序章
「なんだと?侵入者か…面白い。ここに来たこと…後悔させてやろうじゃないか」
「そ、それが...既に二人が死亡、一人が重症です!…奴は相当な手練れだと…」
「一人なんだろう?何を怖がることがある。一人で出来る事なんか…限られているだろうに」
「そ、それが…テーザーガンが効いてないみたいです」
ほう…電流に強い耐性があると言う事か。そんな人間が居るのだな…長年生きてきたが…初めてだ。
「信二は何処だ?あのバカ息子にやらせたら良い。あんなでも俺が直々に施したからな」
「はっ…」
ふっ...このご時世に襲撃か。実に面白い。
。
「ねぇな。貴重品がまとめられている金庫とかがあれば…」
「連理!ここ...なんか怪しい」
書斎の奥。俺には何も感じられないが…美羽には何か思う所があったみたいだ。
「俺にはなんも分かんねぇな。適当に押せば本みたいに動き出すかもな」
劇画の世界でしか見た事ないが。
「うん…?風か?」
何だ…この部屋に窓なんて無い筈だ。だとするならば…どこかに風が導かれる所がある筈。
「あっ...この本どこかで見たことがある」
「ヘミングウェイの誰が為に鐘は鳴る…か」
確かに…傑作だが、俺は好きではない。もともとどこかの詩か何かだった気がする。
「どんな本なの?」
誰が為に鐘は鳴る…人間と言う存在の繋がり。
「爆弾魔の話だ」
決してそんなことは無いが…強ち間違いでも無い。物語の意味を読み取る必要はあるが…俺はこの物語が嫌いなんだ。
「えー面白そうな名前なのに爆弾魔の話なの」
「あぁ、そうだ」
美羽も何れ読む事があるかも知れない。その時にこの本の意味を知るだろう。この本に感化されるという事は、俺達には許されない。もう、そう言う運命を辿って行ってるのだからな。
「何、気になるなら持って帰れば良い。暇な時にでも読め」
そう思い、ヘミングウェイの傑作に手を伸ばす。その瞬間、何かの装置が起動する音が聞こえた。
「これって…」
そして…時間を掛けながら、書斎の配置が変わっていく。秘密への通路か、ただの拷問部屋か。それは分からない。だが…俺たちに選択肢はない。
「こんな仕掛けをしてるって事は…視られたく無いものか…それ程大事なモノか」
そして…完全に新たな通路が出来る。誘われている…か。悪くねぇな。せいぜい愉しませてくれよ。
「おいっ!こっちだ!って、何だこれは!?」
もう追手が来たか。ならば迎え撃つのみ。
「美羽、お前は先に行け。俺は…ここで遊んでから行く」
「う、うん」
そうして書斎の奥へと美羽が走って行ったのだった。
。
「長いわ…どこにそんなスペースがあったんだろ」
可笑しい。屋根裏から入ったならば…この書斎は少なくとも地下でも…一階でも無い。だと言うのに…何故こんなにも長く続いているの?
平衡感覚も可笑しい。暗い…熱い…怖い…。
「連理が居なければ…何も出来ない」
違う…。自分だって出来る。連理みたいに強くない、連理みたいに機転が利く訳でもない。でも…ワタシだって…連理の傍に居たんだから。
惑わされるな。私と言う存在…連理と言う存在。私は私、連理は連理。
「思い出して…連理はこんな時どうする?」
少なくとも焦ることは無い。寧ろこんな状況を楽しんでいるだろう。思い出すんだ、連理を…あの人を。
…………そして…脳内に知らない記憶が舞い込んできた。その膨大な情報量は、私の脳内のリソース全てを…奪い去ったのだった。
ひねくれてるので誰が為に鐘が鳴るが苦手。好きな人はごめんなさい。
後、始まりましたね...。次の話からは”幸せ”あるいは、”愛”が副題ですかね。これはその序章です。美羽に何が起きたのか、ある程度予想は付いていると思いますが、どうなっていくのか...。




