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異世界放浪~クラフトワークス~  作者: 紫野玲音
第四章 セドゥーナ学園・後編 春の訪れと卒業の道
113/208

109情熱は食欲で廻っている

 

 学園には中間試験が終わると、1週間近く試験休み期間がある。

 今回の定期試験は、アーシアは仕事が立て込んでいて、準備が不十分であったが、心配を余所(よそ)に解くことができたのだ。

 恐らく真面目に授業を受けて来たせいであろうと、アーシアは思っていた。

 試験が終わったので、久しぶりにまとまった時間を亜空間(ストレージ)作業場(ワークショップ)で過ごすことにする。

 みりんのための、焼酎作りだ。その前に亜空間作業場の設定を(いじ)って、発酵に向くようにしなくてはいけなかった。


 亜空間(ストレージ)作業場(ワークショップ)の自宅へ行き、キッチンに向かう。キッチンはかなり気合の入った完成度であるが、入学してからは中々使う機会がない。

 ダイニングキッチンの続きに、かなりの広さを持つパントリースペースがある。

 3面の壁にそれぞれ棚と、長細いサイドテーブルが1つあり、入って目の前の奥の棚は奥行きが最もある。その場所を今回使うことにする。


 その棚の前に立つと、『カスタムウィンドウ』と唱える。



 設定:

 環境 :温度₋湿度設定 各ブロックのカスタマイズ(※詳細)


 を出して、各ブロックのカスタマイズを選ぶ。


[設定する範囲を指定してください]



と、表示される案内と共に、自分の前の空間、つまり棚の周辺の画像が現れた。この画像を動かしながら、縦、横、高さを指定してブロックとして記憶させる。

 そのブロックの名称を付けないといけないので、「001.blk.発酵」と登録した。

 それが出来たら、環境温度と湿度を設定する。まずは、よく発酵できるように初めはやや暖かめにしておいた。

 その情報を保存して設定を終了する。そこまでできて、アーシアは、はたと気が付いた。


(これができるって、ことは……家の外で、菜園もできるんじゃ)


 ふふふと思わず笑い声が出てしまった。


 すると、ドタンと大きな音が玄関のほうからすると、


『うわ~~ん! ひどいよう!』


と、マドカが、泣きながら入って来た。


「なあに?どうしたの?」


 マドカは今日はアーシアの作業の間、亜空間(ストレージ)作業場(ワークショップ)の自分のキャットタワーで昼寝をしていたのだ。


『ひどいよう。放り出されたんだよぅ……

 おいら、何か悪いことした?ふえええん……』


 マドカは、信じられないという目でアーシアを見ながら、両耳を寝かせて尻尾を丸めた。


(なんのことだろう?……)と、アーシアは身に覚えがないので、頭を捻った。


「何にもしてないんだけどな……」


『でも、おいらが、ちょうどぐっすり、いい気持ちで寝ていた時、

”ポイ”って寮の部屋に放り出されたんだ。


 ”ポイ”だよ、”ポイ”って!

 それに……しばらくここに入れなかったんだぞぅ』


「ええと……」


 アーシアは、懸命に考えた。アーシアが今していたことは、この亜空間(ストレージ)作業場(ワークショップ)の設定だ。

 ということは……。アーシアは、ハッとなって気が付いた。もしかしたら、その空間の設定操作のせいかもしれない。


(前回は……この壁紙を設定したときだから、マドカが丁度、居なかったときだ!なら、設定中は本人しか居られないってこと?!)


 なんてことだ、セキュリティは通るのに、設定の状態は駄目なのか、と、アーシアは思い当たった。



「うん、ごめん。わたしのせいみたい。今度、亜空間作業場の設定を(いじ)るときは、声をかけるね」


『うん? なんかよくわからないけど……

 —―わざとじゃないんならいいや!』


 マドカは、そう言って直ぐに機嫌を直して、ふさふさの尻尾をぴんと上に上げ、アーシアの足元に擦り寄ると、またキャットタワーの寝床に戻る仕草をした。

 アーシアもマドカと共に、錬金釜のある作業場に戻り、みりんの材料となる焼酎を作る準備をする。

 試験が終わった時、オットー先生から、ワインの搾りかすと柑橘類で作った果実酒を貰っていたので、今回作るのは、麦と米ベースのもの2種類だ。



 材料:


 麦焼酎 → 麦+米麹+水


 米焼酎 → 米+米麹+水



 まずは、製麴(麹作り)だ。米に麹菌を植え付け、麹を作る。通常、数日かかるが、錬金術で直ぐにできてしまう。

 米麹は、あらかじめ3d複製機でも増やしてあった。


 次に、仕込み、蒸留、熟成となるのだが、錬金術はこの工程ごとに、最低でも用いた方がいいだろう。

 仕込みにも1次と2次がある。初めの1次は、「一次もろみ」、酒母を作る工程だ。通常1週間はかかるが、2日に短縮する。もっと時間を掛けてじっくり作った方がいいのだろうが、今回は最短での急ぎ作業だ。


『調合・醸造』


(A・オリゼーのみなさん!こちらです!

 ぜひ、お集まりください!

 アスペルギルス・オリゼーのみなさん~!)


と、アーシアは、心の中で祈るように呼びかけながら、魔法陣を展開していった。


 この1次仕込みを、2種類やって、その日は終える。必ず、状態も一つ一つノートに記録していく。それを確認して、また翌日も、錬金術を展開してもう一日寝かせてみることにした。

 そして、樽に入れて、パントリーの発酵棚の下の棚に入れて置く。


(うまくいくといいな。焼酎っていっても、わたし、あんまり飲まないから、出来上がってもよく分からないかもな……。師匠は、好きそうだったな。

 ふふ、それでわたしも、勉強だからって、ちょっとだけいただいたんだっけ……

 あっちでは、成人していなかったしね……)


 翌日の同じ時間に、パントリーから樽を出して、また仕込みを行う。これが、1次もろみというらしい。白っぽいもろもろした感じだった。

 少し酸味のある甘いようなアルコールの匂いが既にしている。前日よりももう一工程置いた方が、芳醇な甘さの香りがした。


(おお~、アスペルギルス・オリゼーさんたち、頑張ってくれてるみたい!

次もよろしくお願いしますね~……)


 そこからもう2次仕込みで、1次もろみを半分に分け、それぞれ麦と米を混ぜ込んだ。

 発酵棚で寝かせて日を置いて、やっと蒸留してアルコールを抽出させることとなる。これは、当然『抽出』スキルを使った。なので、この時点である程度の雑味になるエタノール以外のアルコール分を避けられる。

(ちょっと、失礼しますよ…… 折角(せっかく)、頑張って(かも)してもらったけれど……)


 あとは、熟成させるだけだ。蒸留したては原酒といって、それを貯蔵し熟させて、味や香りをまろやかにするそうだ。

 時々、錬金術の『抽出』を今度は余計な成分を除く用に使い、脂肪酸、硫黄化合物やタンニンといったような成分を丁寧に除く。

 最低でも90日、長いもので数ヶ月から数年熟成させる場合もあるという。今回は、みりんにする分とそのまま熟成する分を分けて取っておくことにした。



 やっとのことで、みりんである。みりんはさらに熟成が必要で、熟成期間は6か月~1年以上と長めだ。

 密閉し、暗所で丁寧に熟成させ、三か月で「浅みりん」これは、軽い甘味と香り、一年で「本みりん」は、深い旨味(うまみ)と照りがするという。

 アーシアは、時間がなるべく早い方がいいため、この浅みりんを目指してみようと思った。勿論、本みりん用も別に分けておくが。


 みりん材料:

 蒸したもち米、米麹、焼酎(アルコール20度前後)


 密閉容器に入れて、仕込み、糖化・熟成させる。

 ここまで出来たら、パントリーに置いて熟成させる。酵素がデンプンを糖に変えて甘味を出してくれるだろう。


「ふふふ……これで、憧れのお料理が作れる!」


 独り暗所のパントリーで笑うアーシアが、不気味だったのか、後ろからマドカが覗いてぎょっとなっていた。


『だ、大丈夫か……ご主人。

 なんだか……ここ……凄い匂いもするぞ。おいら……くらっとするんだぞぅ』


「ああ、大変?!」


 マドカを抱っこして、パントリーを出てダイニングテーブルの前に座った。マドカはぐっと額を押し当て、両腕でアーシアの手首を引き寄せた。


「ごめんごめん。きっと美味しいお魚料理ができるから、待っていてね」


『そうなのかあ?! おいら、たのしみだニャン!』



(語尾がニャンになってる……余程、マドカは発酵の匂いにやられたのかも。気を付けなくちゃ……

 

 ――でも、めちゃくちゃ可愛いっ!)






※醸造は、法律で個人で作ることを禁止されています


作中の『焼酎』はあくまで錬金術のファンタジー表現であり、今回は飲用ではなく調理・実験素材として描いています

また、主人公は、2級錬金術師を取っていて、年齢も成人しているので、今回作っていますという背景があります


お読みいただきありがとうございました

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