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ヴァニタスの鳥籠  作者: 鮭のアロワナ、しゃろわな
三章
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「思い出すなよ?それはお前に課した代償であり…力だ」


誰だ?俺は…そうか、急な頭痛で倒れたんだっけか?


「ここはお前の現実(ユメ)世界が刻んだ記憶(おかしなユメ)の果てだ」


俺の質問に答えろよ?お前は誰だよ。なんで俺の声で、俺の中で喋ってやがる。


「お前はお前で俺は俺だ。それ以上でも以下でもない。なんだ?惚れた女が死んで泣いてるのか?」


美羽が死んだ?それは無いな。俺が護るって言ったんだ。勝手に死ぬ訳無いだろ。


「お前に護りきる力があるのか?今でさえ満足に動けないお前が何かを護る?どんなお笑いだ?」


クソが…好き勝手言いやがって。


「世界を終わらせるのはお前だ。覚悟を決めろ。今持つ全てを手放し、一からやり直す」


どう言う意味だよ?世界を終わらせるのが俺?世界を終わらせたら美羽はどうなる?一緒に居られなくなるのか?


「お前次第だ。あるべき姿へと戻り、そこから紡げ」


ならば…俺は反対だね。世界を終わらせる事に意味を感じない。俺は美羽さえ居れば良い。


「そうか。美羽がどう思っているかなんてお前に知る由は無いのにか?それを傲慢…エゴと言うんだ」


うるせぇな。あのおっさんも…希望も…お前ら一体何なんだよ?何を知ってやがる?何故殺し合い…互いの正義を押し付け合うのか。俺には理解できないな。


「それは…お前が全てを忘れ、逃げているからだ。思い出すな、思い出さないことが…力となり、対抗しうる武器となる」


クソ…なんだこの胸のモヤモヤは。思い出すなだの…逃げているだの…俺の何を知ってんだよ。


””……り!!れ………り!!””


「お前のお姫様がお呼びだぞ。今回の姫様が…どこまで生きていられるか…見ものだな」


どう言う事だよ?おい…クソ…夢から目覚めちまう…。



「連理?お、起きたんだ」


何をきょどってやがる。


「お前が揺らすからだろ…。っつ…あいつ等は…」


おっさんと希望が居た筈だ。


「理事長は…死んでました…」


「そうか」


それは知っている。だが、最後にあいつが言った言葉…”鍵”とはなんだ?誰に託した?


「それより!…連理は何で…ううん。何でもない」


「なんだよ。言えよ気持ち悪いな」


「本当に何でもない。帰りましょう...私たちの家に」


はぁん…分かんねぇ事だらけだな。これからどうするか。自分を見直す機会に成りそうだな。




「そうか。逝ったか…天城」


無機質な病室。一人寝たきりの少女が居る部屋。だが…それも今日までに成りそうだ。


既に脈も…呼吸も無い。生命活動を停止している。


「キミ達が幸せに成らなかったら…僕も神を恨むかも知れないね」


少女と…少年の物語。それを近くで見て来たからこそ、彼らの幸せを祈ってしまう。


こんな世界で無ければ…二人は良き夫婦となって居ただろうに。


「パパっ!!脈とっ呼吸が…!!」


生命維持装置からの警報を聞きつけ娘がやってくる。


「大丈夫だ。彼女は…彼と共にある。…今頃楽しく笑ってるさ」


「え?どういう...」


既に蘇生は困難。と言うより…それを望んでは居ない。決して眠っている訳では無い…彼と共に居たのだからね。


次会う時は…二人一緒に会えたら良い。そう、願っておこう。それが、最大の幸せなのだから。



「もう…良いの…。貴方が生きているなら…それで」


「バカなこと言ってんじゃねぇ!!お前が…お前が死んだら…俺は何を…何を”護って“生きれば良いんだよ!?」


大切な人。それが目の前で朽ちようとしている。互いに愛し合い…支え合ってきた。その相棒とでも言うべき相手が…目の前で死ぬ。それを超える絶望なんて…無い。


「私は――を愛している。でも…それと同様に…世界も愛してる」


「俺は…俺はお前だけが居れば…それで良いんだ…世界なんて…必要ない…お前だけが…俺の


…」


心からの本心。俺は…世界なんて俗物は必要ないとさえ思う。だが、世界は記憶の具現化…あるいは(ゲンジツ)の在処。世界が無ければ俺達の愛は無く…愛し、愛された記憶さえ…失われてしまう。


「——が…この悪夢を…終わらせて…」


そうして静かに目が閉じられる。生命が無くなる瞬間、人は少し軽くなると言う迷信がある。だが...俺の手に抱えた彼女は…残酷なまでに…重く、腕に圧し掛かっていた。


「あぁ…あぁ…っ…」


絶望…それは病。だが、ここで死ぬ訳にはいかない。彼女が俺に言った。悪夢を終わらせてと…。俺に願ったんだ。神でもなく…この俺に。ならば…俺が…この現実(ユメ)を終わらせる必要がある。


狂った世界を…俺が…終わらせてやる。

一人の女だけを愛し、世界を呪った男の覚悟。その覚悟を知る者は...この世界には一人たりとも存在しないのだった。

ユメかゲンジツか。時に私たちも分からなくなる時がありますよね。でも今まで刻んだ軌跡が自身の存在が、嘘では無いと教えてくれるのが...やはり世界は美しいと思う次第。

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