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異世界放浪~クラフトワークス~  作者: 紫野玲音
第二章 聖なる森と出発
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34 聖なる森へ

 

 村の外との通用門には向かわず、そのまま『聖なる森』をめざす。みんなには、『聖なる森』に向かうなどと言うと心配するので、『聖なる森』のほうの道を抜けて、遠まわりして行くのだ、と言って出発した。


 慣れた山道に向かって、いつもの採取地の方角へと向かう。

 『聖なる森』に一番近い道だ。


 黒いブラウスの上に皮のコルセット型のベスト、丈夫なワインブラウン色のズボンに膝丈の黒のロングブーツを履き、フード付きの青味がかったグレーのショートマントを着ている。

 (はた)から見たら軽装だが、動きやすく、空間収納に必要なものもあるので、準備万端だ。

 髪の毛は長くなったので、邪魔にならないように耳の高さで後ろに一つに(くく)っている。


 フードの中には、師匠の爆弾が入ったベージュの鞄をタスキ掛けにし、その上には青と生成(きな)りの縞柄の【デイズの安心ベビースリング】を掛ける。


 中にはすっぽりと、飛び猫のマドカが満足げに(くる)まっている。


 従魔なのに、これでいいのだろうか。


 図々しい、


 しかし、撫でると驚きの柔らかさの魅惑の毛を持つ、にゃんこには敵わないのだ!!

 毎日丁寧に高級ツゲの(くし)で梳いているので、見事にふわふわだ。



 旅立ちの準備の合間に趣味も兼ねて、猫のケアグッズを用意していた。

 オーツ家で何かいいものはないかと聞くと、動物用はないとのことだったので、人用の目の細かいハコツゲ(こちらでの柘植)の櫛、と自作で携帯用水飲みと猫ベッドと猫じゃらしのおもちゃを用意した。

 猫じゃらしのおもちゃは、いらないと言っていたが、ニーちゃんに散々遊んでもらっていた。よし、もっと、作ろう。

 また、猫トイレはどんなのがいいかと、マドカに聞くと、神獣は排せつしないという。空気中の魔素や主人から魔力を自然に貰っているのだそう。

(うちのマドカはごはんを食べているけど、体の中で、それはどうなっているのだろう……)アーシアは大変、気になった。



 早朝から出発して、森に入ると刺股を出した。


「サスマタくん1号、こっちの世界で見ておかしくない?」


 マドカは、スリングの中から、眠そうな顔で、


『うーん?魔導師の杖みたいでいいんじゃない?槍には…見えないかな』


 と言って、またむにゃむにゃと中に潜っていった。


(変に見えなければいいか。うん、杖だね)


 途中一度昼食を取り、さらに歩くと、中級モンスターと遭遇しだした。

解体(ディセクション)』を複数同時に唱えながら、作業のように歩く。

 サスマタくん1号は、両手で魔法陣を繰り出さねばならないので仕舞(しま)って、いなくなると出して、歩く補助にする。

(…うーん、まあ、大きいサイズのモンスターじゃなかったしね…)


 そうやって、危険な地域は、❝ポッケナイナイ攻撃❞しながら進み、『聖なる森』の入り口付近になった。


 この辺りではまた、安全な区域になるので、一晩、野宿することにした。木々が密集しているのでテントは出せない。収納していたサバイバルバッグから寝袋を取り出した。ー5℃まで対応の冬用だ。

 因みに、亜空間作業場、ストレージワークショップは、まだ、人が入れるほどの大きさでない。マドカなら入れるかもしれないが。


『えー、野宿~~?!おいら、やだぁー』


 わがままキャットである。


 ならばと、安全であろう亜空間(ストレージ)作業場(ワークショップ)はどうかと聞くと、寂しいからと駄々をこねる。

 なので、マドカ用に作ってあった籠ベッドを用意して、寝袋を広げた傍に置く。布団も、赤ちゃんのしあわせふとん、天国の寝心地の特性つきだ。

 しばらくして、すうすうと猫の寝息が聞こえてきた。静かな森でも、寂しさを感じずに済んだ。


 翌朝、起きて、旅用に揃えたなんちゃてホーローのカップと金属の皿を出した。なんちゃってなのは、釉薬が適当なものだからだ。

いつかきちんとしたものを作りたい。

 朝食に、チーズを薄く切って、パンに挟んで食べる。マドカもハムを欲しがった。ミルクと一緒に与える


 以前、人の食べるものを欲しがるので、「塩分が強いから、猫にはだめだ」というと、『おいら、猫じゃないやい!大丈夫だ!』と言ったので、それから自分のを分けてやるようになった。


 そもそも、神獣は魔力が栄養源なのだそうで、食べる必要がないのだという。

なんで食べたいのだろう…ほかの猫と育ったからかな?食べたものはどこに行くんだろう?そんなことを考えていると、決まってマドカが、『なんか、失礼なこと考えてただろう!』というので、従魔は主人の心が読めるのだろうか、と思ってしまう。


『聖なる森』は、他の森と違って見えないのだが、採取できるアイテムに珍しいものがちらほらあった。

 鑑定もそこそこに、先へ進む。森に差す光が(おごそ)かな雰囲気をだし、空気が静かだった。


 かなり森の中央まで来たところで、見知った場所になってきた。よくアーシアが蘆屋日奈子であった時、自室で睡眠中にアルディアに来る際は、この辺りだった。


「たぶん、着いたと思うよ」


『そうだな!やれやれ』


(いやいや、きみはスリングに揺られてきただけだから…やれやれ)


 しばらくすると、向こうのほうから、大きく立派な角を持つ青鈍(あおにび)色の牡鹿が現れた。


(鹿パイセンだ!)


 近くで見ると、大きな鹿だ。玉虫色のきれいな羽のような毛が、厚く下に向かって垂れるように背を覆い飾っている。


 マドカがスリングから、颯爽と出てくると、その鹿に近づいて行く。


 両足で立ち上がり、手を合わせて、


『我は、ヴァスキス神聖国の神獣がひとりにして、


 そこの異世界の来訪者アーシア・デイスの従魔のマドカという。


 聖なる森の聖獣どの、このたびの来訪者の知らせ、深謝(しんしゃ)申し上げる』


(しゃ、しゃべりかた……どうしたの、猫ちゃん?!)


 牡鹿はゆっくり背筋を伸ばして、周囲の空気が震えるような深い声で、


『私は『聖なる森』の護り手で、鹿之丞(ろくのじょう)という。


 ヴァスキスのマドカ殿、お初にお目にかかる。来訪者どの、よく来てくれた。


 随分見た目が変わったが、元気そうでよかった』








鹿さんの名前は某名所で有名な鹿さんの名前をつけさせて頂きました 

神獣、聖獣などの従魔契約できる生きもので、名前があるというのは誰かに付けられたということで鹿之丞の相方だった勇者はそこ出身だったのかもしれませんね



お読みいただきありがとうございました

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