26 ビッコロ村の日々③
秋は手伝いに忙しい。村中協力して収穫をするのだ。採取スキルが高いせいか仕事が捗るので、アーシアは、村人にかなり喜ばれた。
親しくなった女の人たちに、アーシアの乳液とクリームを売ってもらえるだろうかとも聞かれ、驚いた。
見本を使ってもらった、パーマー牧場の奥さんからの口コミで広まっていたようだった。
おかげさまで好評で、注文が結構入った。
クリームは改良を重ねて、あのローズヒップに似た植物の配合を工夫して【デイス・お花のクリーム 美白】、というのもできていて、外の仕事で日焼けの気になる婦人たちにも興味深々で、こちらも人気があった。
お手伝い後は、収穫物をお土産に沢山もらった。
そして、そのパーマーさんの奥さんから、ひとつ相談をされた。奥さんの妹さんに赤ちゃんが生まれて、なかなか寝ない。ずっと暴れて、疲れたらやっと落るようにストンと寝る。抱っこのときでさえ、かなりむずかり暴れて危ない。他の用事もできないと困っていた。便利なものはないだろうかということだった。
家に帰って、師匠に話すと、
「ああ、その赤ちゃん、魔法スキルが強いか、魔力量が多いのかもしれないね。
サムもそんな感じだったんだよ。
スキルも初めはうまく出せないからね、多分、苦しいんだと思うよ。
まぁ…スキルが出せるようになったら、なったでお母さんが危ないから…ましかもしれないんだけどね…
寝る時間が短いのも気になるね。…サムはそれでも結構、寝てたから」
それを聞いて、ひとつ思い浮かぶものがあった。向こうの世界での抱っこアイテムだ。こちらにもおんぶ紐はあるそうだが、あまり月齢が低いと使えない。
(寝かせるなら…スリング!スリングならどうかな?特性を盛って、寝やすくならないかな)
スリングとは物を吊るしたり、赤ちゃんを抱っこしたりするための紐状の道具だ。三角巾のような形で首から掛けるもので、畳んでもコンパクトで、赤ちゃんとの密着度が高く安心感を与えられる。正しく使わないといけないが、ベビースリングがうってつけに感じた。
早速、生地から取り掛かった。
魔法陣の上に重なるように浮かぶ図形…アーシアは呼びにくいので、魔法式と(分からないので仮に)名付けた。その魔法式を、素早く光らせ完成させられるようにもなってきて、特性も安定して付けれるようになってきた。
『調合』魔法陣を開き、魔法式を完成させる。
(よし、うまく特性を移せたかな)
『鑑定』
[パムケット(材料・布):(品質A・112)攻撃防御42 魔防48 柔らかく丈夫(数量1)/(特性)安心の手触り 丈夫・大]
今度は、赤ちゃんが直接触れる、裏地になる部分の布だ。パーマー牧場で採取させてもらった山羊毛を、混ぜる。
『調合』
『鑑定』
[パムケット・起毛(材料・布):(品質S・104)攻撃防御35 魔防38 柔らかく丈夫 通気性よし(数量2)/(特性)驚きの手触り 羽のような軽さ]
(わ、すごいのができたねぇ。防御系の効果もついてる…こ、これ赤ちゃんのっていうより……でも、魔法式がうまくいくとこの項目が安定したり増えたりするのかも…)魔法式を光らせないまま、試しにやってみる。
[パムケット・起毛(材料・布):(品質A・130) 柔らかく丈夫 通気性よし(数量3)/(特性)丈夫3]
(なるほど、こっちのほうが品質も上がって、出来上がる枚数も増えるから、コスパもいい。普通の衣類としてはこっちのほうが、いいかもな…)
そして、調整用の金具も作る。所謂、丸カンという、ベルトに当たる部分で、大き目にした。今度は魔法式にも注意する。赤ちゃんが入る袋状の箇所は別布で2重にして、中をふわふわに、ベルトはしっかり頑丈に、別々に魔法で作って、最後に合わせる。魔法陣と魔法陣を同時並行して出す、二重魔法陣だ。
ベビースリングは、全部で4個。なかなかの良い出来だ。
『鑑定』
[デイズの安心ベビースリング(衣類):(品質A)赤ちゃんのしあわせふとん/ 抱っこ紐(数量1)/(特性) ゆったり気分 丈夫 安定3]
一つ例の布を使って作ると、特性モリモリの防具扱いになるものできた。が、微妙な気分になって、持っていく候補から外した。
パーマー牧場の奥さんの妹さんは別の町に住んでいるので、代わりに、奥さんに三つのベビースリング中からひとつ選んでもらい【デイス印☆らいやんコーヒー】も付けて、妹さんに届けてもらった。
評判は大変よく、赤ちゃんもぐっすり眠れて落ち着いたとのことだ。
残り二つのスリングは、売ってもらうよう雑貨屋に預けた。
そんな風に日々を過ごしていると、錬金の訓練もどんどんやって色々作れるようになり、この辺りのモンスターも一人で安定して倒せるようになってきた。おかげで、ソロで倒すのは難しいような、大きすぎて村人に見せられない価値の高い魔石も溜まった。こんなものを見せたなら、ひどく心配されてしまう。
あっという間に一年が過ぎ、また冬が来ていた。
早いものだ。
サムくんが家の前の雪の除去をしている。
サムくんは火魔法が強いから、ビッコロ村で雪が深くなってくると、主に道が通れるように方々を除雪車みたいに、溶かして回る。
オーツ家の入り口の先のほうから、よく聞こえる大きな声で、サムくんの元気な声が、玄関の周りで用事をしていたアーシアたちにも聞こえた。
「イグニッションっっ!!オレのみぎてが、火をふくぜ!」
(いや、本当に火を噴くんだけど…)アーシアは、うっかり突っ込みそうになる。
「ファイヤーーーーー!!!」
「ファイヤーーーーー!!!」
と言いながら周囲を周っている。
すると、急にサムくんの声が止んだ。おや、と思って顔をあげると、
「お、おねえちゃ~~~ん!きてきて!!」
少し先にいたニーちゃんと一緒に、アーシアを焦ったように呼んだ。
驚いて門の柵を抜けて、二人の傍に寄っていくと、二人は肩を並べてしゃがんで、雪がまだ少し残って泥になっている地面をじっと見ていた。
アーシアが来たことに気づくと、サムくんは、バネの様に跳び上がって、
「や、やっちまった~~」
半泣きしてアーシアの手を強く引いて呼び寄せた。
子供たちが見ていたところを覘くと、雪に交じって、ずぶ濡れで泥に汚れた小さな動物、猫が、小刻みに震え息も弱く、手を伸ばして横たわっている。
「気が付かなかったんだ。雪を、魔法で、ガーーーっとやってたら、
…こいつがいたんだ
オレ、…わ…るいことしちゃった…し、ん、じゃう?しんじゃうかな…」
サムくんが、嗚咽をこらえ、涙を浮かべ、噦上げるように言った。
猫は、雪に濡れそぼって息も止まり、静かになってしまった。
(ああ、これは…もう。子供たちが、可哀そうだけど…後で埋めに戻ろう)
二人の肩を抱いて、そっと足を踏み出すと、
『にゃにゃっ!!ちょっ! 何してるんだよ。 たすけてよ! たすけるでしょ、ふつう!』
雪の中から、もう死んでしまうだろうと思っていた猫が、ニャー以外の“言葉”をはっきり口にした。
(なんか喋った…)
(=^・▽・^=)<ニャー
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