103甘味は心のオアシスです
試験が終わって、アーシアは次の依頼に取り掛かった。ウェスちゃんの両親のハートさんが経営するコル・デル・クオーレのかまど部分の改装だ。
飲食業の専門用語で”ストーブ”というものだ。現在3機あるのだが、そのスペースにもっと調理できるようにしたいのだそうだ。
アーシアは、小さめのキッチンストーブや亜空間作業場の自宅のキッチンも作ったことがあったので、そのノウハウを活かして、現場で図ってスペースに合うよう数枚の設計図を仕上げた。
別に色見本も添付した。ここは業務用キッチンなので種類は少ないが。
そのレジュメができたので、コル・デル・クオーレの休憩時間に訪問することになった。
「どうですか?こちらとこちらは、火の出る箇所が少ないですが比較的ゆったり作業できます。
こちらは、目一杯増やしたものです。燃料は、魔石、薪、石炭なんでも使えますが…サイズが少々変わります」
「う~んそうね、あたしはこっちのがいいかなあ。あんたはどう?」
今日は旦那さん、ウェスちゃんのお父さんもいた。お父さんもお母さんと同じく少し恰幅のいい、感じの良い人物だった。
白い専用の前掛けを締め、手を拭きながらそのレジュメを覗き込んだ。
「どれどれ…いやあ、どれも立派なものだね!
これは、どれでも使いやすそうだ。
うちは、出来たら燃料は今と引き続き、薪がいいんだ。ほかは…高いからねえ。
沢山使うんで、そっちの方がいい」
「では……いまの排気穴を活かすように、煙突状にして、囲炉裏フードをつけて施工するようにしましょうか」
「なんだか…すごそうだね…そうだね。お願いしたいな」
ストーブにする際、排気ダクトが必要になってくる。当然かまどにも広い排気口があるので、それを利用しつつ新しく且つ換気も良く出来たらいい。
ストーブの好みは奥さんが優先して決めて、その後その場を離れ午後の仕込みに行った。
そして最後に、旦那さんと細かい内容や日程を長々打ち合わせして決め終えて、帰り支度をしている時だった。
「デイスさん!これこれ、持って行ってくださいな」
と、奥さんが大きな麻袋を抱えて持って来た。そして、にこにこ笑って、その袋をアーシアの前に突き出して見せた。
「持って行ってくださいな。
デイスさんは、ジュェワの珍しい特産物がお好きとウェスから聞いていまして。
これは、知り合いのジュェワの人から貰ったんだけど、食べ方が分からなくて…
もしよかったら、貰ってやってくれませんか?」
そう言って、中身を見せてくれた。
乾燥した小さい豆か何かのようだ。
(こ、これは!あ、小豆だ!!!)
「よ、よよよろしいんですか?
こ、これは、乾燥した豆の一種でして、水で灰汁抜きしてふやかした後、調理できます」
「あはは、そうなんですね。試してみます。
なに、うちにもまだいっぱいあるから、大丈夫ですよ。
遠慮しないで、持って行ってください」
(や、やった~~!
こ、これで甘味が食べられる~~!!)
アーシアは、奥さんに小豆の下処理を簡単に説明すると、
「おやまあ、結構手間がかかるんだねえ」
と言って、頬に手を当てて思案気にしていた。ほかにも豆を使った料理もあるので、大丈夫だろう。
アーシアは、挨拶を言って店を出た。施工は、少々早いが比較的客足が少ない翌月に行うこととなった。
アーシアのほうはあまり時間が掛からない予定だが、今あるかまどを撤去して貰っておくので、まとまった日にちがいるのだった。
打ち合わせの疲れも吹っ飛ぶほど、今にも踊りだしそうに浮かれて足早に寮へと帰っていった。
「たっだいま~!」
浮かれたまま帰宅すると、マドカが昼寝していたのか、驚いて飛び起きた。
『なんだ、なんだぁ?』
ふふん、と自慢げな表情を浮かべると、
「あんこよ!和菓子よ!おはぎにしましょう!!」
高らかに宣言した。わあ、と喜んだマドカが
『はやく食べようよ!』
と言ったので、乾燥した小豆をあんこにするには8時間以上かかることを言うと途端にしょんぼりと肩を落とした。
その気を落としたマドカの様子が、余りに憐れだったので、アーシアは錬金術で、なんとか早くできないかと考えた。
幸い小豆は沢山貰った。少しくらい実験に使っても良いだろう。
「うん、わかった。ちょっと、試してみるね」
『やったー!!』
直ぐに機嫌を直したマドカを伴って、亜空間作業場に入る。
先ずは錬金釜の中に、小豆と水を入れ、灰汁を取る。
『調合・錬金・抽出』
少し長い詠唱で大変だったが、2つ現れた魔法陣と次第に立ち昇る、恐らく灰汁の成分とを分離させていく。これはかなり長く掛かった。
すると、下処理の済んだ小豆が無事に出来たようだった。また、灰汁はぼろぼろした塊になって残った。
今度は、小豆の総量よりやや少ない砂糖と少量の塩を入れ調合する。実験なので、これも魔法でやってみるのだ。
『調合・錬金』
魔法陣が綺麗にできて、釜の中に光が輝き、みるみる溶けてきた。アーシアは今回は攪拌棒を途中から握って混ぜだした。
魔法陣と光が消えると、見慣れたあんこができて来ていた。グルグルと攪拌棒を回す。
『なんだか、やさしいいいにおいがしてきたぞぅ』
マドカもワクワクして、覗き込む。
(今度は、お料理専用の錬金釜を作らないといけないなあ…汚いわけじゃないけどさ…気分的に…)
そんな風にアーシアが思っていると、釜の中には見事に艶のある綺麗なあんこが出来上がっていた。
(お料理だと、大変なのにな…うん、魔法って凄い!)
攪拌棒から、少し指で掬って味見してみると…
「うん、甘い!いい感じ」
『なんだか、すごい色だなあ…大丈夫か?
で、でも、甘いんだな?おいらも、食べてみたいぞう!』
にこにこしてアーシアが、もう一掬いすると、マドカの鼻先に持って行った。
マドカは好奇心の方が勝ったのか、しばしその指先を見つめて、ペロリと舐めた。
『んむうぅ、うまいぞぅ!!!』
あんこを容器に移し替えて、釜を洗い、キッチンに向かいもち米の用意をする。もち米をキッチンで炊いて、こしあんの方も準備する。今回はつぶあんとこしあんの2種類用意する予定なのだ。
あんこは半分に分けて、濾し器を用意し無心にへらを使ってすりつぶす。
何度も行って、滑らかな美しいこしあんが完成した。
以前に青双子豆(むこうの枝豆のようなもの)を甘く煮た煮豆を作ったことがあるので、それを応用して、ずんだあん風も作ることにした。
はっと気が付くと、大豆もあるから、きな粉ができるなと思い立って、作業場に戻り、大豆と焙煎のため少量の燃料を入れて錬金すると、上手いこときな粉も完成した。
(なんてことだ、こんなに簡単にできるなんて…きな粉…盲点だった。もっと早く作ればよかった…)
きな粉に砂糖を混ぜながらアーシアはちょっと残念に考えていた。
全てが揃って、もち米を丸め、あんを巻くようにつけて、次々に成型していく。もしかすると、これも『成型』で出来るのかもしれないと、アーシアの頭からすっぽり抜け落ちていた。
思った以上に大量のあんこができてしまい、その上ほかの種類もある。黙々とおはぎを丸め続けている横で、マドカがふわふわと飛んで作業を面白そうにじっと見ていた。
大きなバッドにずらりとやや小ぶりのおはぎが並んでいる。小さくしたのは、マドカのことを考えてでもあるが、お裾分けしやすいようにでもあった。
なので、数が沢山増えて、和菓子屋さんのようだった。
「じゃあ、まず、お供えしようか?」
『うん!』
こうやって、甘味や珍しいものを創ったりするときは、アルディアの神さまにお供えするのが習慣となっていた。
『天の紡ぎ手、ウーズさま、ヴェイルさま、スゥードさま…』
(ウーズさま、ヴェイルさま、スゥードさま、そして、かまどの女神様…今日もこんな素敵なお菓子ができました。
これは、わたしの郷里の和菓子というものです…)
そして、今食べる分と少しの余分な分を除くと空間収納に仕舞った。
「じゃ、先に味見しましょうか?」
『やった~!!』
「『いただきま~す!』」
マドカは、ふんふんと目の前の皿に盛られたおはぎを平らげる。
アーシアも、おはぎをじっと見つめて、口に運んだ。
(ああ、おはぎだ…
うれしいな…おばあちゃんと一緒に作った味にちゃんとなってる…)
マドカと1種類づつ食べ終えると、かなりお腹いっぱいになってしまった。
『これは、どうするんだぁ?』
「うん、鹿之丞さんところにね、お裾分け。
ちびちゃんたちにもあげようと思って」
そう、あの子猫たちも今ではアーシアの従魔なのだ。『扉から扉へ』を使って渡そうと思って籠に用意していたのだ。
『うん。あいつらもきっと喜ぶんだぞう!!』
マドカは殊の外、嬉しそうに、舞い上がった。
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