9 はじめての錬金術
大きな男の人はオーツさんに、ボタンの代金と大きなカボチャなどの野菜をお礼にと渡して帰っていった。
「やれやれ、喜んでもらえたみたいだ。うれしいね。危険な場所で着る作業着のボタンだから丈夫じゃないと駄目なんだよ。〈頑丈〉の特性も付けられたから良かったよ。ところで、随分と楽しそうに錬金術を見ていたね」
「はい、とても。楽しかったです」
実際のところ、こんなに集中して楽しんだのは久しぶりだ。
「あのぅ、私にも錬金術教えてもらえませんか?」
「でもねぇ、一応スキル適性がいるんだよ。アーシアは何か魔法のスキルはあるかい?」
「そのう…何もないところからものを出したりしまったりできるみたいです。
あっ、そういえば荷物見つかりました!ご心配をおかけしました。言うのが遅れて、すみませんでした」
そういいながら、手に持っていたカップを手品のように、消したり出したりしてみせた。
「おや、珍しい。収納魔法だねぇ。便利なのよね、いいわね!
収納なら、空間魔法か。じゃあ錬金術にも適性あるかもね」
(空間魔法!そういえば元の世界にいる時より、こっちのアルディアに来ていた時は、サバイバルバッグが軽くなくなってるみたいっだったのよね…それって、偶然じゃなかったのかも!空間魔法が発動してたの!?それにストレージ?イベントリじゃないのかな)
「ちょっと、こっちに来てみて」
部屋の中央の大き目のテーブルに作業石板を敷くと、さっきよりも小さなインゴットの塊を置いた。
「これに、魔力を込めてみて。細かくなるように想像するんだ。頭で具体的にイメージするのがお勧めだよ」
魔力なんて分からない、でもさっき見ていたオーツさんの手のひらを思い浮かべた。
次第に手の間の空間が暖かいように感じる。寧ろ熱くなっていく。
「おやぁ、意外だねぇ。上手いじゃないか、その調子だよ」
ゆっくりとくすんだ赤みのある銀色の塊が霧のように渦巻いていく。目を凝らすとより赤く光っている粒子と砂のような粒子が徐々に規則的に動いている。
(んんん~…赤っぽい…銅かなんかかな?)
赤い粒子がピカッと急に強く光った。
[ 銅(属性/金属): 熱伝導が高い やわらかく加工しやすい リサイクルしやすい /(備考)初心者にも向く ]
「うわぁ!」半透明の画面が現れた。
集中力を急に欠いて霧が崩れ。作業盤の上にはべちょっとした形のまま固まったいびつな金属の塊が残っていた。
「どどどど、どう、銅ですか?」
「どどど銅だよ。その通り。
あらまあ、鑑定スキルも持っているんだね!いよいよ錬金術師むきかもしれないね。筋もいいよ!」
オーツさんは笑って言った。
「ちょっとくたびれただろ。初めてなら優秀さ。
ちょっと錬金術師の適性とスキルについて教えたいんだけど、お茶でも飲みながらやろうか」
「はい!」
オーツさんは台所からカップとポットを持ってくると、テーブルの端に置き、お茶を注いだ。
お茶は薄黄色ががって、ハーブティーのようだった。勧められて飲んでみると、以外に喉が渇いていたことに気が付いた。お茶の温度は丁度よく、飲みやすかった。
オーツさんも一息入れると話し出した。
「スキルはその個人の適性に合わせて伸ばしていくんだけど。それ以前に適性。
それがないとどんなに頑張ってもスキルは取れないんだよ。適性っていうのはね、人それぞれ持っていて、大体一つか二つ位なんだ。
そして生まれ持った魔力量っていうのがあって、実は、みんなそう多くない。
魔法はちょっと生活を助けるくらいなんだよ。
で、魔術師といわれるのは魔力総量が多くて適性もひとつ抜きに出てるほうがいい。魔法使い《メイジ》は属性適性もあっていくつか持ってる人もいるんだけど魔法スキルはそれに応じて伸ばすの。
分かりやすいのは、うちの息子ね、火魔法適性だけなんだけどかなり強いんだよ。おまけに魔力容量も多いらしい。魔法使い《メイジ》っていうより、完全に火魔術師向きなんだ。そして、そっちのほうが世間的には喜ばれるんだよね。
それで、錬金術師なんだけど、属性適性を複数持っているひとが多いんだよ。いわゆる器用貧乏ってやつさね。その適正に合わせてスキルを習得していく。因みに今、アーシアがやっていたのは調合っていうスキルなんだ」
「おぉ~!でも、あんまりうまくいかなっかたかも。かたち、崩れてしまいました」
「ははは、さっきはスキルが発動するのか調べただけだから。充分、適性があるよ」
「やったぁ!」
調合とは元になる材料を作ることで、調剤、鍛冶、裁縫、細工…とスキルが枝分かれしているそうだ。
錬金とはジョブに近く、複数の生産スキルを習得しこれらを総合してはじめてできるようになるらしい。
生産職なら初歩的な調合を、大体誰でもできるそうだ。職業としては習得スキルが多く、あまり人気はない。薬なら薬剤師、鍛冶なら鍛冶師、料理なら調理師など一つのスキルに特化したほうがいいらしいのだ。
ホッと一息ついて、またお茶を飲む。
「ところで先生、適性が絶対ないとスキルはとれないんですか?」
「…先生?…あはは、先生か。
ええと、適性に左右されないスキルね。採取スキルとか料理スキルとか…
生活に根差したものなんかはみな大体できるね。
…あと魔法をよく使う人は、瞑想スキルなんてのが気が付くと勝手に取れてたりする。この辺はみんな持っているんだけど、それぞれ極めるとすごいんだ。採取は次位スキルに採掘とか薬草採取とか出てくる 。なんでも鍛錬さね」
スキルにはレベルがあり、鑑定スキル持ちじゃないと正確にはどのレベルか分からないが、訓練中に新しいことができるようになるので、レベルアップしたこと自体は分かるのだそうだ。また、熟練度の高い人は何となく感でわかるそうだが、それも実は鑑定スキルの一種なんじゃないだろうか。本人は感がいいだけだと言ってるがオーツ先生にも鑑定スキルがあるんだろう。
オーツ先生によれば人の鑑定にはかなりのレベルが必要なので必要にならない限り、みな自分がどのレベルなのか大まかに知っているだけらしい。子供などは、成長の折々に診てもらう。また、受験や就職の時などは、鑑定士さんに正確なものを診てもらい鑑定書を出してもらうのが正式だそうだ。




