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ヴァニタスの鳥籠  作者: 鮭のアロワナ、しゃろわな
一章
6/66

急展開?

 あの刺激的な出来事から数日が経った。


 あれ以降美羽は来ていない。それは向こうでの生活が忙しいからなのか、もうこの場所に用が無いからなのかは俺には知る由もない。


 そしてここ数日情報収集をして判った事だが……あの男の言っていた”上”に行く方法を知ることが出来た。


 それはこの”下”の世界の組織の一つが流した噂らしい。


 ”上”へ行く条件は高額の金と人間の臓物。たったこれだけを組織に献上する事で”上”へのチケットを獲得できる。


 全く….こんなデマに踊らされるなんてな。その組織が上手く餌を散らして釣っているだけに過ぎないだろう。その約束が守られる保証なんて無いと言うのにな。


「仮に本当だとして、その方法で”上”に行けたとてだろうに…」


 つい独り言が漏れてしまう。


 誰も居ないため返事など帰ってくる事はないと言うのに。


「”上”行きますか?…お久しぶりです連理さん!」


「………。死ぬにはまだ早いと思うんだがな」


 幻覚か?幻聴か?何故ここに……。


「なんとなくここに居るかなーって思って!」


 淀みなき笑顔で言う。


「そうそう。連理さんさえ良かったら私の屋敷に来ませんか?」


 という事は”上”に行くと言う事だろう。


「随分急な話だな…。それに俺みたいな浮浪者が居て大丈夫なのか?」


「”上”と言っても様々な人が居るので大丈夫ですよ!」


 確かに上の事を知るには上で生活するのが一番手っ取り早いだろう。しかし….大丈夫なのだろうか。一抹の不安がぬぐい切れない。


 俺が判断を考えあぐねていると……。


「じゃあ今から行きましょう!既に話は通してあります」


 手が早いお嬢様なこった。既に俺の中で決まりつつあったが、今決定した。


 この運命を逃すまいと必死に手を伸ばしていこう。それが今の俺にできる事だ。


 誰の為でもない自分自身のために。


 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^


 そんな訳で俺は美羽に連れられ、今は”上”へと繋がるゲートに来ている。


 俺たち以外に人は見当たらない。この付近にやってくる物はそうそう居ないらしい。


 ゲートの手前の関所にて複数の警備員が在中している。この警備員たちに許可を貰いゲートを通る必要がある。その辺りは既に話を通していると言う話なので俺がすることは特に無いらしい。


 きな臭い話とか関係なく上に行くことが出来る訳だな。ここで目覚めて早一年が経つが、なかなか退屈しない場所だった。


 関所に着くなり美羽が警備員に話しかけに行く。


 俺も一応後ろについて行くが、美羽に止められた。多分俺が余計な事をしない為だろう。別に余計な事なんてするつもりは無いんだが…。


 数分位経つと話が済んだのか美羽が戻って来た。


「これでもう”上”に行ける筈です。驚かないで下さいね!」


 驚くなと言われても、何に驚けばいいのやら。


 そんな事を思いながら、”上”へと繋がるゲートに入る。


 ゲート自体の構造はエレベーターのようになっている。これに乗ることで上に行ける訳だ。


「うおっ…なんか不思議な感覚だ」


 浮遊感を感じ、少し三半規管がバグる。


「あ、言うの忘れてたんですけど私の屋敷で働きませんか?高給ですよ~」


「嫌だね。俺はやりたい事がある。せっかくこっち側に来れたんだ」


 働いて金を稼ぐことは俺にとって意味が無い。俺にとっての生きる目的はこの欠落した記憶の補完だからな。


 ありがたい申し出だが、ここは丁重に断っておこう。


「ですよね~。じゃあ気が変わったらで!」


 気が変わる事は無いだろうが、それを言葉にするのは無粋と言うモノだ。


「因みになんだが、お前の屋敷に行くと言う話だが……なにをするんだ?」


 上に行けることで忘れていたが、本題はこっちである。


 特に何も言われていなかった気がするが、何をするのかは気になる所だ。


「それは勿論私のナイトですよ!屋敷に住み着いてもらいます」


「それって住み込みバイトじゃねぇか!」


 思わず声が出てしまう。さっきの屋敷で働く云々の話は何だったんだよ…..。


「バイト…?勿論衣食住は保証しますが…お金は出しません!」


 住み込みバイトより酷いじゃねぇか。俺の自由は何処だよ。


「じゃあ屋敷で働くわ!」


「その言葉を待ってました!これで連理は私の正式な従者ですね」


「どういうことだ?」


 もしや、騙されたのか?この俺が…。


「もう言質は取ったので今の無し!は無しです!!」


 随分と強かなお嬢様な事だな…。


「俺の自由はどこだよ。これが闇バイトって奴か?」


「闇バイトだなんて失礼な。こんな美少女と一つ屋根の下で一緒に暮らせるんですよ!?」


 自分で美少女言うな。初対面でお前が言ったことそのまま返してやろうか。


 強かと言うより、狡猾だなこりゃ。いや不遜や我儘とでも言うべきか。


「俺は俺のしたい事があるんだが」


「勿論四六時中って訳じゃ無いですよ。必要な時に護ってくれれば大丈夫です」


「”上”でもそれは必要なのか?俺の中の認識では安全なイメージが勝手にあったが…」


「偶にはお姫様みたいに護られてみたいんですっ。全くもう」


 ぷんぷんと怒りながら言う。何から護れと言うのか……。睡魔か?


 まあ危険では無さそうな雰囲気だな。


「でも私、指輪失くしてちょっと良かったって思いました」


「それは何故だ?大事な物なんだろ」


 出会ったときに言っていたことを思い出す。大事なものを無くして良かったと思うのは変だろう。


「こうしてあなたに出会えたからですよ」


 恥ずかしい事を躊躇いなく言う女だな全く。


「バカな事言ってんな。それより腹が減ったんだが」


「あー!乙女の告白を流しましたね!あーあもう一生彼女出来ませんね~」


 あっかんべーと言いそっぽを向いてしまった。……女は良く分からんな。


「なんだか連理君って初めて会った気がしなかったんですよ」


 唐突に変な事を言う美羽。


 俺の記憶が無い以上会った可能性があるのは確かだが…。記憶を失う俺は一体どういう奴だったんだろうな。


 俺が何も言い返せずにいるとゲートは”上”に着いたのか動きを止めた。


「着きましたね。あとは入管に報告するだけなので少し待っていて下さい」


 そういってゲートから離れ何処かへ消えてしまう。


 開いたゲートの先には煌びやか…と言うか荒廃していない世界が広がっていた。


 建物は倒壊していない、道は整備されている。下とは全く違う世界だった。


「噂には聞いていたが…想像以上だな」


 ここではネズミを食べることも、泥水を啜ることも無いだろう。そういった雰囲気がこの都市を覆って居る。


 どうするか…美羽が戻ってくるまでこの光景を見つめるだけっていうのも味気が無い。


 この場所からそう遠く離れなければ大丈夫だろう。

”下”での生活は一旦終わりです。

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