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異世界放浪~クラフトワークス~  作者: 紫野玲音
第四章 セドゥーナ学園・後編 春の訪れと卒業の道
114/208

110桜餅桜色

 

 みりんを仕込みながら、学校で勉強し、商業ギルドからの発注を受け納品する。

 そして、週に3回だった棒術のレッスンは、馬術も増えて4回になることもあった。

 馬術といっても、魔獣に乗るのが最終課題だ。初めはポニーのような小型からで楽しかったが、普通のお馬さんになった時、その高さに驚きを隠せなかった。

 まず、乗れない、そして乗ったら高い、バランスが取るのが難しい。しかし、棒術のせいか体幹が鍛えられたおかげで、やっと一人で乗れるようになってきたところだった。

 馬術訓練場は、一般学部内にあるので、使う時は必ず許可が必要だった。どうやら、馬術クラブも放課後に活動しているらしい。


 明日は、馬術レッスンだったので、アーシアは、(たま)にはおやつでも持参しようと亜空間(ストレージ)作業場(ワークショップ)の自宅に向かった。


 ここの世界ではそういった行事はあるか分からないが、日本なら今頃が丁度、桃の節句の時期だろうか。

 時期的にはそうだが、このポルタベリッシモは温暖で、季節的には二ヵ月以上早い感じだ。年明けると冬が終わる、というような。

 あんこや、きな粉も作ったことだし、また和菓子でも作ってみようと思っていたのだ。


 一つは、桜餅(さくらもち)、桜の葉の塩漬けはないので何かで代用できるだろうかと探すと、クルマバソウというハーブが、丁度香りが似ている気がしてよさそうだった。

 ただ形が桜の葉よりも細いので見た目が違ってしまいそうだ。

 このハーブはヨーロッパでは、リンネル類に香りをつけたり、リキュール、デザートの香りづけや、()ぎたばこなどの香料にしたり、 薬用としては、鎮静剤として用いられる。

 大変用途の多いハーブの一つで、食用としても使えるのだが、あまり量は取りすぎてはいけない。


 綺麗なクルマバソウで塩漬けをつくる。熱湯に葉を潜らせたら、冷水で直ぐに()めて色止めをし、水分を拭いて塩漬けにする。

 材料に、白玉粉が要るので、きな粉を作った時の要領で、錬金釜にもち米、水と少量の燃料を入れて焙煎錬金する。

 これで、白玉粉が完成した。もち米はみりん作りでかなり使ったため、またジュェワ物産店で買ってこないといけなかった。

 後日、アーシアがその物産展では、大量買いで有名なお客となったのは、また別のお話。


 こし(あん)を小さく俵型に丸めて用意しておく。食紅を少し混ぜ桜色になるよう調節した水に白玉粉を混ぜ、それを、薄力粉と砂糖の入ったボウルにだまにならないように混ぜていく。

 生地をフライパンで薄く適サイズに薄めに伸ばして低温で焼く。ほんわりピンクの小さなクレープのようなものができた。

 それをあんこに巻いて、更に飾りのようにクルマバソウの塩漬けで巻いた。俵型ピンクの中央に緑のベルトのコロンとした妖精のようなお菓子ができた。


「わあ、妖精のお菓子みたい……うん、かわいいかも」



 もう一つは、まだ、浅みりんどころか、浅浅みりんであるが、それで、みたらしのたれを作って、お団子を作る予定だ。

 3色団子のほうがひな祭りっぽいが、今朝パントリーを確認すると、みりんらしくなっているのを確認して、みたらし団子にしようと思ったのだった。


 醤油、みりん、砂糖をそれぞれ1:1:3の割合で焦がさないように丁寧に煮詰めていくと、綺麗な薄茶色いたれが出来て来た。

 白玉粉に水を少しずつ入れてかき混ぜて、まとまってきたら、指で()ねて一つにしていく。中々楽しい作業だ。鼻歌を歌いながら手を動かしていると、白くて耳たぶくらいの柔らかさの生地ができあがった。

 熱湯に、小さく丸めた生地を次々に落としていく。(しばら)くすると、ぽこ、ぽこぽこ……と白い玉が面白いように浮かんでくるのだ。

 その白玉を、冷水で締めて水を切る。串に3個白玉を通して、たれを(まと)わせて完成だ。

 それらを、皿に盛って、残りを四角い蓋のできる容器に入れた。アーシアはいつも、お店屋さんのように沢山作るので、時間いっぱいになってしまった。



『あ~、なんだかいい匂いだね! ご主人』


 様子を見に来た、マドカがその皿の上の可愛い和菓子を見た。


『わあ、お花みたいだ! こっちは、可愛い玉がくっついてるね』


「これも、和菓子っていうお菓子なの」


『ああ、この間のおはぎ!』


「そう、あれも和菓子ね。

 今日は、これを持って乗馬訓練に行こうと思って。あと、子猫たちと鹿さんにもね。

 そうそう、この3つ並んだのはお団子っていってね、ずっとわたしが作っていたみりんも使っているの!

 それで、このお皿は、お供え用よ」


『わあ、それは、すごいや!』



 綺麗に飾り付けをした桜餅とみたらし団子を前に、二人でお祈りをする。


(今回の桜餅は関東風だったけど、関西の道明寺も作ってみたい……)


 そんな風に思いながら祈っていたせいか、《たのしみにしていますよ》


と聞こえた気がしたが、気のせいだとアーシアは強く自分に言い聞かせた。




 馬術訓練場に行くと、カルラだけでなく、フリムカルドも待っていた。フリムカルドの横には大きな青味がかった馬のような魔獣が伴われていた。

 マドカは、お土産の和菓子を持って『聖なる森』にお出掛けだ。



「アーシア、こっちよ」


 カルラが手を振る。今日はタイトな赤葡萄色のズボンと白いブラウスの乗馬用の服でピカピカの銅色の髪に映え、スタイルの良さが際立っている。


 アーシアも手を振りながら近づいて行くと、その馬型魔獣の姿が良く見えた。頭には長くはないが太い2本の黒っぽい角のようなものがあり、(たてがみ)は青く、目は深い黒色だった。背が高いので気にならないが足はがっしりと太い。

 気圧されるほど、立派な魔獣だ。魔獣に乗るなら、最初は魔馬からがいいだろうと、教官たちが決めていたのだ。


「こんにちは、アーシアさん。こっちは、俺の愛馬のアズリオスだ。

 カイトの従魔には敵わんが、かなり早く走れるし、長距離ならこいつの方が勝っているんだ。

 君のように、長距離移動にはもってこいだろう」


 一瞬、ぽかんとしてしまったが、フリムカルドはビッコロ村に戻ることも想定して言ってくれたということに、直ぐに気が付いた。


「じゃあ、今日は、本格的に魔獣に乗る練習よ!」


 カルラは面白そうに声を上げた。


(いやいやいや、いきなりこんなに大きくて……おっかない魔獣って……ハードルが高いでしょう)


「大丈夫よ。フリムカルド君の従魔は、ちょっと迫力あるけど、性格も安定してるし、頭がいいの!

 だから何も問題ないわ……多分」


(なんですか?! その多分って。

 「しらんけど」みたいにつけないでくださいよ!)


 心の中でぼやきながら、にこにこと機嫌が良いフリムカルドの手前、断ることも出来ず、引きずられるように連れて行かれた。

 当然初めてでこの高さを乗るのは無理なのでステッパーを昇る。怖がると馬に気づかれうまく乗れなくなると聞いていたから、努めて平静に気持ちを整えながら乗り上げた。



(た、たかい……それに、太い……。締めていると足の筋肉が~)



 ちっとも平静には見えなかったが、フリムカルドの従魔は賢いので、大人しくしていた。パニックに大変と思っているのかもしれないが。

 手綱(たづな)を握り、フリムカルドの先導でゆっくりと内周を周った。


(おお、これならいける……かもしれない)


 高い場所からの眺めは壮大で、気持ちのよいものだった。ちょっとリラックスできた時、カルラが明るい調子で言った。


「あら、いい感じじゃない? じゃあ、外周もいってみましょう!」


 そう言うと、二人の教官は外周に導き、フリムカルドはにこにこと何の悪意もない笑顔でリードを離したのだった。

 アズリオスは、少し身体を傾斜させたと思ったら、グンと風圧が来て急に駆け出した。まるで、ジェットコースターで落ちるような加速の仕方だった。


(ぎゃーーーー!!!


 はやい、はやいっ?!

 

 や、や、やめてぇ~~!)


 舌を噛みそうになりながら、アーシアは、振り落とされないように必死で脚を締め手綱を握った。

 怖さに身体を魔獣に縋り付くように傾斜させていたため、なんとか振り落とされずにいたが、魔獣は徐々にもっと速度を上げあっという間に外周を一周していた。


「じゃ、もう何周か、がんばって~!」


二人にやっと近づくと、カルラの明るい声がアーシアの耳を通り抜けた。


(うああ~~)



 這々(ほうほう)(てい)になりながら最後の周回を戻って行くと、二人が笑顔で迎えてくれた。



「なかなか、よかったわよ」


「今日は控えめでしたが、次はもっと早く走れますよ」


(いや、フリムカルドさん、速度はもう十分です。……カルラ先生、笑い過ぎですよ~)








お読みいただきありがとうございました

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