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ヴァニタスの鳥籠  作者: 鮭のアロワナ、しゃろわな
一章
8/64

国民的料理

 そして今、絶賛お説教中である。


 マジギレもマジギレ。鬼の形相で怒られている。


 怒りとは、理不尽に対する報復の欲望である。古代ローマや中世ヨーロッパでも憤怒は醜いものとされている。ローマ帝国の哲学者セネカの【怒りについて】では、「怒りは弱さの証明」と述べてられている。そんなセネカ自身も怒りにより破滅したのは言うまでも無いだろう。


 要するに、怒りは醜く、それを本人が理解して居ても抑制が難しいと言う事だ。


 俺は怒りと言う感情を否定している訳では無い。ただ……etc


「ほんと、ちゃんと聞いてるんですか!連理君の為でもあるんですっ」


 少し考えすぎていたのか、美羽が顔を覗き込んでくる。


「ああ、今は何故俺が説教を受けているのか、そのことについて考えていたんだ」


 俺がそう言うと美羽のこめかみに筋が入るのが目に見える。


 それ以降は説教の無限ループが始まったのは想像に難くない…。


「連理君は、何かアレルギーとかありますか?」


「無いぜ。カエルだってネズミだってなんだって食べる」


 ”下”ではそんなことを言っていられるほど食料が無かった。大地は枯れ果て、川は汚染されている。そんな所だったからな。


 食べる食べ物を勿論汚染必須だっただろう。


「か、かえる!?そ、それは食べ物ではありません!」


「失礼な。立派なご馳走だろ」


 蛙は”下”では幾分もマシな食べ物だった。味が良いと言うだけで儲けもんさ。


「と、取り敢えずアレルギーは無いと言う事ですね。分かりました!」


 美羽が何やらポケットから取り出し、弄りだす。


「なんだそれ」


「あ、これはスマホです」


 情報検索や連絡を取る携帯機だと記憶している。何百年も昔から変わってないんだな。文献で見た名前と同じだ。


「ほぉ…ちょっと貸してくれよ」


 文献で読んだ通りなのか興味が湧いてきた。


 ”下”ではまずお目にかかれない代物だ。”下”にはボロボロの書物は無数にあった為情報を得ることは難しくは無かった。これも書物に載っていた物の一つである。


「嫌ですよ~だっ!乙女の秘密は高くつきますよ」


 こちらに一瞥もくれず言い放たれる。


「今何してるんだ?それって連絡を取るのが主な使い方だよな」


 俺の得た情報ではそう記されていた記憶がある。


「今は周辺に美味しいお店があるか調べています」


 と、いう事はだ。絶賛”上”の飯が食べられるという事だろう。


 非常にわくわくしてきたぜ。


 未知なる幸福に対する期待が俺の胸を膨らませる。


「俺は寿司って奴が食べてみたい。文献で読んだ事しかないが…美食だったと聞く」


 寿司は旧世界での日本で特に人気だったらしい。今も寿司と言う食べ物があるか知らないが、あるならば食べてみたいと言う思いがある。


「お寿司ですか?それは大丈夫ですけど、ちょっと待ってくださいね」


 そう言いまたスマホをいじりだす。なかなか便利な機械なようだな。昔もこれは生活必需品であったと文献には載っていた。


「ここからだと…ここが一番よさげですね」


 決まったのか何やら一人ぶつぶつ呟く美羽。


「よし、急ぐぞ美羽!ついてこい」


 俺は美羽の手を引き走り出す。


「ちょ、ちょっと待ってください!そっちじゃありません!!!」


 おっと道を間違っていたらしい。


 まあそんなこんなでしっかりと寿司屋に着いた訳だが…。美羽から色々怒られてしまった。


「うら若き乙女の手をいきなり握るなんて破廉恥!」…らしいわ。お前もさっき俺の手を急につかんだじゃねぇかと思ったが、声に出すとまた怒られそうなんで辞めといた。


「食べ過ぎて吐かないで下さいね?なんか連理くんの印象が変わっていく…」


「吐くほど食べるなんてどこの間抜けだ。食べ物を無駄にするなと親に教わらなかったのか」


「杞憂で終わる事を願ってます…」


 全く心配性な女だな。俺の無限の容量を誇る胃袋を知らないらしい。この機に見せてやろう。


 なわけで店に入るなり


「へいらっしゃいっ!!!」


 大声で歓迎される。内観は木造になっており、いかにも古風な造りだった。


「個室ありますか?出来ればVIPルームでお願いします」


 美羽が入るなりいきなりそんな事を言う。


 …こりゃ相当なお嬢様だろうな。もしかしたらトンデモない大物に雇われる事になったかも知れないな。


「あ、あなたは…少々お待ちください!」


 元気にあいさつしたおっさんが動揺し奥へと消えていった。


 暫くすると奥から個室で食事していたであろう男女が出てくる。とても不満そうな顔をしていたが、多分おっさんに出されたんだろう。


「ささっ!こちらへどうぞ!」


「ありがとうございます。それといつもの奴でお願いします」


 美羽がそう言うとおっさんが急いで戻っていった。


「初めてじゃないのか?」


 個室に入るなり聞いてみる。


「はい。昔に何度か親に連れられて来たことが有るのですが…何年ぶりでしょうか」


「いつものって、何年も来てなかったらおっさんも判らないだろ」


「注文なんてなんでも良いとお母様が言ってたので真似してみました!」


 こいつ…。相当なバカとみた。おっさんは憶えてたんだろうが…にしても適当すぎるだろ。


「俺はマグロなる物が食べてみたかったんだが、いつものに入っているのか?」


 マグロは寿司の中でも定番のネタと記憶している。その身はルビーのように深紅であり、深い味わいがあると…実に美味しそうではないか。


「昔の私は好き嫌いが激しかったので…すこし変かもしれません」


 容易に想像が付くぜ。どうせ卵ばっかなんだろう。ガキに人気な寿司は卵らしいからな。


 暫く会話をしていると個室のドアが叩かれる。


「失礼しやす!」


 おっさんが下駄に乗せた寿司を持ってきた。


「おいっ!!!全部卵じゃねぇか!!!」


「言ったじゃないですか...少し変かもしれないって」


「バッカ野郎!これはもう卵かけご飯だろ!?」


 海鮮が何一つないとは思っていなかった。海鮮なんて食べる機会が無かったため食べてみたかったんだが…。


「おっさん、俺におすすめの寿司を頼む。できればマグロを持ってきてくれ」


 このままでは卵のみを食べることになるため追加で注文をしておく。


「タマゴだって美味しいんですよ。一回食べてみて欲しいです」


「限度ってもんがあるだろ!親になんも言われなかったのか?」


「お母様もタマゴしか食べませんでしたから…」


 親子代々タマゴだったらしい。親の顔が見てみたいぜまったく。


「ま、まあいい。俺の金じゃないからな…」


 よくよく考えてみれば俺が金を払う訳では無い。文句を言うのもお門違いだろう。


 暫くするとまたおっさんが来て寿司を置いて行った。


「そうそう、寿司ってのはこういうもんだよな」


 写真を見たことは有るが…食べるのは初めてだぜ。


 この赤いのがマグロか?何やら似た色の物が多いが…。


「美羽、これがマグロなのか?俺の見た写真と少し違うような気がするが…」


「中とろじゃ無いですか?私は生魚が苦手なので詳しくありません…」


 中とろは確か…マグロの部位の一つだったか...?まあいい、マグロならばそれで。


「それでは頂ましょうか」


 そういい美羽が卵を口に入れていく。


「俺はマグロから食べてみるか」


 俺はマグロに手を伸ばす。既に醤油が付いているのか、少しだが表面が黒い液体で染まっていた。


「なるほど…こういう味なのか」


 確かに美味しい。が…少し物足りないな。


「これは何だ?」


 端に緑色の物体が目に入る。


「それはワサビですね。少しつけて食べると美味しいそうです」


 卵を頬張りながら美羽が言う。


「こうか」


 緑色の物体を少しマグロに乗せ口に運んでみる。


「なるほど…確かにこれがあった方が俺は好みだな」


 少しの物足りなさが俺の中で補完された気がした。


 舌を刺激するアクセントが素晴らしい。


 それからは黙々と食事をし、寿司を堪能したのであった。

寿司は美味い。卵もうまい

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