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異世界放浪~クラフトワークス~  作者: 紫野玲音
第四章 セドゥーナ学園・後編 春の訪れと卒業の道
121/127

117夏の予感と

 

 卒業の時期が近づいてきた。4年生はそれぞれに(あわ)ただしい。講義自体はもうまとめに入って、ゆったりとした内容になっている。

 3級を取らないと就職活動もままならないので、卒業を控え、今が滑り込みの時だった。取得してすぐに、面接に行くなどするので、通常講義の欠席も多い。単位も足りなくなると卒業自体が出来なくなるのに大丈夫なのだろうか。

 エミリーたち4人は、既に決まっているのだろう、落ち着いた様子だった。

 錬金学Ⅳは一緒の講義だったので、久しぶりに5人の顔が(そろ)った。


「ねえ、みんなは、聞いていいか分からないんだけど…

 卒業後はどうするの?」


 アーシアは、おずおずと疑問を投げかけた。

 すると、4人は顔を見合わせてクスっと笑った。


「ふふ。そんなに、気を使うことないわよ」


 男子2人は元々実家が錬金術の店をやっているそうで、卒業後は、家に戻って修行をするらしい。

 エリアスはセドゥーナ国内に実家があり、小さな古いお店をやっているのだそう。

 ルーカスは、東セドゥーナとホノリアの間の森の多い場所に実家があるそうだ。()魔獣(まじゅう)の飼育が有名な場所なのだと言っていた。

 たっぷりとした紺色の髪のソフィアは、驚いたことに、ボーイフレンドの実家の稼業(かぎょう)に本当に就職するらしい。凄い行動力だ。

 エミリーも、親が錬金術師なのだそうだが、元々国家公務員を目指していたので、(すぐ)ぐには就職せず、学園で助手をして実績を積むとのことだった。


「なんとか今年の、マリック先生の研究チームに入ることができたの」


 マリック先生は、毎年人数を決めて研究生を取っている。

彼らは助手という形になっているが、給料も初めは出ないらしい。だから、まとまった人数を助手に出来るそうだ。

 助手としての講義や学校の仕事をするようになって、初めて給料が出るようになる。マリック先生の研究室はエミリーのような学生も多いと言っていた。


(……大学院生みたいな感じかな?)



「アーシアも、一緒でしょ?違うの?」


と、エミリーが不思議そうに聞いて来た。


「ええと、わたしは助手にはならないの…

 ここに来る前、お世話になった師匠に、直ぐに挨拶に行こうと思ってるから…


 ええと、学園には所属という形にはなりそうなんだけど…」


「あら…てっきり」


 皆がうんうんと頷いている。


「ふふ、私はアーシアが残ってくれたら嬉しかったんだけどな。

 ……ちょっと残念ね。

 でもまあ、私がここにしばらく居るから、仲介できるでしょ。

 なにかあったら、連絡はお互いに取れるからね!」


 エミリーは、にこやかに(こぶし)を作って軽く上げて見せた。



 アーシアは商業ギルドに、今月の納品に行くことになっていた。その時に、七輪のレシピも持って行くと、ペプロー氏に連絡をしておいたのだ。

 マルコ先生に指摘されてから直ぐに、一般向けレシピを確定させるために試作を繰り返していた。


 懇親会で使ったのは、液体の中和剤を使った癖のあるものだったので、そのままでは少し(なん)がありそうだったからだ。



 ——アーシアのメモ


 試作品1(液体中和剤Ver.)

 品質A / 耐久A / 特性「和の心」

 → 特殊効果付き かなり特殊、高コスト


 試作品2(水Ver.)

 品質B / 耐久B / 特性なし または「扱いやすい」

 → 誰にでも手に入りやすい、コスト安


 さらに改良すると、

 [ 品質A / 耐久B / 特性「低燃費」]というのが水でも出来たが、これを作れるのはアーシアくらいだろう。一般的レシピには、向かない。


 改良前の試作品2を、レシピとして公開することにして、用紙に記入した。

 このように、アーシアがこの世界で新しく作った錬金物は、『スキルウィンドウ』にも自動で反映される。大変便利だ。

 今回の七輪は、水を使うほうが登録されたらしい。勿論(もちろん)、※詳細で改良状況も調べられる。


「あれ、スキルのほうにも変化があるみたい……」


 というのは、アーシアのレベルのせいか新しいレシピがポップするのが以前より減ったものの、幾つかの伏字スキルが増えたのだ。

 何かの実績を行えば、今までは見えるようになったので、今回もそうかと思ったのだが、右上のレベル**の横には、〈熟練度〉の文字が表示されている。


(そうか、レシピを解除するのには、沢山作らないといけないんだね……

 それにしても…… この最後のレシピ……)


 それは——エリクサーの系統から枝分かれしているのだ。薬の類かと思って見ていたが、他からも…線が複数のカテゴリーから伸びているのだった。

 まだ伏字の合金や道具の項目から、更には毒類からも。材料、素材ではないもののようだ。


(合金も2種類が、まだ名前が分からない…… そして、最後のこのレシピ……

 事件になにか関係のあるものが表示されるのか……)


 合金に関しては、伏字のレシピの場合でも、材料の大まかな種類は分かる。そこからみるに、上級合金であるため材料が多そうなことと、何故か黄染料という材料が入っているのだ。


(黄染料…… 態々(わざわざ)、黄色く着色するの?

 黄色い金属ってこと……? こんなに手間を掛けて作るなんて…… 

 これでは、どちらかと言うと装飾品に使うようだわ。

 ……でも、ちょっと、なにか引っ掛かる……


 あ、……時間!)


 非常に気になるが、ギルドへ訪問する時間になってしまった。



「マドカ、いる~?」


 出かけるのに、マドカが付いて行くかどうか聞こうと思い声を掛けたが、返事がない。

 念話も使ってみたところ…


(遠くにいると届きにくいって言ってたけど、大丈夫かな?)


 《マドカ、どこにいるの?》


 《…**しゅ人?…お*ら、兄弟たちのところだぞ!…とっくんをしてるんだ!》


 やはり、猫ちゃん同士会いたくなるのかな、などと思っていたが、本当に真面目に特訓しているそうで、頼もしい限りだ。


 《これから、街の商業ギルドに行くから、自室にいないからね》


 《うん、わかったよ!いってらっしゃい》


 遠くへの念話は、段々明瞭(めいりょう)に聞こえるようになって、最後にははっきり聞こえた。


(うん、行ってくるね。マドカたちも頑張って)




 商業ギルドでは、いつものようにペプロー氏に、よく使う部屋に連れて行かれた。

 先に、納品の受け渡しをして、本題に入った。ペプローは、良い姿勢で手を前に合わせて待っている。


「こちらなんです。これも小さなかまどのようなもので、

暖を取ったり、焼き肉のような簡単な料理もできます。

 燃料は炭がいいと思います。あの、安全面だけには注意しないといけませんが…」


「エクセレント!これなら、ポケットコンロを買えない庶民でも、手に入りますね。

 料理に関しては、さまざまな種類ができるポケットコンロがやはりいいかもしれませんが、

 これで十分という層も多いと思いますよ」


「でも、焼き肉や、焼き魚なんかは、“炭火焼き”と言って、こっちの方が美味しいんですよ」


「ほう…そうなのですね。それは、興味深い…

 ああ、その安全面の注意もここに記入しておいていただけますか?」


 ペプロー氏がアーシアの記入する手元を(のぞ)きながら、


「もうじき卒業ですが…今後はどうされるご予定ですか?」


「あ、そうですね。納品のこととかもありますものね…」


「いえ、ポケットコンロ納品は、しばらく落ち着くと思いますよ。

大量購入も、お陰様でひと段落付きましたので。

 七輪が市場に出れば、なおのことでしょう」


「そうなんですね…わ、わたしは、

一度、エゲリア森公国に戻ろうと思っているんです」


「どの地方ですか?」


「はい、ビッコロ村に、恩ある師匠がいまして。

 必ず、卒業したらご挨拶に行く予定にしていたんです」


「ふむ、『聖なる森』の守り人の村ですか…その後は、どうされるんですか?」


「ええと、まだはっきりとは決めていないんです…すみません」


「いえいえ、恩師に会ってからでないと、決めかねないこともあるでしょうからね。

 そうだ、エゲリア森公国でも、その村に行くには、ルートが限られているでしょう、どう回られますか?」


「はい、直線ルートが今使えなくなっていると聞きましたから、海沿いに行こうと思っています」


「ほう、いいですね。このポルタベリッシモも、華やかで良い街ですが、

旧首都ヴェトスアルークスも歴史が古く落ち着いた良い街なんです。

 

 それに、錬金術師ならば、西セドゥーナ地方は是非にも行きたい場所でもあるのですよ!

 ——なにしろ、ビィドメイヤーのお膝元ですからね」



「そうなんですか?!」



「はい、彼らはずっとあそこの…ちょうど海沿いの街に代々住んでいますよ。

 是非(ぜひ)、訪れてみてください」


 (わぁ、もしかして『ビィドメイヤーの錬金術の本』の著者さまが居る?)


 アーシアは、ペプロー氏の言葉に目を輝かせたが、瞬時に肩を落とした。


「でも、……そんなに急にお会いできるものではないのではないですか?……」


「いや、そんなことありませんよ。あなたなら、間違いなく会ってくれますよ。

 仕事場を見学したいでしょう?それに、蔵書もすごいですよ」


「わああ……」


 凄い情報を聞いて俄然(がぜん)、興味が湧いたアーシアは、うっとりと両手を胸の前で握りしめた。

 そんな、アーシアの様子を、少しホッとしたような、にんまりとした表情で、ペプロー氏がじっと眺めているのだった。






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