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異世界放浪~クラフトワークス~  作者: 紫野玲音
第一章 異界の村と錬金術
1/190

Prologue₋

Prologue₋



 心臓が破裂(はれつ)するかと思うほど走る――




「はぁ、はぁ、はぁ…」(…助けて!助けて!!)


「はぁ、はぁ、はぁ…」(…、…苦しい、…苦しいよ!)





 ばたん。


 彼女は湿った木の根に足を取られて派手に転んだ。

 そして、重いリュックの持ち手を前でしっかり(つか)み、

更にぎゅっと握りしめながら――(かろ)うじて受け身を取った。




 (あし)()日奈子(ひなこ)は、ただの大学生だ。ただの貧乏な学生。


 運動部ですらなくバイトに明け暮れている。




(痛い!痛いよ、…このリュックだけは取られちゃだめ!!

 ……見えなくなれ、見えなくなれ、見えなくなれぇ!!)



 日奈子は心の中で、必死に叫び、懸命に祈った。

 身体中をあちこちのぶつけ、引っ掛けていたとしても、自分の命のこのリュックは、何としてでも盗られる訳にはいかない。



(ひ、人が出て来るなんて……しかもきっと……)



 この奇妙な“転移の前兆”は、すでに五度目だった。

 いつ移転されるかわからないため、このぎっしり詰まった巨大なサバイバルリュックは頼みの(つな)だった。

 だから普段、どんなに日々奇異の目の晒されても、離さずにいたものであった。




 痛みと苦しさに日奈子の視界が(ふさ)がれる。その遠くなっていく意識は、いつもの“あの転移の前触れ”に少しだけ似ていた。




(あ、帰れる?帰れるの?)




 だのに痛みは引かず、一層(いっそう)、粗野な男達の声が、どんどん近づいていた。


 けれど焦る心を余所(よそ)に、いつものような“転移”は訪れない。





「ュウ、バントォウ、グオクズゥ!≪ほら、|| だ。ーつか|| ろ!≫ズ!」






(助けて、嫌だヤダヤダ…早く日本に戻って!)






「ュウ、バントォウ、ュウ!ゾデェ≪|| あの◇を◇!|| ≫」





 激しく優しさの欠片(かけら)もない獣のような声だ。

 しかし、その言葉尻は妙な響きを持ち始め――

 なぜか男たちの話す言葉が二重に重なるように聞こえ出していた。部分的ではあるが、何を言っているか何となく分かるのだ。



 その声に注意して、見つからぬよう、這いずるように草木に身体を低く斜めに、匍匐前進(ほふくぜんしん)して遠ざかり、逃げようとした。

 ずるずると()っていくと、草が揺れる音、次いで地響きがして、急に膝下の地面の感覚が無くなった。






 (ああ!!)






 あっと驚く間もなく、みるみる地面が雪崩のように崩れ、土砂が彼女を崖下へと押し流すように投げ出した。 

 大きな葉で見えなかったが崖があったようだ。気づかずその場に踏み込んでしまったのだろう。

 大きな衝撃が、彼女の意識を奪う。



 ――目が(かす)み、男たちの声が遠くなった。






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