夢
「思い出すなよ?それはお前に課した代償であり…力だ」
誰だ?俺は…そうか、急な頭痛で倒れたんだっけか?
「ここはお前の現実。世界が刻んだ記憶の果てだ」
俺の質問に答えろよ?お前は誰だよ。なんで俺の声で、俺の中で喋ってやがる。
「お前はお前で俺は俺だ。それ以上でも以下でもない。なんだ?惚れた女が死んで泣いてるのか?」
美羽が死んだ?それは無いな。俺が護るって言ったんだ。勝手に死ぬ訳無いだろ。
「お前に護りきる力があるのか?今でさえ満足に動けないお前が何かを護る?どんなお笑いだ?」
クソが…好き勝手言いやがって。
「世界を終わらせるのはお前だ。覚悟を決めろ。今持つ全てを手放し、一からやり直す」
どう言う意味だよ?世界を終わらせるのが俺?世界を終わらせたら美羽はどうなる?一緒に居られなくなるのか?
「お前次第だ。あるべき姿へと戻り、そこから紡げ」
ならば…俺は反対だね。世界を終わらせる事に意味を感じない。俺は美羽さえ居れば良い。
「そうか。美羽がどう思っているかなんてお前に知る由は無いのにか?それを傲慢…エゴと言うんだ」
うるせぇな。あのおっさんも…希望も…お前ら一体何なんだよ?何を知ってやがる?何故殺し合い…互いの正義を押し付け合うのか。俺には理解できないな。
「それは…お前が全てを忘れ、逃げているからだ。思い出すな、思い出さないことが…力となり、対抗しうる武器となる」
クソ…なんだこの胸のモヤモヤは。思い出すなだの…逃げているだの…俺の何を知ってんだよ。
””……り!!れ………り!!””
「お前のお姫様がお呼びだぞ。今回の姫様が…どこまで生きていられるか…見ものだな」
どう言う事だよ?おい…クソ…夢から目覚めちまう…。
。
「連理?お、起きたんだ」
何をきょどってやがる。
「お前が揺らすからだろ…。っつ…あいつ等は…」
おっさんと希望が居た筈だ。
「理事長は…死んでました…」
「そうか」
それは知っている。だが、最後にあいつが言った言葉…”鍵”とはなんだ?誰に託した?
「それより!…連理は何で…ううん。何でもない」
「なんだよ。言えよ気持ち悪いな」
「本当に何でもない。帰りましょう...私たちの家に」
はぁん…分かんねぇ事だらけだな。これからどうするか。自分を見直す機会に成りそうだな。
。
「そうか。逝ったか…天城」
無機質な病室。一人寝たきりの少女が居る部屋。だが…それも今日までに成りそうだ。
既に脈も…呼吸も無い。生命活動を停止している。
「キミ達が幸せに成らなかったら…僕も神を恨むかも知れないね」
少女と…少年の物語。それを近くで見て来たからこそ、彼らの幸せを祈ってしまう。
こんな世界で無ければ…二人は良き夫婦となって居ただろうに。
「パパっ!!脈とっ呼吸が…!!」
生命維持装置からの警報を聞きつけ娘がやってくる。
「大丈夫だ。彼女は…彼と共にある。…今頃楽しく笑ってるさ」
「え?どういう...」
既に蘇生は困難。と言うより…それを望んでは居ない。決して眠っている訳では無い…彼と共に居たのだからね。
次会う時は…二人一緒に会えたら良い。そう、願っておこう。それが、最大の幸せなのだから。
。
。
。
「もう…良いの…。貴方が生きているなら…それで」
「バカなこと言ってんじゃねぇ!!お前が…お前が死んだら…俺は何を…何を”護って“生きれば良いんだよ!?」
大切な人。それが目の前で朽ちようとしている。互いに愛し合い…支え合ってきた。その相棒とでも言うべき相手が…目の前で死ぬ。それを超える絶望なんて…無い。
「私は――を愛している。でも…それと同様に…世界も愛してる」
「俺は…俺はお前だけが居れば…それで良いんだ…世界なんて…必要ない…お前だけが…俺の
…」
心からの本心。俺は…世界なんて俗物は必要ないとさえ思う。だが、世界は記憶の具現化…あるいは夢の在処。世界が無ければ俺達の愛は無く…愛し、愛された記憶さえ…失われてしまう。
「——が…この悪夢を…終わらせて…」
そうして静かに目が閉じられる。生命が無くなる瞬間、人は少し軽くなると言う迷信がある。だが...俺の手に抱えた彼女は…残酷なまでに…重く、腕に圧し掛かっていた。
「あぁ…あぁ…っ…」
絶望…それは病。だが、ここで死ぬ訳にはいかない。彼女が俺に言った。悪夢を終わらせてと…。俺に願ったんだ。神でもなく…この俺に。ならば…俺が…この現実を終わらせる必要がある。
狂った世界を…俺が…終わらせてやる。
一人の女だけを愛し、世界を呪った男の覚悟。その覚悟を知る者は...この世界には一人たりとも存在しないのだった。
ユメかゲンジツか。時に私たちも分からなくなる時がありますよね。でも今まで刻んだ軌跡が自身の存在が、嘘では無いと教えてくれるのが...やはり世界は美しいと思う次第。




