112宴会の幹事ですか?
サムくんのいう宴会とは、学園執行部所属・実行部隊員懇親会というもので、年に数回行うそうだ。
メンバーが強烈なせいか、教員を誘っても断られることしばしばだそうだが、前回の様子…あの爆発騒ぎを見るからに、然もありなんというものだ。
懇親会は1ヵ月半後で、料理のデリバリーする分はサムくんが注文するので、手作り分をよろしく頼む、ということだった。おかずを2、3種類で良いとのことだ。
さて、何にしたものかと、アーシアは、頭を捻った。
(そうだ、一月半なら、みりんができているころだ!
一つは蒲焼きにしよう。何でもいいって言ってたもんね。何でも)
ムナギはあの見た目である、ポルタベリッシモっ子なら食べる人はまずいないそうだ。
なので、ほんの少しだけ、試しに出してみよう。
(そう、みりんの成果だ、――目標達成だ)と、アーシアは心の中で呟いた。
一つは唐揚げが、やはりいいそうだ。今回は、鶏肉は街で買って来てとお金を渡された。更に、「領収証を必ず貰ってね」と、サムくんは言った。
では、残り一つは、何がいいだろうか。
乗馬訓練の休み時間にメニューを考えていると、
「どうしたんですか?」
と、横から不意に、声を掛けられた。
「あ、フリムカルドさん。
え、ええと、今度の懇親会のメニューの一つなんですが……何がいいかなと」
「あ、なら、この間の……”だんご”というものがいいです!」
「え、じゃあ、……今度は焼くのがいいですかね?」
「はい!」と、滅茶苦茶いい笑顔で返された。
(フリムカルドさんって、結構、甘党なのかな?)
「あれは、甘さが控えめで、俺でも、美味しく食べられました」
(あ、違うか……)
「も、勿論、もう一つのも美味しかったですよ!」
しかし、団子はおかずには入りません。そんな風に考えて、じゃ、デザートにしよう、とアーシアは自分からメニューを増やしてしまったのだった。
「どうですか、アズリオスには、慣れましたか?」
そういえば、初めて彼の従魔のアズリオスに乗った翌日は、酷い筋肉痛だった。胴体から脚にかけて、広範囲に痛みで動けなくなったことを思い出してしまい、アーシアは苦い気持ちになった。
しかし回を重ねる毎に、アズリオスの落ち着いた性格もあって、かなり安定して乗れるようになってきたのだった。
「はい、お陰様で。アズリオスさんは、とても賢いお馬さんですから。
それに、お顔も整っていますし」
それは本当だ。魔馬であるアズリオスは、とても知的で男前だった。青い鬣に、ほとんど白に近い水色の体毛は、大変滑らかで美しい。耳の後ろに着いた太い角は王冠のように頭を飾っている。
アズリオスは少し離れて居たのに、聞こえたようで、ブルルンと嬉しそうに嘶いた。
(やはり、褒められたってわかっているんだわ。賢い子)
「ところで、宴会メニューなら、男どもが多いから、お肉類がいいわよ。
私は、食べやすいのがいいわ」
カルラが適切に助言してくれる。アーシアはそれを聞いて、一つ思い当たるメニューがあった。
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そうと決まれば、下ごしらえである。アーシアには出来立てほやほやを永遠にキープできる、空間収納があったが、蒲焼きはやはりその場で焼いて食べる方が風情が出るというものだ。
他のメニューは、唐揚げと肉料理をもう一品、デザートも2品、みたらし団子と以前作ったことがあるスイートポテトにしよう。プリンということも考えたが、食べやすさを考えると小さ目のスイートポテトに軍配が上がった。
そして下ごしらえの中には、七輪作りも入っている。
材料は、珪藻土1、他の粘土1/3、おがくず1、中和剤1にしてみる。中和剤は液体が多いので水どっちにしようか迷ったが、中和剤のほうが錬金にはしやすいかと思い選んだ。
『調合・成型』
デザイン画を横にシェイプを唱えると、それらしい形になった。それに高温にするために、いつもより少し大きめの燃料を付け足す。
『調合・錬金』
強い光と熱気が来て魔法陣が現れる。成型した粘土の器の周りを炎が包んだ。
「よし、完成かな?一応できているか鑑定もしてみよう」
『鑑定』
[【デイス作・七輪】:(品質A)普通の性能/耐久A/数量1/特性 丈夫、和の心]
(和の心ってなんだ……?
ええと、「郷愁を呼び、これを使った料理は、HP再生が微小にアップする、各防御が0.5%上昇」って、もしかして凄いのかな)
思いがけない効果に驚きを隠せないアーシアだが、一先ずこれでいいと、空間収納に仕舞った。恐らく普通の水を使うレシピのほうが、普通の七輪が出来ていただろうことは、気にしないままのアーシアだった。
そしてやっと、“調理”の下ごしらえだ。ムナギをおろすわけだが、今回は久しぶりに錬金の『解体』を使う。実に正しい使い方だ。
綺麗に骨と身に分かれ、内臓類は除去してしまう。かなりの大きさなので、適当なサイズに身を切り分けた。
串を三本縫うように刺して、皮から両面を焼く、これはキッチンオーブンの蓋を取り網を置いて直に焼いた。
程よく焼けたら余分な脂をさっと水で流して蒸し器で蒸す。そして、そのまま空間収納に保存だ。
たれは、みりんが熟すのを待って、もっと間近に作る予定だ。
また、ムナギは骨をよく洗って水気を拭き、2㎝くらいに切って、軽く粉を塗して揚げる。芝色になったら、粗熱を取り塩を塗す。骨チップスの完成だ。
これは手間がかかるものの、大層、美味しい。
次の一品は、王道のローストビーフだ。使う肉は街の肉屋で購入したので、ビーフかどうかわからないが、牛系モンスターの肉らしい。
塩コショウとハーブを合わせてねかせて置き、常温に戻した肉を作ったハーブペッパー塩を塗しておく。
時間が来たら、フライパンでしっかり周りに焼き目を付ける。
アーシアは、ハートさんの厨房を作った時に、ミートハスタナーという仕組みがあるものも作った。
これは現代にはない器機で、錫メッキした金属板で三方を囲んだもので、ストーブの傍に置いて熱の伝導で調理するものだった。
これの家庭用に、中の湿度を調整するためのガラスの扉もアレンジで作った。ローストビーフをアルミホイルで包み、余熱で調理する代わりに使うつもりだった。時代を融合させた、中々の理想のスローライフではないだろうか。
先ほどの肉を、細紐で縛って、スピットで吊るし、長い棒で時々回転させる。分かりやすいものとして、あちらの非常に有名なねずみのテーマパークのターキーレッグが回りながら焼かれていく器機だが、あれはローストする機能が付いている。アーシアは幼い頃、校外学習(遠足)に訪れた有名なパーク内の隅でそれを見付け、時間を忘れて肉がくるくると回りながら焼けていくのをじっと眺めていたので、グループの生徒から叱られてしまった経験を持っている。そんなところは子供の頃から、変わらない。
なので、念願の夢のキッチン器機といった感じなのだ。自宅用には、アンティークな黒い鐘形のものにしたのでお洒落だ。多少凝ったデザインでも錬金術なら楽に出来るのが嬉しい。
『おお~なんだかいい匂いがしてくるぞう』
ミートハスタナーの扉の隙間から、匂いがしてきたのか、ふわふわとマドカが漂ってきた。
「あら、マドカ。帰って来たのね。お帰り」
『ただいま。……これは……なんにゃ?』
「今すぐ食べるものじゃないから、また今度ね」
白い毛玉な食いしん坊は、空中でぐるぐる回りながら、鼻をスンスンさせている。
『待ちきれないニャ……』
(まあ、猫だからな……お肉好きだよね)
マドカの様子を見ていて、『聖なる森』のニャンずを想った。
(将来的にはもっと大きいのが必要になりそうね……
でも……熱そう、ビッコロ村なら丁度いいだろうけど)
反射熱で当然前に立つと熱い。それは、他のストーブにも言えることだが。なので外側の金属の特性に温度を下げる効果を付けたのだが、それでも熱いだろう。
料理人さんは大変だな、とアーシアはつくづく思っていた。
今度はデザート作りとたれの調合をしないといけない。
沢山の量が要るものだし、まだ時間があるので日を分けて行おうと考えていると、丁度時間になった。
熱気の上がるハスタナーから堪らなく香ばしい匂いのする肉を取り出した。
『おう~、もう食べられるのか?』
「まだよ~」
(まあ、ちょっとはあったかくてもいいかな……でもな、中がどうなっているか……)
鑑定スキルは便利なもので、食べごろかどうかも分かったりする。また、毒性のある時や腐敗してしまっているかも分かるので非常に便利だ。
まさに、チート! と、アーシアは思っているが、きっと世間的にはズレているであろうことは、誰も指摘するものが居ないので気が付かないままだろう。
自身の認知能力を斜め方向に、着々と伸ばしているアーシアだった。
ミートハスタナー: "meat hastener"(または単に "hastener")19世紀のヨーロッパで使われていた熱反射式の調理器具(多くは大型の金属製スクリーン)を指します
現代では電気オーブンなどが普及したため、家庭で使われることはほとんどありません
お読みいただきありがとうございました




