12 はじめての調剤
カタリナ師匠は、アーシアにしっかりした厚い生地のエプロンを渡すと、大き目の陶器のすり鉢と乳棒を用意した。
アーシアも空間収納から、材料になる薬草を用意した。整腸作用のあるホホ草と別の場所で採ったイシャイラズを中心に、沢山採取したダミ草を使うことにした。
「材料は…うん、いいんじゃない。お腹にいいの選んできたね。あと道具はよく使うから、ある場所をよく覚えてね。まずは、【お腹の友】胃腸の薬だよ。錬金術師や薬剤師は、みんなここから始めるんだ」
分量を秤で正確に測り、ずんぐりしたつぼ型鍋に入れる。
「調合鍋だよ。あっちの大きいほうは錬金釜だから、間違えないようにね。まあ、似たようなもんだけどね」
小さいほうと言っても直径30cmくらいある鍋だ。足が高めのがっしりした金輪(五徳の一種)に乗っている。天井から鍋をつるす自在鉤が伸び、吊るされたつぼ型の鍋は、使い込んだいい色をしている。
大きいほうの錬金釜には火を入れるところはないようで不思議だ。
そこに水を入れると、師匠は、慣れた仕草で2つの指から火を出して、鍋の下の炭につけた。
(息子のサムくんと、一緒だ)
「師匠も、火魔法を使えるんですね」
「うん、そうだよ。あとは少し土魔法が使えるから、錬金術師を選んだんだよ」
使ったものは、同時に片付けながら、要領よく二人して作業をする。師匠が、アーシアに大きな木べらを渡す。
「よぉく、かき混ぜてね。この薬は薬草を焦がさないようにね」
しばらくして、熱せられてどろどろになり、草の臭いが強くなる。
水を吸った葉っぱはとても重かった。
(うわぁ~なんか、わたし、魔女っぽい!)
「そろそろいいかな、『***』って唱えてごらん」
「え!?」
(どど、どうしよう、なんて言ってるのかわからないや。こっちに来たばっかりの時みたいだ)
「溶かすって唱えたんだよ、『溶けろ』かな」
採取の時は特に意識せずスキルが発動しているが、鑑定の時などは小さく『鑑定』と唱えている。普通に呪文っぽくなく「鑑定」と言っても使えるのだが、ちゃんと?言ったほうが、正確みたいだ。
(溶けろ…溶解ならええとなんて言ったかなデ、デ、ディス…ああもう、メルトとかでもいいかな……)
『溶解』
調合鍋の中が急に、にゅぅっとうねるように、繊維が解け滑らかになった。緑の粘液?(おおーぅ…)
「ええっ!!これはすごいね。繊維が全然ないよ。
これならすり鉢なんて使わなくてもいいくらいだね。
思いのほか優秀でびっくりするよ。
これに、つなぎの粉を混ぜて、丸薬にしていくんだよ。高級なのは特性を移した触媒を入れるんだけどね」
「特性って特別な効果のことですか? 触媒ですか?」
「そうそう、よく解ってるじゃない。
例えば今作ってる【お腹の友】は特性がない状態でもちゃんと効果はあるのね。
特性はその効能に加えて、少量で済むとか、味が甘いとか、効果を持続させるとか、効能を〇倍にするとかあるかな。
触媒には種類がいくつかあって補助的な役割をするの。調合物の乳化剤とか凝固剤とか…特に特性を移すのに効果があるわ。スキルの高い錬金術師には、こっちのほうが重要になってくることがあるからね」
「なんか、すごいんですね…それにしても【高級・お腹の友】……ふふふ」
「うん、まあねぇ、【お腹の友】にはあんまり付けないかな、
触媒なしでもボーナス的に偶然で特性が付いたりする薬剤師さんいるけど」
今度は、『成型』と唱えると、あっという間に緑の粘液が、ころころと丸薬になっていった。
「あらぁ、いっぱいできたわねぇ。材料の無駄がなかったのね。上手よ~」
(どうしよう、師匠、めっちゃ褒め上手!こんなに褒められたことないから、うれしいなぁ……)
「じゃ、次は、お待ちかね、みんな大好き【健康湿布】ね。布と材料、用意してちょうだい!」
【お腹の友】と違って【健康湿布】の布に塗布するためにできた薬剤は、『溶解』を使っていても、材料にした薬草の硬い繊維が、若干だが、残っていて気になった。師匠が言うには、十分上出来らしい。
(残った繊維、気になるな。呪文の工夫を考えなきゃなぁ)
一方、気分よく乗りに乗った先生は、アーシアに、次々と訓練という名の作業をさせていった。
(ん~、もしかして師匠、結構、スパルタだった?)
「今度は、【エドナ軟膏】作ろうね~、ん~【蒸留水】もいいかな」
夜遅くまで、うれしそうなハイテンション気味のカタリナ師匠の声が、オーツ家に響いていた。




