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ヴァニタスの鳥籠  作者: 鮭のアロワナ、しゃろわな
三章
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「随分と物騒だな。俺一人に対してそっちは5人かよ?泣いちゃうぜ」


勿論、想定してた数より随分と少ないが…軽口は叩く主義なので言わせてもらう。


「へっ…坊ちゃん…こんなガキ一人ですかい?」


「そうだ。なんだ?文句でもあるか?」


「い、いえ…ただ過剰ではありゃせんすか?」


「そうだそうだ!汚ねぇぞ!」


「うるせぇんだよ!!お前は俺に歯向かった…それがどれだけの重罪か…その身をもって知ってもらおう」


罪ねぇ…。何を罪とするのか、その定義は曖昧だ。行動が罪たらしめるのか…それともその人間性が罪たらしめるのか。……そんな無駄な事を考えたところで何の役にも立ちはしないけどな。


……この気配。


あの後ろに控えているハゲ…多分だが…強い。俺と同じ匂いだ…人を殺している匂い…久しぶりだな。


「おいハゲ。お前……何人殺した」


「……それは俺に言っているのか小僧」


見た目通りの低く渋い声が木霊する。その威圧感から相当な手練れであることは想像に難くない。


「今のままじゃこっちが怪我すっかもな」


こりゃ…ちょっと想定外だな。このハゲ以外は脅威では無いのだが…どうするか。


「そこの女おいて帰るなら…小指だけで終わりだ……どうすんだ」


ドスの効いた声で言う。懐からこれまた小指を切るのに適してる小太刀が顔を覗かせる。


「ラララの事か?なら無理だ。こいつは今夜俺のベッドで寝るって決まってんだ」


「ふざけるなッ!!そいつは俺の女だ!!お前が触れて良い存在じゃ無いんだぞ!?」


穴の青い坊主が何か言っているが…こいつは眼中にない。


「てかラが多いし……それに連理のベッド臭そうだから行かないし」


振られてしまったな。まぁそれは些細な事だ。


「ちっ…面倒だが…ここで処理しておくか…親父がなんて言うか…」


親父は多分だが…こいつ等の首領だろう。あっちの世界では目上の者に対して親父やら兄貴やら、家族のような呼称で呼び合うみたいだ。


「へぇ…それ確か入れ墨って言う奴だよな。この時代にも遺っているんだな」


男が纏う衣服の下には仰々しい鬼…鬼か?分からんがそんなような入れ墨がされていた。


「にしても…こんな奴らの婚約者とは…お前の前世は悪女か?」


「ち、違う!……そうかもしれないけど…」


「お前ら…チャカは使うな。音でサツ共が来やがる」


「へ、へい!ったく…兄ちゃんも運が無かったな。周郷に喧嘩売るなんてよ」


「そうか?俺は寧ろ運が良いと思うけどな。なに、ちょっとした予行練習みたいなもんだ」


こいつ等に殺されるなら…世界を壊すなんて壮大な事…為せるはずも無い。誤差でしか無いんだ…ほんの誤差。


「そっちから来ないなら…こっちから行くぜッ!!」


男達の一人がこっちに向かい肉薄してくる。その手には刃渡り数十センチほどの刃物が握られている。


「れ、連理っ!!」


俺が死ぬと思ったのか、ララが悲鳴のような声で俺を呼ぶ。


……なんだろう。この感覚。美羽の時とはまた別の感覚だ……。


「ったく…そんなガキの喧嘩みてぇな動きじゃ…萎えちまう」


そんな男の突撃を軽くいなしながら、手に持ったブツだけ奪い取っておく。これが腹にでも刺されば致命傷は避けられない。


「なっ!?お、おい!何をしてんだ!!早くそいつを殺せっ」


まるで夏場のセミの如き煩わしさだが…無視しておこう。どうせコイツは戦いに参加することは無い。


「若…後ろに下がってて下さい…こいつぁ…少々厄介見たいですぜ」


ハゲが悟ったのか、ガキだけ後ろに下がらせる。…最悪劣勢にでもなればあのガキを人質に取ろうと思ってたのだが…それは許して貰えなさそうだ。


「雑魚が束になっても勝てやしねぇ…お前…何者だ?」


何者…ね。勿論人間なのだが、自分でも薄々普通の人類とは違うだろうことは勘づいていた。


「……ララの貞操を司る者だ。以後ララ操帥とお呼び」


「ふざけた奴だ。だが…こんな生温い世界に…お前みたいな奴がいるたぁな…」


「そんなお前も何もんだよ?少なくとも……”上”に居る奴の纏う気配では無いな」


「……そこまで分かるか小僧。増々生かしちゃ置けねぇな」


男が静かに…だが途轍もない速度で俺に接近する。…これは何かの武術だな。今までの奴らとは違う…明確に戦闘を経験している。


「ちっ…」


不穏な気配を感じ取り、後ろへ下がる。さっきまで俺が立っていたところはハゲの射程圏内だ。


「これも避けるか….ならば…こうだっ!!」


近くに居た黒服を鷲掴みにし、俺に向かい放り投げてくる。その膂力が普通の人間では到底無理な事は考える迄も無い。


「マジか」


飛んできた男どもを蹴飛ばすが…ハゲの姿が無い。この一瞬で俺の視界から抜けるか。


「死ね…小僧」


ゾッ...。


男が隠れていたのは黒服の後ろ。黒服を投げた後にまた別の黒服の背後へと移動していた訳だ。だから一瞬意識がそれてしまった。


「…………とんでもない力だな。その力…何を使った」


「何を使ったか?何も使っちゃいねぇよ。お前らがか弱いだけだろ?」


男がその剣先で俺の腹部を切り裂こうとしたが……そこは俺の射程圏内だ。


「連理…手が…」


小太刀を受け止めた掌に血が止めどなく流れる。


「よく手入れしてんな。こんなに斬れるとは思わなかった」


「ほざけ……普通なら切断されていても可笑しくは無い」


「計画変更だ。お前みたいな奴がいるとは思わなかったんでな…」


ギアを上げる。


……視界が更に透き通る。思考が澄み渡り…心地よい。脳内物質が全身を駆け回るのが分かる。


「クッ!!…こ、この力は…ッ」


ハゲの小太刀をそのまま力任せに振り上げる。更に力を入れた事により刃が深く潜っていくが、骨を断ち切る程の切れ味は無いみたいだな。


「ぶっ飛べ」


小太刀を手放さないハゲごと屋敷の方へと力一杯投げ飛ばす。


ゴォォォン………


けたたましい音が鳴り響く。


「おじきぃ!!」


「な、何をしている千堂!!」


このハゲ…千堂って名前らしい。ハゲの名前に興味は無いけどな。


「れ、連理って…何者…」


「俺はお前の貞操を司る神だ」


「な、なんで私が処女って前提で話を進めるのよ…ッ」


「そりゃ…大体見れば分かるしな。だが意外と物静かな奴ほど…って事もある」


「それより…その手…大丈夫?」


俺の手の惨状を見て言ってくる。勿論大丈夫な訳は無いが、ここで言ってもなんの解決にもならないだろう。こいつが超常的な力をもって癒してくれるなら別だが。


「見ろこの切り傷。骨の間に見えるこの白い筋は脂肪か?おっ…これは筋肉だな」


「……平気そう」


「そう言うこった。あと言っておくが…まだ終わりじゃないみてぇだぜ」


「え?…でもあの人は…?」


ハゲの気配はまだ強く残っている。そもそもこの程度で終わるとは思っても居ない。


「……親父…すまねぇが…使わせて貰うぜ」


ハゲの手にはなにやら怪しげな注射器が握られている。


「へぇ…”上”にもあんだな。”ソレ”」


その男が使おうとしているのは…多分だが”下”でよく見る…麻薬の一種だ。確か…痛みを感じなくなる代わりに、筋力が爆発的に向上するだったか。あれを使った奴が爆発的に強くなった記憶だけ…あるな。


「グゥ”ッ!!……ハァッ...ハァッ…」


奴の鼓動が早くなる。……このまま死んでしまうのではないかと錯覚する程に。


「それ…間違いなく寿命縮んでるぜ……」


「笑止。俺みたいな奴ぁ…長生き出来る筈もねぇだろ」


「そうかい」


来るな…。奴が構える。見るに腰の関節をフル稼働して最大限力を引き出そうとしているのだろう。その技は知っている。俺も偶に使うからな……だが、それは体を壊す諸刃の剣だ。今のお前がそれを使う事がどういう事か…分かっているのだろうか。


「デヤァ!!」


これを諸に喰らえば…間違いなく只では済まないな。


その並外れた速度は到底一般人が出せる踏み込みではない。


「でもな、その強大な力はお前には過ぎた力だと思うぜ」


そしてハゲが俺の目前へと到達した時……奴の姿がどこかへと消えてしまう。


「大昔にはアイキドゥとか言う武術があったんだ。なんだって、相手の力を活かして倒す…とか言うモノらしい」


「グハッ!?」


空高く飛ばされたハゲがようやく地面へと到達した。


俺はハゲの力を使って上に投げ飛ばしただけだが…どうやら効果は絶大みたいだったらしい。


「ま、”上”には過去の資料なんて残っちゃいねぇ。お前たちが知らねぇのも無理はねぇよな」


にしても…今の一瞬で掌が余計に悪化したな。これ以上血を流すと今後の活動に支障をきたす可能性がある。


「ララ、邪魔者はいなくなったぜ。その子憎が嫌いなんだろ。今のうちに殴っちまえ」


「バカ言うな!誰がこんな女に殴られるか!クソがッ…どいつもこいつも使えない奴らばかり…」


「自由は与えられるモノじゃねぇ。元から有るモノでもねぇ。お前自身で自由を選び取れ」


「自由……うん。私…我慢する事、やめる。家族は私だけで守るから…ッ!!」


「ほら小僧はここだ。いまなら俺が押さえつけて置いてやる。特大サービスだ」


「うん。今ここで…今までの鬱憤…吐き出す」


ドガッ!


……蹴りかい…。可哀そうに。俺だって蹴るとは思ってなかった。てっきり頬にビンタ位だと思ってたものだ。


ドゴッ!


ヒュン…。これ以上は言うまい。


白目向いてるぜ…。ご愁傷様。


バキッ!バチンッ!バゴッ!


それからしばらくの間、ララによるストレス発散が続いたのだった。



「ありがとう連理」


だが…ギャングか。そろそろ向き合わねぇと行けねぇのかもな。だが向き合う事即ち、”下”へと帰るという事だ。楽園のような場所を棄ててあんなゴミ溜に帰るってか…冗談じゃねぇ。


「気にすんな。俺はもう行く…お前も…もっと好き勝手生きてみろ。それを咎める奴は自分でぶっ飛ばせ」


「うん。連理はこれからどうするの?よ、良かったら明日からも一緒に会いたい…かも?」


「かも?そこは素直に成れよ。ただ…俺はやることがあるからな。明日はもうここには居ないかも知れねぇ」


世界を壊す前の…やり残した事。それを片付ける。やる必要は無いだろう。だからこそ、俺のエゴだ。いや、人はこれを信念、或いはケジメとでも言うのだろうか。空っぽ”だった”俺が持ち得なかったモノ。


「そうなんだ…。ほんと、嵐みたい。でも、助けられちゃった」


「助けちゃいねぇ。お前がつかみ取った運命だろ?」


「ううん。連理はが手繰り寄せてくれた運命。私の力だけじゃ絶対に無理だった。連理は……私の檻を壊してくれた」


「檻か…。お前は鳥か」


だが、そんな鳥を助けるのが…俺がしたかった事なのかも知れないな。今となっては遅いのだが。


「じゃあさ、世界を壊した後で…もう一度会おうね。約束」


「はっ…壊れた後に会えるのか?…だが約束は約束だ。次はお前のその慎ましい胸を美味しくいただくとするよ」


「次会う時は巨乳だから!」


ははっ。それは良い。


「楽しみにしとくぜ」

てなわけでギャング編が始まるとか始まらないとか。始まるまでは連理のちょっとした生活パートです。

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