13 休日学校
バベットおばあさんの休日学校の日がやってきた。
昨日の夕方に、カタリナ師匠とバベットさんへの挨拶にうかがった。お土産は【健康湿布】と上手くできた【お腹の友】。明るく小柄なおばあちゃん先生は、とても喜んでくれた。
田舎の学校だから、学校は6歳から入学で上は何歳でもOKなのだそうだ。生徒は全部で7人で、毎年、大体そのくらいらしい。各々が別の課題をやるから、年齢は気にしなくても良いそう。
生徒の多くは家の手伝い等があるから、学校は週に1、2回だそうで、最初カタリナ師匠から聞いた時は、日本の学校との違いに、少し驚いてしまった。
都会には、幼稚園や小学校も普通にあるそうで、人の少ないビッコロ村のようなところはこういった私塾のような学校で学ぶそうだ。 自宅での課題も(宿題とは別に)、希望すれば用意してくれる。
将来、進学したい人は、通学日数と合わせて決まった量をやると、都会の学校に受験資格ができるそうだ。ちゃんと子供たちの将来を見据えて、制度も整っているようだ。
「年下の子供ばかりだけど、気にならないかしら?」逆にバベット先生に気を使われてしまった。
全然、気になりません、大丈夫です、よろしくお願いします、と先生に頭を下げてきた。
そうして当日の朝、ニーちゃんに連れられて、村の東側にあるバベットさんの休日学校へと向かう。
もこもこした羊がメエメエと鳴いている牧場を通り過ぎて行く。
道を行くと、家が点在する集落に入った。
そこは、ビッコロ村の中心地になっている場所だ。
お店屋さんを営んでいる家もあり、小さくても二棟続きになっていて、住居部分と店舗部分が分かれていて、大きい倉庫もある。他のこじんまりとした普通の家々には、村の多くの住人や、交代で短期滞在する冒険者さんなどが、住んでいるらしい。
その集落の端のほうに、やや離れて、低い木の柵に囲われた広い庭の、二棟つづきになっているバベットさんの家があった。
昨日は奥の小さいほうの棟の玄関からお邪魔したが、学校は手前の大きな棟らしい。
大きい赤いドアが開いてあり、そこから子供たちの笑い声が聞こえた。
「おはよう!」
ニーちゃんが、大きな声でドアに入っていった。ドアの向こうはすぐに教室だった。大小の机と椅子がやや雑然と間を空けて並び、ドアの正面には黒板と背の高いコンパクトな机があった。
3人は、左の前側にまとまって席に座り、おしゃべりをしている。
そのうちの一番小さい子は、見やすいように真ん中だ。
一番大きそうな子は、右の奥で、背中を丸め気味に座っている。
「おはよー!」
「おっす」
「おはよう」
「………」
前に座っていた小柄な男の子が目を丸くした。隣の子と同じカーキ色の髪で顔もよく似ているから兄弟なのかもしれない。因みに、ニーちゃんの髪は、肩までの長さでふわふわして、グリーンを少し混ぜたようなクリーム色で、二人と比べると、明るくツヤツヤだ。
ニーちゃんは髪の手入れが好きらしく、いつも、とてもきれいだった。怪我人だったアーシアの来たばかりの、ひどい状態だった髪の毛も、ニーちゃんの椿の木に似たお気に入りの櫛で、手入れをしてもらったせいか、恥ずかしくないまでになっている。(ニーちゃん、ありがとう!)
「あ~おおきなおねぇさん!」
「ど、どうも、こんに・ち・わ」
「うちに、一緒に住んでる アーシアお姉さんだよ。お母さんとこの、
見習いさん、なんだ。
字を習いに来たんだよ」
思わずどもってしまうも、気の利くニーちゃんが、すぐさまフォローしてくれた。(驚異の8歳の少女だ!)
大人が字を習いに来ているのに、そのことには、みんな気にならないようだ。「よくあることだから、大丈夫だよ」とおばあちゃん先生も師匠も言っていたが、理由が分かった。
おばあちゃん先生が来て、黒板の横のドアの上にあるベルの紐を引っ張って鳴らした。
ジリンジリンジリン、一斉に子供たちは席について前を向く。ニーちゃんとアーシアは空いている真ん中の席に座った。大きいほうの机だったが、それでもアーシアには、少々低い。
「みなさん、おはようございます。授業の前に紹介します。新しいクラスメイトが入りました。
アーシア・デイスさんです。
みんな、仲良くしてくださいね。アーシアさん、後でちょうどいい椅子と机を出しましょうね」
一度、周囲を見渡すと、よく響く暖かな声で、おばあちゃん先生は言った。
実は、大きな机は用意されてあったのだが、体の大きいガルドくんが間違って座ってしまっていたのだ。最年長の12歳、本人の年よりも大きく見えた。
年齢の割にがっしりして大きいのは、お父さんが森の番人の一人だからだ。『聖なる森』に隣接した森から、たまにくる害獣や盗賊などから村と森を守っている。本人はとてもシャイな男の子なんだそうだ。
「では、授業を始めます」
授業が始まった。おばあちゃん先生は、まず12歳のガルドくんと9歳のディゴくんに課題を渡し、6歳のニムくんとアーシアの「文字」の授業を始めてくれた。残りの時間で、8歳の子が多いため、まとめて算数の授業を行った。
みんなで受ける授業の中には、国の成り立ちや町や仕事を学ぶ『社会』の授業や、『音楽』や『図工』、珍しく『詩の朗読』という小間があった。
ベテラン先生なだけあって、とても分かりやすかった。
「終わりに宿題ね」と文字表と単語と絵が見開きに書かれた帳面を渡された。
ニムくんは、自分の同級生がうれしくて、ニコニコと名残惜しそうに手を振った。
ニーちゃんは、何やら、ひょろっとした男の子と話していた。同い年の子だ。アーシアが見ていたことに気が付くと、おいでおいでと手招きした。
「アーシアお姉ちゃん、こっちは、ジェリーくんっていうの。学校の途中に牧場があったでしょう、あそこの子なのよ。もうじき寒くなるから、羊の毛の残りがあるかどうか聞いていてね、あるって言うから、帰りによっていきましょう!」
うんうんと首を縦に振っていたジェリーくんはそばかすのある顔でにぱっと笑った。ジェリーくんの家の牧場には、羊が30頭、山羊も15頭くらいいるそうだ。
「うんうん、牧草地で採取もしていいよ。その代わり、冬が終わったら羊の毛刈りを手伝いに来てね!」
3人で牧場に向かう。ニーちゃんとジェリーくんは、歌を歌いながら弾むように小道を歩いていく。
牧場に着いて、ジェリーくんのお母さんに先に挨拶してから、牧草地で採取をさせてもらった。羊毛、山羊の毛、抜けた角、牧草地の隅のほうには、蜘蛛の糸というアイテムがいっぱい採れた。
帰りにジェリー君のお母さんに羊毛のほかにも、お肉と山羊のチーズと羊のバターを分けてもらい、帰路に就いた。
採取で羊毛などが採れるのは、主に抜け毛です。




