29 ペットは飼ってはいけません?
『そういえば、お前の名前は?なんていうんだ?』
「アーシア・デイス」
『ふーん、他の来訪者と感じが違うな。
そうそう、アーシア、なまえ!おいらに、なまえちょうだいよ!
従魔契約しようよ』
白いマヌルネコみたいな飛び猫は、大きな声で言い、従魔契約には名づけがいるんだと、また繰り返し強調した。
『そうそう、おいら、移動式寝袋、気に入ったぞ!天国みたいな寝心地だったぞ!
あんなの作れるの、おまえ、天才だな!召されそうになったぞ』
『あんなすてきな寝袋に入れるなんて!おいら、おまえと契約したいぞ!』
(移動式寝袋って、ベビースリングのこと?あの防具扱いの。
召されそうって…やっぱりあのスリング危険な代物だったのかも…
それに、このうちで猫を飼うなんて、師匠の許しを貰わなきゃなぁ)
しばらくアーシアが、考え込んでいると、
『それとも、おいらじゃだめかな……ハズレだし。
……おいら、普通の猫より丈夫だしほとんど病気しない、
寿命もあってないようなもんだ……トイレの心配もないぞ!
………戦闘系の来訪者じゃなさそうだって聞いてたから、おいらでもいいかなって思ったんだけど』
ちょっと、気弱そうになった。しょぼんとした猫の姿は、見ていられない。つい、ふらふら甘やかしたくなってしまう。
そう、アーシアは、名前を考えるのが、すごぶる苦手だった。
例えば、ゲームのはじめに使用する名前を設定するのに非常に時間がかかった。セーブできないところなのに、ログアウトしたいくらいに。
おまけに変な名前しか出てこない。
「な、名前って、う~~~~ん、ぬこ、とか…?」
『え、いやだよ!なにそれ』
「そ、それに、ここ、師匠の家だから、猫、勝手に飼っていいか、わかんないよ!」
『えーーこんなに、大変な思いしてきたのに、ひどいよう。鬼だあぁああ』
ドアの外から音がした。
「あらぁ、随分元気になったのね」
小さくドアをノックして、師匠が入ってきた。猫はワンワン?いや、にゃんにゃん泣いている。
基本、神獣のおしゃべりは一般には、鳴き声として聞こえるそう。
師匠に、この子を従魔するので、飼っていいか聞く。
「ん?従魔にするんだって?もちろん、いいわよ。
うちでその子、飼い主さんいなそうなら、面倒見ようと思ってたんだ。
猫なら鼠とか追い払ってくれるから。あんたの従魔になれそうなら、なおいいね!」
従魔には、力や契約者の能力も加わるから、相性があるらしい。契約出来そうなら、とてもラッキーだったね、と言って、師匠は笑って戻って行った。
「ところで、飛び猫ってなにができるの?」
『飛び猫だよ!飛ぶことができるんだよ!風魔法が使えるんだ。ちょっとやってみせるぜ!』
意気揚々と低いサイドテーブルに、飛び乗った。
「それは、普通の猫でもできるでしょう」
テーブルの上で、四つの手足をぐっと開いて、踏ん張りようなポーズをとる。
『おいらの手足からはジェット噴射のよう風魔法がでるんだぞ!ふんっ!』
と、踏ん張ると続いて
『飛べ飛べ、飛べ、飛んで、飛べ…』
呪文?なのかしばらくすると、ゆるゆると猫が浮かんだ。
しかし、かなり時間がかかる上に、テーブルとの間は2cmくらいしかない。
『ほら!おまえも、応援してよ!飛べ、飛べ、飛んで!』
「う、うん。がんばれ。飛べ、飛べ、飛べ、はいっ、飛んで、飛んで」
アーシアも飲み屋さんのコールのように、猫に合わせて、掛け声を言った。
応援のかいあってか、猫がアーシアの目の高さまで浮かんできた。
こんもり大きい綿のような猫が、必死の形相で空中でよちよち這うように手足を小刻みに動かし(風を噴射する角度を変えているのだそう)伸ばして、浮かんでいる。大変そうだ。
左肩が少し下がってきたように見えたので、アーシアは、ちょっとでも手伝おうと指先で肩の下の脇腹のあたりを軽く突いた。
『うあぁぁあああああ~~~』
勢いよく皿廻しのようにぐるぐるぐるぐる回りだし、猫が叫ぶ。
『ぎゃー、止めて!まわっちゃうよ!まわるー、まわる!まわる!ぎゃー』
勢いに乗って、旋回しはじめる。
(あ、あ、どうしよう。動き出した。ラジコンみたいだな…なんてったけ、あ)
ラジコンのヘリコプターの羽そっくりだ、外でなくてよかったかもな、などと考えつつも、ぐるぐる飛ぶ猫を慌てて追いかける。
『まわるー、まわるー、まわる!まわる!うわぁ~~~ん』
アーシアは、止めようとわたわたしたが、力尽きたの時間も置かないで、猫の速度が下がり落ちてきた。
そっと、手に抱きかかえると、猫が目を回している。
(可哀そうなことしたな……)
【HPMPポーション小・ミルク味】を取り出して飲ませた。効果が強すぎるのが心配なので、敢えての《小》である。心なしか嬉しそうに飲んでいる。
『ふ~、びっくりした』
目を回していた猫は、『しんどいから、ほら、アレだしてよ。アレ』
「?」
『寝袋だよ!さっきの極楽移動式寝袋!』
ああ、と思って、スリングを取り出す。
「どうやって、ここまで飛んできたの?」
猫を包んで、抱っこする。
『風に乗るんだよ。おいら、うまく乗れるんだぜ!気流を乗り継いでここまで来たんだぞ』
(それって飛ぶっていうより…どっちかって言うと滑走?…モモンガみたいな感じかな…)
『なんか失礼なこと考えてるな!』
おかんむりの猫をスリングの上から、ぽんぽんしてなだめる。
『ねぇ、名前つけてよぅ』
スリングの中でもこもこに包まれて、猫が目を丸く潤ませて言った。
(うぅ、かわいい!こんな顔には、かなわないよう…どうしよう…名前なんて)
「あとね、猫ちゃん、わたしが、さっき言った名前、新しい名前なの。古いのはアルディアに来て、捨てちゃったのよ…契約に問題ない?」
『うん、平気。アーシアは、今ここにいるアーシアの本当の名前だぞ!』
「うん。そうねぇ……(どうしよう、思いつかない…飛び猫、飛び猫…飛んで、飛んで…)
……じゃあ、――ま… 円 なんてどう?」
『マドカ!かっこいい!響きもいいな!気に入った!』
猫は、ぴょんと飛び出してきて、にんまり得意そうな様子だ。
『じゃあ、従魔契約するよ。魔法陣が開いたら、おいらの名前を呼んでくれ』
『契約・従魔』!飛び猫と魔力を合わせる。
大きな魔法陣が出てきた。『マドカ』!!はっきり強い調子で言うと、陣が光った。
『これで、契約完了だ!お?なんだか力が漲ってくるぞ』
「マドカ、これから、どうぞよろしくね」
『おう、アーシア、任せといてよ!』
『ところで、マドカってどんな意味だ?』
「まど……っ、人柄が穏やかで調和がとれていることだよ……」
『おいらに、ぴったりだな!!』
「うんうん」
(……うん、なんか…………ごめん、他に思いつかなかった)
~~まわって、まわ~る~
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