡易ベッド)とその横には、猫ベッドが収納できる特製キャットタワーを置いた。紐の爪とぎが付いている柱は極太の安心設計だ。


 マドカはキャットタワーを見て、スンとするかな、と思ったら、喜び勇んで上って行った。


 板は3段、それと、籠製の猫ベッドをひっかけられるように金属のポールでできた輪がある。そこに猫ベッドをセットする。丁度、アーシアの胸の高さの位置にベッドがなるようになっている。

 上段にも乗ることのできる浅い箱板が付いていて、間には鼠っぽい人形が紐で垂らされている。

 マドカは、ベッドに入らずてっぺんに上がりごろんと寝ころんだ。


『すばらしい()()()だ!これは、居心地がいいや。アーシア、ありがとう!』


 箱から出した尻尾まで、機嫌よくゆっくり振れている。


「ふふふ、マドカに喜んでもらえて、うれしいな」


(それここなら、錬金するときマドカが危なくないだろう)


 アーシアは、実は心配だったのだ。

 オーツ家の自室で錬金釜を使っている時、マドカがかなり近くにいたから。

 レシピも、危険そうなものが増えてきたし、安全でくつろげる場所があればいいだろう、と思ってのことだった。


 休みがてらにコットに腰かけ、『聖なる森』で採取できたものを確認する。

 なぜか、鉄鉱石や鉄が採れている。ガラスの材料になる鉱物も。あと、ゴムの実というのもあった。初めて見る薬草や実はまだ研究の余地があって分からないが…聖域とは不思議なものだ。

 しかし、金属のレパートリーが増えれば、アーシアはが作りたかったものが早く作れるだろう。そう思って、作業台に行って、その製品の図面を引いていた。

「ここに空気孔が…でこう…こうかな」


『何をつくるにゃ?』眠いのか語尾がニャになっている。


「うーん、アウトドアでも使える、ストーブ?みたいなのでね、ホントに使いたい用途はね…」


 アーシアは集中しだして会話が途切れる。マドカはうーん、と言って眠りだした。




 二日間を、採取したりレシピ埋め錬金したり、鹿之丞パイセンに話を聞いたりしながら過ごした。

 採取アイテムは、アーシアたちが通った方向から西側に向かうと鉱物類が多く取れた。鉄が必要なので集中的に集める。それと一緒にゴムの実という不思議な実がいっぱい採れた。あとは金や銀、ラ・レーズの葉とかいうのがレア扱いででた。(あとで鹿之丞パイセンに聞かなくちゃ)



 移動工房に帰って、必要な材料を作る。まずは、(はがね)だ。



 レシピ :【ハガネ(金属)】鉄鉱石2,石炭1、(水)1、火魔石小1(貝殻や骨、又は灰色石)1 (出来上がり3)


石炭はあまり取れないが、手持ちは足りそうだ。


 材料を錬金釜に入れ、魔法陣を出す。

必要な特性を選んでつけるために、最近は呪文を展開中に分割して出したりと応用をするようになっていた。表面の加工も同時に行う。

(魔法陣出して式埋めて…手が、いっぱいほしい……)



『調合・錬金』………


 次はパーツづくりだ。火耐性と外側には熱遮断の特性を付けるのが難しかった。設計図を横に置き、必要な材料とパーツを床に置く。


組立(アッセンブル)


 魔法陣が次々に展開され、複数魔法式も出てくる。不必要な式は無視し、魔力を練って組み上げる。

 目の前には丁度80㎝くらいの高さの台形の鋼の箱に足が付いたようなものができていた。台の上部には直径20㎝くらいの穴が開き、上に四角い蓋が被さっている。


「やった、成功かな?外で試してこよう」


 猫ベッドからひょこっと顔を出し、少しワクワクしてマドカが言った。


『なにができたんだ?』


「うーん、コンロ?簡易かまどって言ったらいいかな?一番近いのは、移動式キッチンストーブ?

 ふふふふ、今日はあったかいお食事が食べられるかもよ」


 と言いながら、箱の扉を開けると、中は三段に分かれており、中段に鉄板をセットする。

 

 創作アイデアは、向こうにいた時、パソコンでサバイバルバッグのことを調べているついでに、アウトドア用ポータブルコンロのことを色々調べていたため、思い付いたのだった。

 ポータブルストーブといって、薪や木炭などの燃料を中で燃やして料理する、アウトドアクッキングで使用するものだ。アーシアが作ったものは、それをモデルに大きめにしたものだった。


「おいら、ぬるいミルクがいいな」



 ドアを開けて、外に出ると、水の入ったバケツと折り畳み式テーブルを出し、キッチンストーブを準備した。


 すぅっと深く息を拭いて、気持ちを整える。


 上の段に火魔石を置き、手を合わせ心を鎮め安全を祈る。

 古臭い考えかもしれないが、火を扱うものだ。


 魔法陣を発動し火をつける。様子を観察し安全を確かめる。


(よし、成功だ!)




 上の蓋を開け、中段には硬くなったパンをスライスして鉄板に並べ、扉を閉めた。

 鍋を用意し穴にはめ、蒸留水とハーブそれに大きめに切ったカロットやいも、玉ねぎと燻製肉の切れ端を入れる。

賞味料理セットとして持ってきた四角いコンソメスープの素も適時に入れよう。


 魔石の出力を調整して、扉を閉めた。

(火加減は大丈夫だろうか?)


 程なくいい匂いがして来る。塩コショウで味を調えた。ポトフの完成である。

 鍋ごとテーブルに持っていき、温まったパンを並べる。パンが入っていた場所に小鍋ごとミルクを入れ、余熱であっためた。

 ポトフは熱々いい香りがして、パンも香ばしいにおいだった。


「さあ、完成」


『おおー、なんで水の用意してたんだ?』


「うーん、失敗して火事になったら困るでしょ。

でも、もっと亜空間を広げることができたら、そういう実験もやりやすくなるかもね」


 そう言いながら、ボウルに盛ったポトフを食べる。マドカには皿に具を盛り、冷ますように言ってから渡す。

「ああ、玉ねぎ駄目なんじゃないの?!」


『何度言わすの、猫じゃないんだから、大丈夫だよ』


『なんだか、いい匂いだね。昔を思い出すなあ。ぼくもちょっと食べたいな、いいかな?』


 どこからともなく、鹿之丞(ろくのじょう)が現れた。


「あ、鹿之丞さん、もちろんいいですけど、玉ねぎとか食べられないものありませんか?」


『ははは、来訪者はみんなびっくりするね。ぼくは聖獣だから食べ物も食べるし、何でも食べられるよ。むしろ、君の相棒、神獣なのに食べ物を食べるなんて珍しいよね』


「ははは…」

 やや乾いた笑いをしながら、アーシアが大きめの皿に同じように盛って目の前に出す。

 鹿パイセンは、おいしいおいしいと言いながら食べていた。


『おかわりいただけるかい?…ああ、ずっと長く、ここにいたからね』


 鹿之丞パイセンが言った。すごい食べっぷりだ。

 なんでも、人間の食事は久しぶりらしい。勇者との旅で食べていたようで、それでも、故郷に忘れられない食べ物があったので帰ってきたとも、口にポトフの具を頬張りながら、言っていた。

 ただの食いしん坊ではなかろうか、神獣や聖獣のイメージが変わったアーシアだった。





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