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異世界放浪~クラフトワークス~  作者: 紫野玲音
第四章 セドゥーナ学園・後編 春の訪れと卒業の道
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103甘味は心のオアシスです

 

 試験が終わって、アーシアは次の依頼に取り掛かった。ウェスちゃんの両親のハートさんが経営するコル・デル・クオーレのかまど部分の改装だ。

 飲食業の専門用語で”ストーブ”というものだ。現在3機あるのだが、そのスペースにもっと調理できるようにしたいのだそうだ。

 アーシアは、小さめのキッチンストーブや亜空間(ストレージ)作業場(ワークショップ)の自宅のキッチンも作ったことがあったので、そのノウハウを活かして、現場で図ってスペースに合うよう数枚の設計図を仕上げた。

 別に色見本も添付した。ここは業務用キッチンなので種類は少ないが。

 そのレジュメができたので、コル・デル・クオーレの休憩時間に訪問することになった。


「どうですか?こちらとこちらは、火の出る箇所が少ないですが比較的ゆったり作業できます。

 こちらは、目一杯増やしたものです。燃料は、魔石、薪、石炭なんでも使えますが…サイズが少々変わります」



「う~んそうね、あたしはこっちのがいいかなあ。あんたはどう?」


 今日は旦那さん、ウェスちゃんのお父さんもいた。お父さんもお母さんと同じく少し恰幅(かっぷく)のいい、感じの良い人物だった。

 白い専用の前掛けを締め、手を拭きながらそのレジュメを覗き込んだ。


「どれどれ…いやあ、どれも立派なものだね!

 これは、どれでも使いやすそうだ。

 うちは、出来たら燃料は今と引き続き、薪がいいんだ。ほかは…高いからねえ。

 沢山使うんで、そっちの方がいい」


「では……いまの排気穴を活かすように、煙突状にして、囲炉裏(いろり)フードをつけて施工するようにしましょうか」


「なんだか…すごそうだね…そうだね。お願いしたいな」


 ストーブにする際、排気ダクトが必要になってくる。当然かまどにも広い排気口があるので、それを利用しつつ新しく且つ換気も良く出来たらいい。

 ストーブの好みは奥さんが優先して決めて、その後その場を離れ午後の仕込みに行った。

 そして最後に、旦那さんと細かい内容や日程を長々打ち合わせして決め終えて、帰り支度をしている時だった。


「デイスさん!これこれ、持って行ってくださいな」


 と、奥さんが大きな麻袋を抱えて持って来た。そして、にこにこ笑って、その袋をアーシアの前に突き出して見せた。


「持って行ってくださいな。

 デイスさんは、ジュェワの珍しい特産物がお好きとウェスから聞いていまして。

 これは、知り合いのジュェワの人から(もら)ったんだけど、食べ方が分からなくて…


 もしよかったら、貰ってやってくれませんか?」


 そう言って、中身を見せてくれた。

 乾燥した小さい豆か何かのようだ。


(こ、これは!あ、小豆だ!!!)


「よ、よよよろしいんですか?

 こ、これは、乾燥した豆の一種でして、水で灰汁(あく)抜きしてふやかした後、調理できます」


「あはは、そうなんですね。試してみます。

 なに、うちにもまだいっぱいあるから、大丈夫ですよ。

 遠慮しないで、持って行ってください」


(や、やった~~!

 こ、これで甘味が食べられる~~!!)


 アーシアは、奥さんに小豆の下処理を簡単に説明すると、


「おやまあ、結構手間がかかるんだねえ」


 と言って、頬に手を当てて思案気(しあんげ)にしていた。ほかにも豆を使った料理もあるので、大丈夫だろう。

 アーシアは、挨拶を言って店を出た。施工は、少々早いが比較的客足が少ない翌月に行うこととなった。

 アーシアのほうはあまり時間が掛からない予定だが、今あるかまどを撤去(てっきょ)して貰っておくので、まとまった日にちがいるのだった。

 打ち合わせの疲れも吹っ飛ぶほど、今にも踊りだしそうに浮かれて足早に寮へと帰っていった。




「たっだいま~!」


 浮かれたまま帰宅すると、マドカが昼寝していたのか、驚いて飛び起きた。


『なんだ、なんだぁ?』


 ふふん、と自慢げな表情を浮かべると、


「あんこよ!和菓子よ!おはぎにしましょう!!」


 高らかに宣言した。わあ、と喜んだマドカが


『はやく食べようよ!』


と言ったので、乾燥した小豆をあんこにするには8時間以上かかることを言うと途端(とたん)にしょんぼりと肩を落とした。


 その気を落としたマドカの様子が、余りに憐れだったので、アーシアは錬金術で、なんとか早くできないかと考えた。

 幸い小豆は沢山貰った。少しくらい実験に使っても良いだろう。


「うん、わかった。ちょっと、試してみるね」


『やったー!!』


 直ぐに機嫌を直したマドカを伴って、亜空間作業場に入る。

 先ずは錬金釜の中に、小豆と水を入れ、灰汁を取る。


『調合・錬金・抽出』


 少し長い詠唱で大変だったが、2つ現れた魔法陣と次第に立ち昇る、恐らく灰汁の成分とを分離させていく。これはかなり長く掛かった。

 すると、下処理の済んだ小豆が無事に出来たようだった。また、灰汁はぼろぼろした塊になって残った。

 今度は、小豆の総量よりやや少ない砂糖と少量の塩を入れ調合する。実験なので、これも魔法でやってみるのだ。


『調合・錬金』


 魔法陣が綺麗にできて、釜の中に光が輝き、みるみる溶けてきた。アーシアは今回は攪拌(かくはん)棒を途中から握って混ぜだした。

 魔法陣と光が消えると、見慣れたあんこができて来ていた。グルグルと攪拌棒を回す。


『なんだか、やさしいいいにおいがしてきたぞぅ』


 マドカもワクワクして、覗き込む。


(今度は、お料理専用の錬金釜を作らないといけないなあ…汚いわけじゃないけどさ…気分的に…)


 そんな風にアーシアが思っていると、釜の中には見事に艶のある綺麗なあんこが出来上がっていた。


(お料理だと、大変なのにな…うん、魔法って凄い!)


 攪拌棒から、少し指で(すく)って味見してみると…


「うん、甘い!いい感じ」


『なんだか、すごい色だなあ…大丈夫か?

 で、でも、甘いんだな?おいらも、食べてみたいぞう!』


 にこにこしてアーシアが、もう一掬(ひとすく)いすると、マドカの鼻先に持って行った。

 マドカは好奇心の方が勝ったのか、しばしその指先を見つめて、ペロリと舐めた。


『んむうぅ、うまいぞぅ!!!』



 あんこを容器に移し替えて、釜を洗い、キッチンに向かいもち米の用意をする。もち米をキッチンで炊いて、こしあんの方も準備する。今回はつぶあんとこしあんの2種類用意する予定なのだ。

 あんこは半分に分けて、()し器を用意し無心にへらを使ってすりつぶす。

 何度も行って、滑らかな美しいこしあんが完成した。


 以前に青双子豆(むこうの枝豆のようなもの)を甘く煮た煮豆を作ったことがあるので、それを応用して、ずんだあん風も作ることにした。

 はっと気が付くと、大豆もあるから、きな粉ができるなと思い立って、作業場に戻り、大豆と焙煎のため少量の燃料を入れて錬金すると、上手いこときな粉も完成した。


(なんてことだ、こんなに簡単にできるなんて…きな粉…盲点だった。もっと早く作ればよかった…)


 きな粉に砂糖を混ぜながらアーシアはちょっと残念に考えていた。



 全てが揃って、もち米を丸め、あんを巻くようにつけて、次々に成型していく。もしかすると、これも『成型(シェイプ)』で出来るのかもしれないと、アーシアの頭からすっぽり抜け落ちていた。

 思った以上に大量のあんこができてしまい、その上ほかの種類もある。黙々とおはぎを丸め続けている横で、マドカがふわふわと飛んで作業を面白そうにじっと見ていた。


 大きなバッドにずらりとやや小ぶりのおはぎが並んでいる。小さくしたのは、マドカのことを考えてでもあるが、お裾分けしやすいようにでもあった。

 なので、数が沢山増えて、和菓子屋さんのようだった。


「じゃあ、まず、お(そな)えしようか?」


『うん!』


 こうやって、甘味や珍しいものを(つく)ったりするときは、アルディアの神さまにお供えするのが習慣となっていた。


(あま)(つむ)ぎ手、ウーズさま、ヴェイルさま、スゥードさま…』


(ウーズさま、ヴェイルさま、スゥードさま、そして、かまどの女神様…今日もこんな素敵なお菓子ができました。

 これは、わたしの郷里の和菓子というものです…)


 そして、今食べる分と少しの余分な分を除くと空間収納(ストレージ)に仕舞った。



「じゃ、先に味見しましょうか?」


『やった~!!』


「『いただきま~す!』」


 マドカは、ふんふんと目の前の皿に盛られたおはぎを平らげる。

 アーシアも、おはぎをじっと見つめて、口に運んだ。


(ああ、おはぎだ…

 うれしいな…おばあちゃんと一緒に作った味にちゃんとなってる…)


 マドカと1種類づつ食べ終えると、かなりお腹いっぱいになってしまった。



『これは、どうするんだぁ?』


「うん、鹿之丞(ろくのじょう)さんところにね、お(すそ)分け。

 ちびちゃんたちにもあげようと思って」


 そう、あの子猫たちも今ではアーシアの従魔なのだ。『扉から扉へ(ドアトウドア)』を使って渡そうと思って(かご)に用意していたのだ。


『うん。あいつらもきっと喜ぶんだぞう!!』


 マドカは(こと)(ほか)、嬉しそうに、舞い上がった。






お読みいただきありがとうございました


ブクマ、いいね!なども、よろしければ、よろしくお願いします!

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