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異世界放浪~クラフトワークス~  作者: 紫野玲音
第四章 セドゥーナ学園・後編 春の訪れと卒業の道
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100進級試験⓵

 

 年が明けて新学期になってしばらくすると、錬金術の各級の試験が開始される。進級試験と呼んでいるが実際は、国際ライセンスもとれる非常に重要な資格試験のことだった。

 寧ろ学園での定期試験よりも重要で、これがないとそもそも卒業ができない。

 資格試験は、年に数回休日に行われ、一般の人や卒業生も受けに来るものだった。なので、回数は比較的頻繁(ひんぱん)にあるのだ。


 それぞれ個別の部屋で、指定された錬金物を試験官の目の前で作成し、試験官は、鑑定師が必ず一人入り、チェックする。


 指定される錬金物は、試験前に発表され事前に材料を用意しておく。

 なので、その発表を見てから自分が得意なものを選んで受けることもできる。

 アーシアは、編入生のため在学中に合格しようとすると、時間が限られているので、そんな課題でも、一番近い日程の試験を受けることにしていた。




 ——アーシアの試験対策ノートより——


 ・3級で出るもの(Lv.25くらい)

 真鍮、青銅、ポーション(中)、火薬・初、触媒D…


 ・2級で出るもの(Lv.35くらい)

 鋼、鉄、合板D、ポーション(大)、爆弾C、中和剤・緑…


※3級の課題に低レベルのが出るとラッキー。だから人気があるらしい




 今回は、3級が真鍮(しんちゅう)と発表された。これなら、自信がある。

 しかし、2級は受けるか悩んでいた。

 そんな事をハンスさんに言うと、いや、2級は受けないと駄目だからね、と真面目な顔で言われてしまった。


 試験当日は、従魔同行は禁止されている。稀に補助系の能力を持つ従魔が、受験者である主人のサポートをさせられていた不正事例があり、全面禁止となった。

 試験は公明正大、自身の実力で臨むものなのだから、当然のことである。


 いよいよ試験当日となった。

 アーシアは、きちんと見える服装に髪は後ろで束ね、底の深い大きな鞄を持って行った。

 他の受験生もそれぞれ材料を持ち込むため大きい鞄なので浮くこともない。

 しかし、空間収納(ストレージ)を使ってはいけないという規則はないものの、アーシアの場合イベントリウィンドウを開くことになるかもしれないので、それを隠す目的で大きいものにしたのだった。

 少々心が痛むが、自分が来訪者であることを隠し続けるならば、仕方がないと割り切ることにした。



 廊下には、椅子が並んでいて受験生が並んで座れるようになっている。アーシアの受験受付で渡された番号は3番、一番奥の3番の部屋だ。

 その3番と紙が貼られた部屋の前には、誰も受験生がいない。不思議に思ったが、アーシアは素直に座って待った。


 (しばら)くすると、中からアーシアの受験番号が呼ばれた。


「はい、よろしくお願いします」


 中に入ると、狭い部屋の真ん中に簡易錬金釜が置かれ、その横には荷物置きと作業台があり、奥には椅子もあったが、試験官3人共に立っていた。

 そのうちの二人はよく知った顔で、ヘレン・オーウェン先生とアレッサンドロ・ヴィスコンティ先生までいた。


 アーシアは、少し目を見張った。アレッサンドロは、ナチュラルウェーブのある髪を短く切り、自然なクセを活かしたお洒落で清潔感のあるヘアスタイルをキープしているようだった。

 服装も綺麗な白衣にとてもこざっぱりしていた。アレッサンドロは、ハンスに連れられて、ソレッレ《姉妹の》美髪店へ行ってから、がらりとそのイメージを変えた。

 以前は奇人変人の偏屈者で許嫁にも振られ、見た目も気持ちが悪いとまで言われ、人気のなかった人物だったが、花火の発明と急激な見た目のイメージチェンジに、周囲を驚嘆の渦に変えていたのであった。

 今や評判はすっかり逆転し、後期の履修は人気になるのではとの噂がたっていた。

 もう一人は、二人よりも若く知的な男性で鑑定士だろう。その男性が、はっきりとよく通る声で話し始めた。



「では、課題を言いますので、時間内に錬金してください。

 制限時間は、40ミニト(以下表示は「分」)、

 課題は、(はがね)です」


(よし、準備しないとね。って、ちょっと待って、鋼って2級じゃなかったっけ?真鍮の用意ならあるけど…

 落ち着いて、落ち着いて…大丈夫、材料ならあるわ…)


 アーシアは、気を引き締めて荷物入れに入った何かあった時用の大きな(かばん)に手を入れて、空間収納から材料を取り出して台に並べた。

 ヘレンがチェックをすると、試験官に頷いた。


「よろしいですか?」


「はい」


「では、開始します。制限時間、40分」


 そう言って、手に持っていた道具のスイッチをカチリと押した。


 アーシアは、落ち着いて錬金釜に向かい材料を順番通りに入れ始めた。


 レシピは、【ハガネ(金属)】鉄鉱石2,石炭1、(水)1、火魔石小1(貝殻や骨、又は灰色石)1 (出来上がり:3)


『調合・錬金』


 難なく綺麗ではっきりとした魔法陣が、出来上がった。魔法式には手を加えず、品質を上げることに専念する。

 品質なら多少高くても、可笑しく見えないだろう。錬金釜の中で、それぞれの粒子が光って渦を巻く。

 そのままそれを宙に浮かせて、慎重に作業台の前に立った。アーシアは両手の間で光の粒子を操り、その帯になって漂っている様子は、まるでマジシャンのようだった。

 試験官が息をのむ音が聞こえたが、集中は切らさずにその場で作業を進めた。


成型(シェイプ)


 また古い魔法陣が消えて、新たなものが出て、綺麗に光った。その魔法陣が消えると、作業台の上には、5本のインゴットが出来上がっていた。


「時間……8分っ!か、鑑定します」


 鑑定士は、慌てながらも、『鑑定』と唱え、少し震えながら用紙に書きこんでいった。そして、息を深く吐き出して告げた。


「鑑定結果、ハガネ、品質A・624っ………5本…です」


 試験官は、自分が書き留めた鑑定結果を手に、一語一語、声を詰まらせつつも言い切った。

 ヘレン教授は、持ったバインダーを見つめて、静かに続けた。


「では、次の課題を言います」


 アーシアは焦った。今日は3級のみの受験ではなかったか、しかも2級相当を受けたばかりだ。

 そう不安に思って声を掛けようと口を開いた。


「デイスさん、あなたには、受けていただくことが必須です。

 それに材料なら、空間収納(ストレージ)があるでしょう。使用の問題はありません」


 有無を言わさぬ強い調子だったので、アーシアは仕方なく頷いた。





※アレッサンドロの髪は、美容業界でいうところの“ナチュラルウェーブ”。

 昔なら「天然パーマ」と呼ばれていたタイプです。

 今回は、柔らかい印象とニュアンスを正確に表現したかったため、この言葉を選びました。


お読みいただきありがとうございました

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