31 やりたいこと
猫のマドカを従魔にしたことを子供たちに言うと、二人とも喜んだ。
どこかで里親を見つけると思っていたそうなのだ。
一緒に暮らせるのが、とても嬉しいと言っていた。
二人は、マドカをかわいい、かわいいと言ってて甘やかせている。マドカも満更でない。ただ、サムくんはちょっと加減ができないせいか、やや避けられ気味だ。
ステータスウィンドウを見れるようになって、アーシアは忙しくなった。
スキル表で、自分のレベル圏内で実績《未経験》と表示されているスキルがかなりあったのだ。できるがやったことがないという意味だ。
つまり、スキルやレシピの実績が、スキップされていたのだ。
初歩調合や錬金はかなり埋まっていたが、それでも虫食いだった。いくつかは、材料の入手関係で出来ないものもあった。それ以外も、なるべく埋めようと、アーシアは決心した。
そしてこのスキル表から、師匠からは、確実に習得してレベルが上がるように教えてもらっていたことも分かった。
また、空間創造魔法の練習も時間が空いた時に、こまめに行う。
意識してやるとかなり上達するようだった。
マドカによるとアーシアのイベントリはほかの来訪者と比べて異質だという。
空間魔法をもってるからかな、と首をひねっていた。
空間魔法の練習3回目に、半透明の小さな正方形の空間扉と30×30×30cmほどの亜空間ができ、中も覘ける様になったのでびっくりする。
基本魔法の練習は、スキルウィンドウにある通りの呪文を、魔力展開、魔力を込め唱え発動させるというやり方で、これを繰り返す。スキルウィンドウのおかげで、名前だけでなくレベルや熟練度、次の習得にはどれがお勧めかなどが分かり、大変便利になった。
錬金術のほうでは、レシピから出来そうなものを選ぶ。
(衣類がいいかな?裁縫スキルでやるのがもあるけど、方法が違うみたいだね)
全ての初歩的な生産系スキルを、アーシアは習得していた。なるべく一つに絞ったほうがいいというスキルだが、錬金術師が習得に必要な分野は多岐にわたる。(これが錬金術師が器用貧乏って言われる由縁なのかも…)
錬金術師なので錬金でやることにする。布はクラフティングしたものがあったので、未経験レシピの【マルチ染料】というのを、錬金する。
そして、使う布と糸に【緑染料】を使用すると、魔法陣から染められる緑の色調の範囲がクラデーションで提示され、若葉のような色を選択した。
デザインを決め、多重魔法陣を使って洋服を仕上げていく。
空中に若草色のワンピースが浮かび上がった。
一着できると、また、デザインに合わせ、布、色を決めて作るを繰り返す。
ニーちゃんのは後でスカートのすそに模様をつけられないかと、紙にその模様を描いて、やや濃い同系色の刺繍糸用意して魔法陣を展開すると、思った通りの位置に草の連続模様がパイピングのように付けられた。
ものすごい速さで、次々と服が仕上がっていった。
一着は防具として、魔法式をつかって能力特性を上げ、他は着心地とデザイン性、といってもアーシアにとっての、重視で作った。
出来たものをいくつか持って、部屋を出る。すぐに、帳面を抱えた、ニーちゃんに出会う。
「あ、お姉ちゃん、マドカちゃん、元気?」
「うん、元気だよ。ニーちゃん、ちょっといいかな?」
「うん、なあに?」持っていた手をパッと広げて、さっき作った若草色のワンピースを見せた。
「わあ、かわいい!!」ニーちゃんの顔は花が咲くように笑顔になった。
「これ、ニーちゃんに作ったの。よかったら、着てみてくれない?」
「うわあ!うんうん、もちろん!」
ニーちゃんはそう言って、すぐにアーシアの作ったワンピースを着てきてくれた。
ふわふわした髪に緑色のリボンがよく似合うニーちゃん、嬉しいことに、白い襟と共布の胡桃ボタンの付いた若草色のワンピースは、とてもよく似合った。
「うふふふ。こんなにかわいいワンピース、わたし、初めて!それに、着心地もすごくいいの!」
弾むように言って、
「お母さんに見せてきていい?」と聞くと、直ぐ振り返って、
「アーシア姉ちゃん、本当にかわいいワンピースだわ。どうもありがとう」
と、にっこり笑ってアーシアに、とても嬉しそうに言った。
残りは、師匠とサムくんに。
師匠には、外出用の濃い目のフォレストグリーンのワンピースで、師匠の深いワイン色の髪に合うようにと作った。アンティークゴールドの真鍮のボタンがアクセントになっている。
サムくんには、特性が[物理耐性と丈夫・強]が付いた皮製のベストと、黒と深赤の毛糸で作った火魔法耐性の手袋をおまけにつけた。
ミトンの上が捲れるようになっていて、素手の指が出るようになっている。あちらの世界にもあった便利なキッズデザインだ。
サムくんは去年、自分で手袋の指の部分を切ってしまい、師匠にしこたま怒られたのた。
なので、最初から出るような手袋にしたのだ。
二人とも大変喜んだ。
サムくんは、手袋を見て、「うれしいけど、ちょっと違う」と言っていた。
なにが違うんだろう…
その日、夕食の片づけが終わる頃、師匠が、話があるからと声をかけた。
「以前にも言ったと思うけど、アーシア、あんたの今後のことだよ。
あんたは特別器用で…必要なレシピは大体覚えたからね、
もう一人前の錬金術師として資格を取ったほうがいい。
…前に、あたしが学園のことを説明したことがあったよね……
学園はね、何歳でも入れるから、しばらくやりたいことをした後に行ってもいいんだよ。年齢なんて関係ない、いつでもいい。
でも、あんたは正式な錬金術師になったほうがいい。
なぁに、アーシアなら、飛び級して、すぐに卒業できるだろうよ。
……あんたは、今後どうしたいかい?
ここは、小さい村だから外の世界を見るのも良いことだよ」
カタリナ師匠は、ここから行くならセドゥーナ学園がいいだろう、教授陣も内容もアルディアで一番で、中心的なところなんだよ、と、話を結んだ。
(どうしたい?…わたしのやりたいこと、やりたいことってなんだろう……)
もちろん、正式な錬金術師の資格は取りたい。しかし今、ステータスウィンドウでやることはたくさん増えた。まとまった時間が必要だ。そして、それをこなしながら、入学の用意はできるだろうか?
学園の入学は、秋。一番早い入学試験は8カ月後だ。
だが一方で、どこかに籠って集中してレシピ埋めと空間魔法のスキル上げもしたかった。
むこうの世界にいた時は、ただ漠然と決めれた動作を繰り返す、疲れて感情も薄くなったただの大学生だった。就活も、就職も…決められたレールをただただ歩むのだと、漠然と思っていて、希望なんて考えたこともなかった。
この世界なら錬金術なら、なにか自分らしい、新しいことができるかもしれなかった。
そうそれに、せっかくこの世界に迎え入れてもらったのだから、アルディアのいろいろな場所も見てみたい…
(8カ月…うん。がんばってみよう)
「カタリナ師匠、ゎ、わたし、頑張ってみようと思います。……春になったら、外に出て錬金のスキル上げ…修行して、お金もためて、学園で資格を取りたいと思います!」
「うん、いい考えだ。学園への紹介状を書いておくよ」
紹介状に期限はないから、いつでも出せるからね、と、師匠は言って、扉を出て行った。
後日、この無期限の紹介状に、思ってもみない状況で助けられることとなったのだが、まだまだ先のことだった。
別れのときが近づき、少々寂しいですが、お話は続いていきます
お読みいただきありがとうございました
また、よろしくお願いいたします




