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異世界放浪~クラフトワークス~  作者: 紫野玲音
第一章 異界の村と錬金術
23/190

22 油断大敵

※R15 残酷描写があります 苦手な方はご注意ください

 

 ビッコロ村に雪解(ゆきど)けが来て、新芽が顔をのぞかせてきた。

ニーちゃんの補助がいらなくなったアーシアは、少しずつ行動の範囲を広げている。


 冬の間にごっそり使った在庫の補充に、オーツさんの家を北に『聖なる森』とは反対の方向へ向かう。


 また寒いので、赤やチャコール色が(まだら)に混ざったセーターの中に、ヒートテックを着込み、自作の(あかね)色の巻きスカートを着込んだ。

 その上に、雪の解けた水滴がかなり掛かるので、撥水性のある、汚れの目立たないマントを、頭からかぶる。


 気温は低いのに、速足(はやあし)だと、少し暑い。


 木々の間を抜けて、なだらかな丘を上がっていくと、お目当ての場所に到着だ。


 低い木々と草が広がる採取地で、岩の陰からは鉱物も採取できた。


 カタクリにキイロユリ、デトックス効果のあるヤンガーフラワー。

あればあるだけうれしいキャリーローズも、幹の先に小さな黄色い花を咲かせていて、そろそろ旬だ。


 バラエティに富んだ何種類ものアイテムが採取できる、穴場の採取場所だった。


 空間収納(ストレージ)があるから、どんどん採取していく。一頻(ひとしき)り採取して、もう少し先の東のほうに、木苺がこんもりまとまって生えている茂みを見つけた。


 青や黄色や赤い、色とりどりの粒つぶしたベリーを、道々()まみ食いしながら、その(しげ)みにに近づいた。


(わぁ!こんなに沢山は初めて見たな。取り切れないくらい!)


(ニーちゃんとサムくんにいっぱい持って帰ってあげよう!)


 夢中になってカラフルなベリーを採取する


 茂みに沿()って夢中で採っていくと、森が深くなって薄暗(うすぐら)いところに来てしまった。

 (ひら)けているので、気が付くのが遅れてしまった。


 突き当たると山になり、切り立った岩の行き止まりになっていて、鉱物系を採るのに適している採取場所になっている。いつもは複数人で別のルートから行く場所だ。


 こちらの採取地からは来たことがなかったので分からなかったが、先が暗い抗口(こうこう)が見えた。入口は木々にさえぎられているが、坑口自体は、葉や蔓草も避けて寄せられたようになっていて、()れた様子にも見えない。入口付近の太い木の幹には、ギザギザに縞のような跡がある。


(ああ、遠くに来すぎちゃったかな)周囲はしんと静かで風の音もしない。




 カサカサ、カサ  メリメリメリッーー!!!



 (かすか)かに、草が(こす)れる音がしたかと思うと、続いてすぐ急に、木が裂けるような音が、静まり返った空間にひびいいた。


 振り返ると目の前が暗く、突如として視界が(さえぎ)られた。


 木々よりも太く巨大な(かたまり)がブワっと浮かび上がり、アーシアの見上げたその先に、大きく赤く光る(りょう)の目が、アーシアをひしひしと狙うように凝視(ぎょうし)していた。

 巨体の、熊のような赤黒い獣が、腕を振り(かざ)し、忽然こつぜんと現れたのだ。



(ひ、ぃ、いゃぁああああ!!!!)声にならない、嗚咽おえつのような叫びが漏れた。



 本当に大声を出していたら、その場ですぐに、襲われていただろう。

危機一髪(ききいっぱつ)だった。そんなことにも考えが及ばぬまま、咄嗟(とっさ)に来た道のほうへと後ずさった。

緊張で目が(かわ)き、脂汗あぶらあせが噴き出した。



()()()()()だ)



 大きさのせいで、真近(まぢか)にいるかのように感じたが、まだ距離は空いていた。

だからと言って危険でない訳ではない。突如、赤黒いモンスターは爪を突き出して、ブンっと振るった。

 稲妻のように鋭く、岩が割れ(つぶて)となって降ってきた。


(ひっ!)

足元に当たる、かなりの衝撃に怪我したことを覚悟したが、なぜかさほどの痛みはない。


 目がそれほど良くないのか、(さぐ)るように、(ねら)いを付けるように、凶暴にこちらを見つめている。(こわ)い毛皮だけでなく黒赤い大きな(うろこ)が首からよろいのように付いている。黒曜色の大きな爪は鋭く鉤のようになっていた。明らかに()()()()()だ。


(なにか、しな、きゃ。どうすれば…)


 モンスターは、グゥウルグゥ、と低い響く声で唸った。


(もう、迷ってる時間なんてない!!)




分解(デコンポーズ)』!!!




 両手で前を(ふさぐ)ぐように、(モンスター)に向かって、アーシアは叫んだ。全身から魔力があわのように吹き出し、巨大な魔法陣(まほうじん)が現れた。


 魔法陣から稲妻のように光が飛び出し、大きい()()()が鳴った。瞬間、爆風(ばくふう)が吹き、強い衝撃にアーシアは、目をぎゅっと強くつぶった。



(もうだめかもしれない)



 魔法は発動したが、生き物?になんて使ったことはない。


 爆風で飛んできた、なにやらべちょっとした生臭(なまぐさ)いものが、()()()のように降りかかった。


 恐る恐る、(まぶた)を開けると、分厚(ぶあつ)い涙の向こうが、真っ赤に染まっていた。



「あ”、あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ーーー!!」



 目の前は、地獄のようだった。深く静かな色をした平和な場所に、粗いミンチのような肉の塊がそこら中に飛び散り、血が一面を(おお)っていた。見たこともない残虐な光景。がくがくと身体が震え、恐怖に俯くと、足元に、黒曜石の様に光った鋭い爪が落ちていた。ひっと後ずさる。


 この惨状を、わたしが作り出したのだ…『分解』のスペルは、確かに()いた。

 ただ、あまりにも、モンスター相手とはいえ、酷すぎる。



 正視しないようにもう一度顔をあげて、恐る恐る後ろを振り返り、採取場所を見やった。


(よかった。 だれも、いない…)


 このアルディアが、危険であるのは、よくわかっていたことだった。死はずっと身近にあった。

子供でさえ、モンスターとの戦い方を練習していたりする。ここにいる限りは、戦闘はいつかは避けてはならないことだった。それでも。正視しないように前を向いて、ゆっくり考えた。(そうだ…)



『成型』『抽出』………



 念仏を唱えるように無心になって、ぶつぶつと慣れ親しんだ呪文を唱えていく。


 モンスターが実際いた場所にたどり着いて詠唱を続けていくと、ゴロンと黒い、小ぶりな冬瓜のような暗紅色の宝石のようなものが残った。



『鑑定』


 [グリズラル魔石(魔石):(品質A)**魔力*魔防*/土属性・風属性/(特性)熊の毒 

 /(備考)ロックグリズラーLv.48]



(魔石!…Lv.48!!!)


 大きすぎては、気が付かなかったが、品質グレードもいい大きい魔石だ。師匠のところでも見たことがないサイズだった。しかし余裕もないアーシアは、兎に角、空間収納ストレージに放り込んだ。



『成型』『抽出』………



 時間がかかったが、現場は片付いた。錬金の魔法を使うと、まるで何事もなかったかのように見えるまでになってしまった。



(まるで、……()()()()ね…)



 ブルりと身を(ふる)わせると、自分もかなりひどい状態だった。はっとして、ロックグリズラーに攻撃された足元を確認する。(無事だ…なんで?)履いている自作スカートを鑑定してみると、



 [ディスの巻きスカート(防具):

 (品質A)攻撃防御・大 魔法耐性・中 耐久あり/(特性)物理耐性強化大]


(わ、こんなの初めて見た!知らなかった。防具って?!師匠の作った布すごかったんだな…)

 師匠の用意してくれた布地を、ありがたく思った。

もちろん生地の素材の良さもあった、だが、アーシア本人は気が付いてないが、スカートの製作中にアーシアのコントロールしてない魔力がかなり注入され、ステータスの良い品が偶然出来上がってしまったようだ。


(この服出なかったら、無事でなかったかもしれない…)自身を見ると、ひどい有り様だった。



「ああ……」ため息をつくように、今度は自分の持ち物に向かって、『抽出(エクストラクト)』と詠唱(えいしょう)する。もっといい呪文もあるのかもしれないが、今は仕方がない。



 どっと、疲れた。



 初めての戦闘は、アーシアの心情に劇的な変化を催した。このアルディアで独りで錬金術師として生きていくのなら、ああいったモンスターとも向き合っていかなければならないだろう。


 顔や手に着いた、真っ赤な血を洗っていきながら、アーシアは深く決意を固めたのだった。


(『分解』じゃなくって、もっと違う…動物なんだから、欲を言ったら素材として使えるような……


 ……そう、『解体』、なんてどうだろう?あんな爆発みたいにならないんじゃないだろうか…)



 高ぶった気持ちの中、妙に現実的なアイデアが、ぐるぐると思い浮かんでくる。




 そうしていると、(たい)らかな気持ちでオーツ家へ、帰っていくことができたのである。







ロックグリズラー:熊タイプ 上級に近い中級モンスター「風の投擲」という土と風の混合スキルを持っているが、主に物理攻撃が強い 爪に毒がある 

岩を持ってなくても魔法で投げられるものの、MPがそう多くないため何度も使えない

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