35 鹿先輩は聖獣だった(リタイア済の)
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鹿先輩は、アーシアたちに附いてくるよう促し、自らの拠点である泉の周辺の開けたところへと連れて行った。
マドカも自分の足で随いて行く。鹿と直ぐに打ち解けて、共通の話題でもあるのか、話をしながら歩いている。
聖域のせいか、泉の水面は、きらきらと光が集まって光っているように見えた。周囲の草原にはそこここと花が咲き、周囲には囲むように低木のハーブや実を付ける木々があった。
鹿パイセンは、その泉のそばの草むらに腰かけた。
アーシアたちも、彼に倣って近くに向かい合うように座った。
『さて、話そうか。ぼくの名前はさっき言ったね、鹿之丞だ。
ここで生まれた聖獣で、この聖域を管理しているが、なあに、隠居した、元は幻獣モドキさ。年老いた父母もここにいるけれど、ちょっと神経質でね、人には会いたがらないから気にしないでくれ。
ところで来訪者どの、きみは『なに』になったんだい?』
腕を前に合わせて、ゆったりと鹿之丞が言った。
「あの、まずは、教会?に連絡して、マドカをよこしてくれて、ありがとうございます。
わたしは、こ、こちらでは、アーシア・デイスと言います。
錬金術の勉強をして、錬金術師を目指しているところです」
変な抑揚になってしまったが、鹿へのお礼も自分の紹介もできた。
『いや、ぼくは大したことをしてないよ。
ま、無事でよかった。きみがどこに出てくるかわからなくてね。安全に暮らせていたのならいいよ。
……ふむ、錬金術師か、それならちょっと頼めるかな――』
鹿之丞氏の頼み事は、『聖なる森』の端の境にあたる場所にモンスターが出没する、丁度今多くなる時期ではあるのだが、今年は例年以上に多いため、討伐を手伝って欲しいとのことだった。
早速、その区域の下見に行くことにする。森の外れであるので少し遠かったが、今朝のうちの聖域に着けたので、まだ時間もある。
穏やかな森を、マドカと道すがら神獣と聖獣の違いについてや鹿之丞氏の私的なことを話し歩いた。なんでも、さっきの短い間に色々聞いていたというのだ。
マドカは肩に載っているが飛び猫のせいか重くない。(普段は重いので飛び猫のスキルかもしれない)
聖獣は神獣と違って親から産まれるそうだ。
初めから神気で生まれる神獣と違い、元は普通の動物や幻獣の類が、聖域の聖気に長らくさらされて代々続くと聖獣になるのだという。
聖獣はその聖域を護る義務があり、この森はもともと鹿之丞氏の父親や親族が守っていた。鹿之丞氏が勇者との旅から戻り、現在は晴れて、護り手をしている。
そうなると森の護り手である鹿パイセンは跡継ぎが必要になるので、親から結婚をせっつかれているそうだ。鹿之丞氏曰はく、勇者との旅から帰ったばかりでゆっくりしたい、寿命も長いのだから焦る必要はない、女性は苦手だ、もう少し放っておいてほしい、とのことだったそうだ。
(う~ん、どこの世界も、世知辛い……にしても、どこぞの男性のようだな)
そうこうしている間に、森の終わりに近づき、出口に向かう手前の低い崖の上で、木々に隠れて下を見下ろした。ヒリヒリとした危険な雰囲気が漂ってくる。斜め掛けしたバッグには、冬にレシピ埋めに作った混乱剤と、師匠の火炎剤、爆弾・小も取り出し易いところに入っている。
下の方で、一匹、黒っぽい、大きな犬のような姿が横切った。
相手は様子をうかがっているが、アーシアたちのことは距離もあり、丁度見えない。
先手必勝だ。
『集中』
『解体』
瞬時に、その犬のようなモンスターは消えた。
アーシアの左正面の上側に、ジャーナルウィンドウが現れる。ステータススキルを発動したせいか、こういったウィンドウが、度々現れるようになった。
[ブラックハウンド Lv.28 噛みつき/ 偵察 :1体討伐]
[鋭い牙、赤い肉、毛皮 魔石1 ]
(ブラックハウンドっていうのか、偵察に来たってこと?じゃ、まだ後からも来る?)
案の定2体のブラックハウンドがキョロキョロしながら現れた。仲間が急にいなくなったと慌てているのかもしれない。また、射程距離に来ると
『集中・解体』
『集中・解体』
もう、近くにはいないことを確かめて、森の出入り口へと向かう。
この森は外と遮断するように、木々が行く手を遮り、一種の壁のようになっている。
こちらのモンスターが侵入するのは一か所だから、護り手が森を防御しやすい。もう一か所はビッコロ村につながる道だ。ビッコロ村にも『森の番人』がいるので、ここが主な侵入口だ。
出口に着き、身を隠しながら、注意深く周囲を見る。外の森の木の裏から大きな影が動いた。
刺又を出し両手で構える。『鑑定』と、小さな声で言う。
[ノーマルグリズラー (熊系モンスター):Lv.30:噛みつき 体あたり/属性なし/(スキル)抱きつき/攻撃78 攻撃防御70 魔防45 状態異常耐性 弱]
まだ、しっかり陰から出てこないので、しばらく構えて待つ。マドカは音もたてず木のすぐ上に飛び乗った。
モンスターの前の葉が動き大きな顔を伸ばすように出てくる。
はっと目が合った。グリズラーは、一瞬両手をついて加速をかけて飛び掛かって来た。
「ふぉ、『集中』……」はやい、大きな手を振り上げてアーシアの前に倒れるように襲い掛かった。
運よく刺又が丁度グリズラーの首の辺りにぶつかる。やはり視力が弱いのだろうか。
『アーシア!』
マドカも風魔法で、梃子の原理でそこに押し込むよう、風を出した。
急いで、スイッチを押し強度MAXの電流を流す。
グアアアグググアアーーー
グリズラーは驚き苦しんだ。
『解体』
シュンという音なき音とともに、ノーマルグリズラーは消えた。
『おいおい、大丈夫か?サスマタ、だっけ?
それを使うなら、槍の練習したほうがいいんじゃないの?』
口調とは裏腹に、マドカは心配そうな様子だ。
「うん、もう少し考えなきゃね。
そういえば、もしかして、マドカの風魔法強くなった?!」
『ああ、そういえば、おまえと契約したらレベルもあがったぞう!
魔力も増えたし』
(……マドカさん、いままでどんなレベルだったの)
心の中で少し突っ込んだが、直ぐに気を取り直して、マドカを見上げ、言う。
「なるほど、頼りにしてるよ。
さて、まだいるかもしれないから、この辺りで頑張ろうか?」
『おう、その調子だぞ!よしやろう!』
二人はそのあとしばらくの間、モンスターの討伐をこなしていった。
グリズラーは、視力は悪くありません
むしろ、とても遠くが見えます
身体が大きいので、スピードと重さで多少ぶれるくらいです
アーシアは、幸運だったと言わざるを得ません
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