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ヴァニタスの鳥籠  作者: 鮭のアロワナ、しゃろわな
三章
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エゴ

「ちょ、ちょっと大丈夫なの?あの人は…その…普通の家庭じゃないよ?」


「じゃあもしもの時は俺の肉壁にでもなってくれ」


「鬼畜!人でなし!」


凄い言いようである。全く…俺は人間で鬼でも畜生でもないと言うのに。


「にしても…”上”にもこんなギャングみたいな奴がいるなんてな」


奴の家…傍から見ると普通の古風な屋敷だが…纏う雰囲気が普通では無い。


「どうしよう…なんでこんなことになっちゃったんだろう…」


「どうせ世界はじきに終わる。今ここで一つの家庭が無くなろうと…些細な事だ」


「そっか…次会う時は世界が新しくなった時だね」


……覚悟が決まってるのか、世界が壊れる事について何も思っていないみたいだ。齢十五そこらの女がどう生きて来たらこうなるのか…。


「じゃあ行くか。お前の因縁…俺が断ち切ってやるよ」


こそこそとする必要は無い。これは戦争でも喧嘩でもない。ただの気まぐれだ。俺のエゴであり、娯楽。全く必要のない事であり…時間の無駄だ。だからこそ…価値がある。


「正義だとか悪だとか…そんな上っ面の意味なんて要らねぇんだ。見ろよこの空…曇り一つねぇ」


「空…?……凄い曇天だけど…」


「こまけぇ事は良いんだよ」


「そ、そうなの?でも…どうするの?出会ってからまだ一時間も経ってないよ…」


「時間なんて関係ねぇな。俺がすべきことをするだけだ…そこに誰の意思も介在していない」


「でも喧嘩なんて…良くないよ…」


弱々しく告げる。鬱蒼な瞳をしているのは喧嘩の中心人物だからではなく、俺を心配しているだけと言う事は流石の俺にも理解できる。


「ちょっと不完全燃焼だったのを解消しに行くだけだ。殺しはしないし俺も死ぬ気は無い」


俺の仮説が正しければここで死んだところでまた世界が回帰するだけだがな。だからこそ死への恐怖心が無くなってしまうが…それこそが真の終焉だ。だからこそ死ねない…俺がすべきことの為に。


「で、でも!相手は…周郷家だよ…」


周郷?知らんな…そんなに有名なのだろうか。


「噂では”下”とも繋がってるって…」


”下”ね…。


「”下”の人間は嫌いか?」


「ううん…そういう訳じゃ無い。ただ、”下”の人は手段を選ばない…それは…知ってるから」


知ってる…か。こいつの過去にも何か碌でも無いことがあったのだろうな。 


間違いじゃ無いがな。あいつ等に躊躇なんて高尚なものは無い。


「俺がその”下”の人間だとしたら?お前はどうする」


「えっ!?……連理は…悪い人じゃない…と思う…」


「えらく抽象的だな。だが…その程度の価値観で人間を量ると…痛い目を見るぜ」


「……そうかも」


思う所があるのか…それとも嫌な記憶でも蘇ったか…ララの表情に陰りが映る。こっち側に来ている”下”の奴らも居る。それはギャングの件で明らかになった。”上”に居たギャングは既に居ないと思うが…”下”のギャングに関しては何も知らない。もしかしたら再び”上”に食指を伸ばしている可能性だってある。


「ギャングでは無いから安心しろ」


一言補足だけしておく。別に信頼が欲しい訳でもない。だが、ギャングなんかと一緒にされるのも癪だしな。


「うん。眼を見れば分かるもん…その人が嘘ついてるかどうか」


へぇ…嘘を付いている様子も無い…本当にそう思っているのだろう。過去の経験からそう言う所に敏感になった訳か。


「そのお前から見て…あの男はどう写っている」


「……それは…連理に言ってもしょうがないじゃない」


その回答から碌でも無いことはある程度分かるだろうと言いたいところだが…今はいい。


早く終わらせて帰るとするか。


「ちっ…逃げずに来やがったか。良いぜその根性…ぶっ潰してやるよ」


家の門から大男複数人と共に先程の男が出てくる。どうやら穏やかではないらしい、奴らの手に握るものは刃物…包丁やナイフみたいなちんけな物じゃない。刀…日本刀って言う奴だ。


この安全な”上”で見る事は無いであろう武器にララが険しい顔をする。


「武器なんて…卑怯じゃ無いですか!?」


「良いぜ…そっちの方がスリルがあって面白れぇしな」


「ちょっ!?なんでそんな軽いの!?」


そりゃ…自分が死ぬなんて微塵も思えないから…なんてことを言ってもまた質問で返されそうになるので言わない。


「こっちだ。遺言くらいは聞いてやるよ。周郷に喧嘩売った落とし前はつけて貰う」


屋敷に招かれる。人一人消えても問題ないという事だ。”上”の世界も物騒になったものだな全く。


警察は何してんだ。


「や、やっぱ逃げよう…死んじゃうよ」


「ここで逃げてどうする?一生言いなりで人生を潰すか?それとも…ここで戦って自由を勝ち取るか考えるんだな」


「逃げる。連理を…巻き込めないよ…」


「即答かよ。ったく…世界ってのは案外厳しいらしいな」


俺に厳しい訳では無い。


「俺のエゴだ。付き合え」


「そ、そんなぁ…」


泣き顔になるが、どこか嬉しそうに見えるのも気のせいでは無いだろう。心のどこかでは自由になりたいと思っているんだ。勿論…ここで自由になった所で俺は世界を終わらせるんだがな。ほんの少しの自由って奴だ。


「ちょっと待ってくれ。少し…切り替える」


…………こいつらは”上”の人間だ。少しだけで良い…そう…少しだけで。


…………聞こえる。誰かの声が…心音が。視界がクリアだ。だが…それだけ。身体的な向上…いや、脳のリミッターが解除されている訳では無い。


「え?切り替えるって何を?」


「いや、何でもない。行くぞ」

いやぁ...面接かぁ...何言えば良いんだ。

暫くは主人公のエゴで動く物語になります。桃太郎で言うと猿の事虐める少年を助ける所らへんです。(大嘘)

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