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異世界放浪~クラフトワークス~  作者: 紫野玲音
第八章 わたしのアルディア 選択と祈り
201/208

194真理の窓・開示


 水車の完成の宴は夜遅くまで続いた。

 大変なお祭り騒ぎだった。

 ここの領主御娘であるフロリアーナ嬢が、宴会中アーシアにぴたりと貼り付いて、喜びの言葉を伝え労った。

 父の領主であるロカイユ伯爵は、水車の完成を態々(わざわざ)見に来てくれたらしいが、挨拶は後日とまた帰って行ったそうだ。

 アーシアは、猫たちの様子を見るために一人早めに自宅に戻ることにした。


 見事な水車が完成した。

 誰かと共同で作り上げたというのも、ほとんど初めてのことだったのではないだろうか。

 疲労もあったが、不思議な充実感が、アーシアの胸を熱くした。


 自宅に戻ると、仔ニャンずも巨大水車を見たと口々に熱っぽくアーシアに声を掛けて来た。

 (もら)った鶏肉をボイルした料理を取り分けて皿に載せる。


(マドカは、まだ帰っていない?……)


 ニャンずは尻尾を上げて、目をキラキラさせて皿にあり付いた。


 アーシアは、椅子に座ってその様子を見ていると、不意に、自身がかなり疲れていると感じた。

 身体が(だる)く重い。

(今日は、かなり魔力を使ったからな……)


 アーシアは一度に組み上げてしまったが本当なら、普通の錬金術師ならば、仕事を分けるか数日掛けた方がいいだろう。

 アーシアは、目の(はし)で点滅している小さな光に気づいた。


(通知が来ていたんだ……全然気が付かなかったな)


 猫たちはいつものように、庭に出て挿し木の前に集まっていた。アーシアは目を緩ませてそれを眺めていた。


(ふふ、猫会議みたい……。

 ああ、そうだ、ステータスウィンドウを確かめないとね……)



 食卓椅子に座ったまま、片手を翳して唱えた。



『ステータス』


(更新内容は……スキルのほう? レシピくらいしか思いつかないな)


『スキルウィンドウ』


 アーシアは、ぼんやりとウィンドウディスプレイを操り、New-の文字を探した。

 その眠たげな表情が、その表示を見ると、はっとなって覚醒し真剣な色を浮かべた。



 [ニュース:スキルウィンドウが完全表示されました。

 『賢者の石』関連の情報開示が追加されました。

 これより、すべての情報が参照可能です――]



「……え?

 私、今まで 全部 は見られていなかったの……?


 じゃあ、“隠されていた情報”があったってこと……?

 そういえば、レシピの一部……『賢者の石』関連……」



 アーシアは胸にざわつきを覚え、急いで指をスライドさせて、そのページを探し出した。



 《熟練度75超で全表示》


【道具・宝玉類】:特性などの付与に用いる


 賢者の石(並):竜の貴石1、宝石類の欠片2、研磨剤1、中和剤1、

(触媒有っても無くても可)

 賢者の石(特):竜の血1、宝石類の欠片1、水晶の欠片2、研磨剤1、燃料1、中和剤1、

(触媒有っても無くても可)


 竜の血:アーテー大陸奥地に生息するとされる竜から採れる 血脈石や竜の貴石と関係※1

 竜の血は、(薬)身体強化、滋養強壮、(道具)賢者の石



 《熟練度75及び条件達成で解放》


【賢者の石(歪)】

 分類:実験・毒・魔族専用道具※2

 概要:生命を固定化する触媒 服用・接触を禁ず

 副反応:魂魄の定着による肉体腐敗

 備考:「手にした者が堕ちる知」 アルディアに於いて数度試みられた

 通称”常若の妙薬” と呼ばれるもの


 エリクサー(霊薬)との関係:なし

 キトリニ生成の際、白化するため、これを用いるのではと、一部錬金術師により考えられていた

 毒性が増し、非常に危険 要注意※3


 注釈:アマルガム同様、常軌を逸した錬金術師たちが作ろうとした”常若の妙薬”と呼ばれる

 勘違いの産物 健康上において使用は勧めない 現在、(よみがえ)りの薬は存在しない



(常若も蘇りも……無理って……。

 態々、スキルウィンドウに載せているなんて。

 おまけに、こんな最後の最後に開放される情報……

 なによそれ……もしかして、ネタレシピに近かった?)アーシアは溜め息を吐き、思わず苦笑した。


「そうだ、キトリニの説明は?」



 備考:ロック博士レシピ ※

 〈注意点〉熟練度が低いと毒化しやすく、出来上がり数が減少



(ああ、※印が増えてる? 

 そういえばさっき見たレシピにも※印があった……リンクで飛べるってこと?)


 アーシアはその※印にそっと触れてみた。


 ※帝国に帰化し、錬金研究を求められ、その見返りとしてキトリニを開発した。

 その後も、意に反する“常若の妙薬”。最も近いものとして『賢者の石』研究を継続させられる。

 その研究の副作用のため命を縮め、帝国内で没する。


(ああ、なんていうこと……きっとロック博士は、顕微鏡の開発を進めたかっただけだったのよ……)


 歴史上の権力者は生憎の所、良い人物ばかりではない、往々にしてこのような悲劇があるというものなのだろう。

 アーシアは、オットー先生の笑顔を思い出し、深く溜め息を吐いた。



「そういえば、昔の銀歯に入ってた……徐々に使われなくなったって。

 そうだ、どこだか忘れちゃったけど、歯科の詰め物の名前自体のことをアマルガムって書いてなかった?」



 ――そして、気づく。

(ああ、そうか。やっぱり。ワースは”そう”だった。ロック博士とは違う)

 また思考が、あの目を思い出させる。

 アーシアは一度、唇を噛みしめると、顔をあげた。


 アーシアは宙を仰ぎ、長く、細く、息を吐いた。


 薄闇に包まれた空間の中で、自分だけがぽつりと取り残されて浮かんでいるような、

 そんな孤独なただ一人の感覚が胸を満たしていく。


 女神ウェスタの言葉が、静かに脳裏を巡った。


 ――「この世界は、あなたの元の世界を模したものに近い」


 その言葉が、今になって重く意味を持ちアーシアの心に深く波紋を広げた。



(”人”の欲望、”人”が勝手に見たロマン……。

 ネタにしても……随分危険な試みじゃないの……


 そうだ……この※印。特に今回の事件に関わるのは――“常若の妙薬”の※3の方……)


 不意に新しく表示された※印が目に飛び込んできた。

 アーシアは迷わずタップした。



「ああ、そういうことね。事故防止のために。


『錬金操作』が必要なんだ。安全に、操るために……。


 そして、『錬金操作』は『抽出』スキルを発展させたものみたいね。

 じゃあ、※2は……え、なんてこと……魔族の法術で……」


 怖さはとうになくなった。新スキルはその自分の行動を強化するに過ぎない。

(……わたしも大概、狂っているのかもしれない……)

 アーシアの中で総てが繋がっていくのを感じた。魔法陣に浮かぶ魔法式が繋がるように。

 輝く点と線が正しく繋ぎ合っていく。

 脳細胞がちかちかと瞬きを点滅させ、目の前がいつかのように澄み切った立体のブロックのような……


(はあ。それじゃあ、この※1の方は……?)


「ははは……」


 アーシアは、乾いた笑いを続けた。


(すごいな。異世界は広い)



 アーシアの目が輝いた。

 ステータスウィンドウは、余すところなく表示されるようになり、特に説明文が豊富になった。

 雑学的な文章もあってかなり面白い。


「まるで、”知識の書”アカシックレコードみたいね……」


 アーシアは暫しの間取り付かれたようにその記述を読みふけった。その顔はくるくると表情を変えた。

 錬金からアルディアの歴史に触れる内容もあって、大変興味深かったのだ。

 そして途中から、空間収納(ストレージ)からカタリナ師匠に貰った『ビィドメイヤーの錬金術の本』を取り出した。

 ページの最後の方の白紙になった箇所に、代々師匠たちがしたように書き込みを加えていく。


(このウィンドウからの情報の総ては書けないけれど……いつかアルディアの後進錬金術師たちの助けになるといい……)


 アーシアは、口元に微笑みを浮かべて、ペンを動かし続けた。




アマルガムとは、水銀と他の金属(銀、スズ、銅など)を混ぜ合わせた合金のことで、

特に昔の歯科治療で使われていた銀色の詰め物(銀歯)を指すそうです

かつては耐久性や操作性に優れていたため広く使われていましたが、

水銀を含んでいることから健康や環境への影響が懸念され、現在ではほとんど使用されてないようです


お読みいただきありがとうございました


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