2 パジャマで異世界
夢の中で、記憶にないのにはっきりしている場所がある。日奈子のあの講義の不可思議な経験は徐々に増えていった。昼は気絶するように、また夜はより生々《なまなま》しくなっていった。眠りが充分でないのか、朦朧となり疲労だけが蓄積されていくようだった。
決定的におかしいと気づいたのは、何度目かの夜のことだった。
普段通りにくたびれた厚めのパジャマであの森に、またぼんやりと立っていたのだ。驚いて足を何度か踏み外すと、ヒヤッとした黒い土とごつごつした石に痛みにはっとなった。
なんて頼りない恰好なんだろう、歩こうにも素足では痛く怪我をしそうだ。
辺りを見渡すと、樹海のただなかであり、じっとしているのも不安だったのでそろりそろりと足に体重をかけないように動きだした。
≪カサカサッ≫
何か生き物がいるのか、日奈子はおびえて音がしたほうから必死に遠ざかった。
しばらく走りやや見通しのできる細い川に出た。喉が乾いた。
(ああ、早く帰りたい。早く夢から醒めて!)
日奈子は川に手を伸ばし水を掬い、憑かれるように飲んだ。夢であるはずなのに、不思議と不味く感じた。足が痛い。
それでも川沿いを歩いていると、急に胃が熱く差し込んだ。
(痛い!痛い!)
日奈子は地面にうずくまり吐いた。先ほど飲んだより沢山吐き出し気を失った。
気が付くといつものようにベッドの上だった。硬い地面に横たわっていたはずなのに、やわらかいベッドにいることに、日奈子はほっとした。
おかしいのは、パジャマには黒い乾いた泥が付いて汚れていること、足の裏は怪我でひどく傷んだことだ。
また腹も痛いままだった。
足の怪我は自分で消毒し、腹もまだ痛むので大学を休んで病院へ行った。




