表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界放浪~クラフトワークス~  作者: 紫野玲音
第一章 異界の村と錬金術
26/125

25 ビッコロ村の日々②




 川魚を持ってオーツ家に帰ると、どっと疲れが()いた。

 帰り道は仲良くニーちゃんと手をつないで帰ってきたが、最後のほうはニーちゃんに手を引かれて、連れて帰って来てもらった様になってしまった。涼しい風も魔法で送ってくれるというサービスぶりだ。ニーちゃんは、ほんの少しだが火魔法の適性もあるらしくて、暖かい風も出せるので物を乾かしたりするのに重宝する。

アーシアも『抽出』スキルで水分を抜いたりできるが、仕上がりが微妙に違うのだ。


 戻ったら小休憩後すぐ夕飯の仕込みになるので、ハーブティーを飲んで一息つく。これは、春の採取でライヤンフラワーを採りながら、同時に茎と根を水分をその場で『抽出』するという作業で集めた、ライヤンコーヒーという名のハーブティーだ。ライヤンフラワーは向こうのタンポポのような植物だ。

 根っこを細かく砕き、焙煎すると、コーヒーに似た感じになる。一度スキルなしで作ってみて、調合スキルで試す。材料に燃料を少々加え『調合』する。

 なかなか良い品ができたので、時々作ってはサーシャちゃんの雑貨屋さんに卸させてもらっている。

 商品内容はこんな感じだ。


 [デイス印☆らいやんコーヒー(食料品):(品質B)ノンカフェイン 母乳の分泌促進、利尿作用、便秘、冷え性改善、肝臓の働きを助ける (味)やや苦い/茶葉(出来上がり数量)400g×2パック/(特性)リフレッシュ]


 たんぽぽコーヒーのように、お母さん向けのコーヒーができた。


 さて、食事の準備だ。今日は釣ってきた魚をメインにしよう。


 [夏メカワ(魚類):美しい体色と斑紋が特徴的 サケをやや淡泊にしたような味/ 淡水魚の中でも上品で繊細、さっぱりとした味わいの魚/ 塩焼き、唐揚げ、ムニエルに良 ]


 30㎝程の夏メカワを三枚おろしにし、半分はハーブ塩を(まぶ)す。

もう半分は薄く切って、玉ねぎのスライスと一緒にりんご酢に蜂蜜を隠し味に、漬け込んでマリネにする。その間に、ライ麦麦芽(ばくが)を『調合』で発酵させ、ニーちゃんのあったかい魔法の手を借りて、サワー種を作り、パン生地を作っていく。生地をパン型に入れ、石窯オーブンに入れて焼く。この地方で有名な黒パンの出来上がりだ。もっと時間がかかるのだが、錬金術でスーパースピードアップできる。

 塩を振っておいた方の魚は、水分をやさしく拭いて、粉を丁寧にまぶし、フライパンに油とハーブを練り込んで作ったバターを入れて熱し、メカワを皮のほうからジュッと焼いていく。一緒にキャリーローズ(茎葉の部分)も入れて、裏返して丁寧に焼く。ハーブとバターの良いにおいがしてくる。

 パンも頃合い、特有の香ばしく甘いにおいがしてくる。本当は黒パンは切りやすいように冷ましたほうがいいのだが、今日は慎重に切ってそのままいただく。


「ただいまあぁ~おや、いい匂いだね!」

 師匠が納品から帰ってきた。「お腹がすくねぇ」そう言ってゴソゴソと納屋のほうへ行く。


 夏メカワにキャリーローズを添えた香草ムニエル、黒パンに、同じくメカワのカルパッチョ。蜂蜜とカラシーナから作った粒マスタードでカロット(人参風の野菜)のラペ、羊のヨーグルトを添えて完成だ。ヨーグルトには、柚子に似た果物のコンポートを少し乗せる。飲み物にはミルクいっぱいのライヤンコーヒーを、テーブルに置いた。師匠が納屋からワインとチーズを、ニヤニヤしながらいそいそと持ってきた。


「「「「いただきまーーーす!」」」」


 ムニエルは、中がふんわり外側がカリッとして、ハーブとバターの香りでとても美味しかった。

 カロットラペも、ピリッとして、ちょうどいい歯ごたえがあり、カルパッチョもさっぱりとして箸、じゃないが、が進む。黒パンも若干ボロボロするが、風味がよく酸味と甘みが好みだった。

(う~ん、いい味だ)


「おいしいね!アーシアが釣ってきたの!」


 子供向けのメニューじゃなかったかもなと、アーシアは心配をしたが、二人とも嬉しそうに、どんどん口に頬張っていた。

 サムくんは、黒パンにチーズとカルパッチョを挟んで、軽くぎゅっとつぶしてから、大きく口を空けて食べている。

 師匠は、カルパッチョを摘まみながら、出してきたワインをぐびぐび飲んでいた。


「お母さん!また、お酒飲んでる!」


 ニーちゃんが、呆れたように言うと、師匠は笑って、


「ぶどうのジュースだから!大人用の、ぶどうのジュース」


 と、ふざけていた。



 夕食が済んで、もう休むだけになると、カタリナ師匠がついと手招きした。

アーシアが頷いて傍に行くと、真面目な調子で、


「ところで、アーシア。あんた、学園に興味はあるかい?


 アーシアは、もう何でも一人でできるようになっててね…ここで、教えることももうないんだよ……

それにさ、あんたは、…ずっとここじゃ、もったいない。


 それに、自分で商売ができるように資格も取らないとね……

きっと、あんたなら、学園も飛び級して早く出てこれるよ」


 言葉を一言一言確かめるように、師匠は言った。


「学費もね、すこしばかりあるんだよ。あんたが納品手伝ってくれたりしたお金もまとめてね…

 村の人も、アーシアがお手伝い頑張ってくれるから、カンパしてくれたりもしたんだよ」


 ずっと、考えていたことらしい、かなり長いことかけて、用意してくれたのだろう。

アーシアは、じっと身動きせずにカタリナ師匠の言葉を聞いていた。

 嬉しくて、感動して涙があふれそうになった。


「まぁ、まだ入学は先だけど、準備もあるだろうからね」


そう言うと、カタリナ師匠はアーシアの横に来て、肩を二度ほど優しく擦って部屋を出て行った。








バターミルク:バターを作るときに出るもので、ビッコロ村のような田舎の一般家庭でバターはこれを指すことが多い

黒パンは、ロシアのボロジンスキーというのをイメージしています 

キャリーローズ:こちらのローズマリーのようなハーブですが、この名前だと薔薇っぽいですね


お読みいただきありがとうございました 土日は2話更新予定です 読み飛ばしに、ご注意ください

お気に召しましたら、いいねやご感想いただけると、励みになります

よろしくお願いいたします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ