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異世界放浪~クラフトワークス~  作者: 紫野玲音
第四章 セドゥーナ学園・後編 春の訪れと卒業の道
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99 鹿おじさんの助言

 

 子猫たちをマドカが宥めている間、アーシアは『聖なる森』への空間扉(エアドア)を作ると、『扉から扉へ(ドアトウドア)』を展開した。

 心は鉛のように重く、子猫たちの気持ちが気にかかった。


 上手くドアができた。相変わらず昔のタバコ屋さんのような感じになっているが。


「こんにちは~、鹿之丞さん。今いますか?」


 扉の向こうから、緑色の鹿の顔がぬっと出て来て、アーシアは驚いて、あっと声を上げてひっくり返りそうになった。


『ははは、やあ、驚かせちゃった?』


鹿之丞(ろくのじょう)さん~」


『はは、パイセンじゃなくていいの?』


 アーシアは、恥ずかしくなってしまって、言葉を濁した。


『ところで、ここに来るという猫の聖獣は?』


「あっ、そ、そこに…」


 振り返ると、マドカに(ともな)われて、おずおずと3匹が上目使いで、悲しげな様子でトボトボと歩いて来た。

 丸いハチワレも、目が覚めたらしい。ややまだ、眠そうだが一番後ろから()いて来ている。


『おやおや、何があったんだい?』


「実は…」


 アーシアは、子猫たちが一緒にここに留まりたいと言って、ぐずってしまったこと、そしてさらに、従魔契約もしたいと言っていたことを鹿之丞に説明した。

 自分は、今錬金術師の資格をとるために学園にいて、またこの世界で生きるのに精一杯で、子猫たちの面倒を見る自信がないことなども話した。


 それに、勇者たちは従魔を1匹しかもっていないようだった。複数従魔を持つことは、可能なことなのだろうか。


 鹿之丞は、静かにアーシアの言葉に耳を傾けながら、時折耳をピクリとさせて、じっと何かを考え込むようにしていた。


『ううん、そうか。なるほどね』


 鹿之丞はまた、深い響きを持つ声で話し続ける。


『彼らは、きみのそばにいたいんだね。

 うん、顔を見たらわかるよ。従魔はね、主人側だけじゃないんだよ、従魔側でも主人を選んでいるんだ。

 このひとって、ピーンと来るもんなんだよ。彼らは幼いけれど…きっと、そうなんだね。


 従魔を複数持つこと自体は珍しくはない。相応の魔力はいるが、きみなら心配はないよ。

 かなり将来力が強くなりそうな子たちだね。だから、教会も対応に困ったのかもしれないね』


「今は…自信がないんです。マドカだって、

きっと放っておかれることが多くて、寂しく思ってる…」


『おいら、さみしくなんかないぞう!』


 マドカが、必死な様子で口を挟んだ。


『うんうん、やはり心配なんだね。でもね、この子たちだって、いつまでも赤ちゃんじゃないんだよ。

 きっときみが思っているより、この子たちは…面倒を見るより見られる方になるだろうよ』


 鹿之丞の言葉は、アーシアを驚かせるものだった。だって、こんなにまだ小さいのだ。普通の猫ならもう少し大きくなっているだろう、しかし、聖獣への変異でまだ見た目は赤ちゃん猫なのだ。


『神獣や聖獣がつよくこの人と契約したいと願うのは、結構ね、珍しいことなんだよ。

 実力がある分、プライドも高いしね。どうだろう、従魔契約を積極的に考えてあげないかい?』


 そして扉枠から覗き込んで、3匹に目をやると、子猫たちに声を掛けた。


『やあ、「聖なる森の(まも)り手」をやってる、鹿之丞おじさんだよ。

 鹿之丞パイセンと呼んでもいい。


 きみたちは、まだもう少し訓練が必要そうだねえ。そっちの丸い子は、いつも眠いんだろう?もっと聖力が必要そうだ。

 このお姉さんに、主人になってほしかったら、もっと訓練して健康にならないといけないよ。

 どうだろう、おじさんのところには君たちくらいの子供もいるんだ。一緒に訓練ができるよ。

 しばらく、ここで特訓を受けてみないかい?』


 3匹は驚いた顔をしたかと思うと、話を聞くうちに、期待で目をキラキラとさせだした。


『アーシアもこの子たちを受け入れる気があったら、今契約してほしいんだ。

 分かっていると思うけど、そのほうが安定するんだよ。

 もう、この子たちの心は決まっているから、そのままだと、訓練をしても不安定になってしまう』


 アーシアの心は、不安でいっぱいだったが、きっとこの学園での一年間が一番忙しいくて、それが終われば自分にも余裕ができてくるだろう、そう考えて気持ちが定まってきたのだった。


 しっかりと前を向くと、もうドアの(へり)に乗っていた3匹と、鹿之丞、そして肩の上のマドカまで、期待に満ちた目をしてアーシアを見つめていた。



「分かりました。子猫ちゃんたちも、本当にいいの?」


 にゃ~んと嬉しそうになくと、それぞれ弾むような声で答えた。


『わあ、うれしい!』


『…ほんとうにいいの?』


『ぜったい、後悔させにゃいわ』


 アーシアは、にこりと微笑んだ。しかし、ここで問題だ。アーシアは壊滅的に名づけがへたくそだった。

 空間扉の維持は、一度開けてしまえば思ったより魔力消費が少ないので、このままでいいが、どうしたものだろうか。

 アーシアは、1匹1匹よく特徴を眺めて考えた。


(黒灰の子は、目が黄色くて、尻尾も長くてシュッとしている…3匹の中でもリーダータイプみたいだ。

 マドカとも関連のある名前もいいな…

 あ、円、エンはどうかな?かわいい。


 それなら、女の子は縁エンをむすぶ、(なご)み…

 なごみちゃんがいいかも)


 自分の中では、かなりいい名前が浮かんだものだと、内心自惚(うぬぼ)れてしまった。


 子猫たちも、嬉しそうにアーシアを見守っている。

 そうだ、はやく契約してあげないと。アーシアはそう思って、黒灰の猫の前に行った。



「じゃあ、準備はいい?」


 猫は、しっかりと頷いた。『お願いします!』



『従魔契約・あなたの名前は、 エン 』



『ぼくのなまえは、エン!』



 ザアッと魔力が大きな波のように自身から出ていき、今度はまた大きくチカチカと小さな刺激を伴って戻って来た。

 決して、痛いという訳ではなく、心地よい刺激だった。二人で目を合わせ微笑む。


『気に入ったよ。ありがとう、ぼくのなまえは、エンだね』



 アーシアはにっこりと頷くと、錆び猫の前に行った。女の子は嬉しそうに両手をついて座って待っていた。


『従魔契約・あなたは、なごみ!』



『あたちは、なごみ!』



 また大きな魔力の波に(さら)される。今度は、暖かくて心地いい水の中にいるようだった。


『あたちのなまえ、すてきでしょ!なごみよ』


『それに、なんだか、からだが楽なんだ。力も湧いて来るみたい』

『あたちもよ!』


 2匹は、嬉しそうに周りを飛び跳ねた。


 残ったハチワレの子が、期待の眼差しで見ている。


 あとは最後の子、早く考えなくては、とアーシアは焦った。丸い体系にグレーと白、目が緑で丸い子だ。丸い背中にはグレーのハートのような模様が腰の辺りにあった。首を伸ばしている所をよく見ると同じようなハートマークが小さく覗いている。両腕がグレーになのも相まって、白のタンクトップを着ているみたいだった。

 顔は丸くて耳は小さめのお餅のようで、灰色のハチワレ模様が印象的だ。


 ハチワレの子は、時間が掛かっているせいか、次第に不安そうな表情になってきてしまっている。



『どうして…』



 目を潤ませている。アーシアはその様子にひどく胸を撃たれた。

 ふと、なにかが心に引っ掛かった。この顔をどこかで見たことがあると。

 確かポスターにもなって、近所のがちゃがちゃで直ぐに売り切れになっていた…


 …ここに黄色いヘルメットを被せたら………


(ああ、もうそれにしか見えないよ!)


 マドカの時の状況が再到来だ。それにしか見えない。そっくりだ!


(ええい、ままよ)



『従魔契約・あなたの名前は、 ヨシ!』


『なまえは、ヨシ!…なんだな』


 また大きな魔力の波動があって、今度はかなり増量して魔力が帰って来たが、アーシアの心には余裕が全くなくて、まったく気が付かないでいた。


(ああああああああ、ごめんね。安直すぎるね。ところで名前なんて言うのかしら、あの猫…)


 アーシアの心はもがき乱れていたが、鹿とニャンずは、楽しそうにその場をはしゃぎ続けていた。

 すっかり満足した子猫たち、エン、なごみ、ヨシは、張り切って空間扉を(くぐ)り、去って行った。

 残されたアーシアは、椅子の上で真っ白になったポーズをずっと取っていた。






『ヨシ!』

猫さんたちの一人称が、名づけまで安定してませんでしたが、ここから安定


エン(♂)黒灰、ロシアンブルーのような体型、長い尻尾、黄目 

 一人称「ぼく」 

なごみ(♀)ダイリュート錆び、目が水色、見た目には分からないが短め鍵尻尾

 一人称「あたち」

ヨシ(♂)グレーと白のハチワレ、緑の目、丸尻尾 丸い顔

 一人称「ヨシ」口癖「…なんだなぁ」


どうぞよろしくお願いいたします


お読みいただきありがとうございました

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