11 バベットさんへのお土産
アーシアはニーとともに、採取地へ出かける日々を続けていた。先生が忙しいためだが、採取と鑑定スキルは捗った。
また、初めてやらせてもらった金属に、魔力を通す訓練も課題として続けている。小さな金属の塊さえあれば自分の部屋でもできるのは良かった。
時には採取がてらに珍しい鉱石を拾っては『鑑定』したり、魔力を通したりしてみた。それぞれに名前があって、面白かった。自由時間が多いので、採取地から帰ると元の世界からの知識で知っているものもこちらで作れるか試してみたくなった。
初めて採取地に行った時のりんごもよく洗って布で拭き、同量の角砂糖、こちらではブラウンシュガーで代用だ、を交互に大き目の蓋つきガラス瓶に詰めて、2瓶作った。少し考えて片方の瓶には、亜空間収納から元の世界から持ってきた小さな箱を取り出し中からさらのアルミの袋を取り出すと封を切ってサラサラと白い粉を入れた。練習に粉の鑑定をしてみる。
『鑑定』
[〇〇酵母:(レア度)☆☆☆(品質SS)***]
(おおぅ~、レア度も品質も初めてみたよ。さすが〇〇)
サバイバルバッグの中には普通には入れない保存食の本や調味料なんかも入っていた。アウトドアのハウツー本なども。だから重いのだ。こちらに来てから元の世界のものを使用するのは実はあまり多くない。異世界から来たことを話してないこともあるが、向こうのものがこちらの世界にどう影響するのかも恐ろしい。
それに、このアルディア世界が居心地がよく、早く順応したいという気持ちが大きかったのだ。
それにしても、身近なものを鑑定するのも楽しい。だんだん見える内容が増えていくのもうれしい。
(これで数日寝かせて~、気温が低めだから、時間がかかるかもなぁ。うまくいくといいな。魔法使ってぱぱっとできるようにならないかな~)
ニーとの採取は、危ないことはほとんどない。時々蜂に出会うくらいだ。こちらの蜂は、大きいからびっくりする。大きいけれど蜜蜂なのだそうだ。
同じところの行き来なので、採取アイテムの名前はほとんど覚えてしまった。
オーツ先生にそのことをなんとなしにいうと、工房の本棚から古い皮の表紙の一冊の本を持って来てくれた。
「図鑑よ。薬草中心に書いてあるの。
薬剤師初級の人がよく勉強するものだけど、興味があれば見てみて」
(図鑑!!)
「わぁ!ありがとうございます。先生!」
「折角毎日、錬金の訓練も頑張っているんだから、そろそろ師匠と呼びなさいよ。あんたはもう、あたしの錬金術の弟子なんだから」
「はい!カタリナ師匠!!」
うれしくなってニコニコと中身をめくってみると、古びたインクの、何度も擦られたページに、それぞれのアイテムの絵と説明の文字が並んでいた。絵は特に緻密で特徴をよく捉えていた………しかしながら、肝心の説明が分からない。どうやらアーシアには文字が読めないのだ。
「ど、どうしよう、師匠、字が読めないみたいです…」
「おや、まあ、どうしたもんかねぇ。やっぱりアーシアは外国人さんだったんだろうね。ああ、そうだ。村の休日学校に行ってみないかい?子供たちと一緒で嫌かもしれないけど。ほら、あんたを助けてくれたおばあさんがやってるんだよ。読み書きと簡単な計算と歴史とか教えてくれんだよ。うちの子たちも通ってるんだよ」
(アルディアのこと何も知らないものね、わたし、丁度いいかもしれない…)
「そうなんですね、行ってみたいです」
先生は、あのおばあさん。親切にアーシアを発見してくれた人だ。何度か工房にもお客さんとして来ていてる。名前は…確か…バベットさん。口でお礼を言ってはいるが、教室に通わせてもらうなら、何かお礼になるものを持っていきたい。
「そう、なら後3日後にちょうどあるねぇ。また、ニーに連れて行ってもらえるかい?」
「はい!」
「明日はあたしもちょっと時間があるし、雨が降りそうだから、ちょっとした『調合』…やってみるかい?」
「はい!師匠。なにを作るんですか?」
「バベットさん、【健康湿布】大好きだから、それ作ってみようよ。
折角だから、おばあさんに手土産として持っていきなよ。材料も自分でいっぱい採ってきただろう。
先ずは【お腹の友】胃腸薬だよ、から覚えて…簡単だから2日もあればできるようになるよ!」
「はい、よろしくお願いします!師匠」
(さすが、カタリナ師匠、ニーちゃんのお母さんだわ、なんて気が利くの!!)
アーシアは初めての薬作りにわくわくしていた。
「ああ、図鑑も持っているといいよ」
それから、そうそう、と呟きながらカタリナ師匠が引き出しの下のほうからごそごそと、もう一冊の古い本を取り出した。
あと、これも。あたしからのプレゼントだ。これは、錬金術の教本兼レシピ集。あたしの師匠の本でね、自分のは別に持っているんだ」
よく見ると手書きの本だった。昔は師匠の本を写させて貰って、教本を自分で作ったのだそうだ。
今は製本された教本が主流だが、あまり裕福でない村では、今でも普通に師匠から弟子へと写本されている。そして、自分で考えたレシピも新しく書き込んでいくのだそうだ。本の後半は違う字の書き込みが増えていき、最後はその人のレシピでいっぱいになっていた。
(こんな貴重なもの貰っていいのだろうか…
代々受け継がれた教本のようだ)
字は読めないが図が沢山あって、強く興味が惹かれる。
『鑑定』
[ビィドマイヤーの錬金術(教本):****/(備考)しっかり勉強すべし!!]
(おお~~~)なぜか備考だけしっかり読める鑑定に怖さを感じたが、筆者の気持ちは十分伝わった。
元の世界は教科書なんていくらでもあったが、こんなに貴重で心がこもったものはあっただろうか。
アーシアは、胸がいっぱいになって2冊の本をぎゅっと抱えた。
〇〇酵母:通常の酵母に比べて極めて耐冷性、発酵力に優れている
〇〇商品名なので、伏字にしました(;^_^A




