表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴァニタスの鳥籠  作者: 鮭のアロワナ、しゃろわな
三章
59/74

独白

いつからだろう。不必要な記憶を思い出したのは。世界に終わりは無い…その絶望は精神を崩壊させるには十分なものだろう。自分は崩壊しなかったけどね。


それは多分…ユキが居たからだろう。ユキを”護りたい”という強い想いが私と言う存在を保ってくれた。だが…ユキはいつしか…思い出してしまったのだろう、この世界を。それ以降は寝たきり、どれだけ世界が廻ろうとユキは寝たきりになってしまった。そこが初めの絶望だった。だが…希望をくれたユキをこのままにしておくのは余りに酷だった。愛する人が世界の不条理に巻き込まれるのは我慢ならなかった。そこからは絶望症に対する特効薬の開発に奔走した。幾万、幾億の時をかけてようやく産み出した。”トワイライト…黄昏”、神の如き薬は出来た。これでユキをまた護ることが出来る。


そんな淡い期待を抱いていた時期もあった。…だが、世界に愛され世界を愛す、そんな男が私を拒んだ。彼もまた記憶を保持している人間の一人だろう。トワイライト完成のタイミングで毎回私の邪魔をして来た。その力は強大で、私が敵う相手では無かった。何万回と敗北し、繰り返した。


だが、ユキの幻影が何時からか現れ始めた。ユキであり、ユキでは無い。その幻影は私の覚えていない過去の事も知っていた。でも、ユキと話せるだけでも私は幸せだった。それが”虚構”だとしても…。だからこそ、”護る力”よりも”奪う力”を欲した。トワイライトも”自己の哲学”を変えたからこそ完成した。元は動物の脳で研究をしていたからね。


だが、何時からだろう。あの男が現れたのは…。明確な敵対者という訳では無い。その行動原理は”護る為”だけ…そう感じた。彼も記憶保持者だった。だからこそ彼らは敵対していたのだろう。だが…叢雲の陰謀は私たちが思っているより遥かに強大だった。彼も幾星霜の時を繰り返し、絶望し、大切なものを無くし…そして…。


だが、今回は”何かが違った”。先ずは彼の”記憶”がすっぽりと抜け落ちてしまっている事だ。何故?分からない。脳が耐えられなくなったのだろうか?いや…彼の脳は私よりずっと優秀…ポテンシャルを秘めていた筈だ。あり得ない。だとしたら…”大切”なものを失う事への恐怖からの防衛本能だろうか。だが…彼はまた彼女と”恋仲”になったみたいだ。”運命”で繋がっているのだろうね。酷な事だと思うがね…。


だからこそ”今回の世界”は何か異質…そう感じてしまっている。世界の安寧は既に叢雲の手にある。私たちがどうにか出来る場所には無い。だが...もしかすると彼はまだ”諦めていない”のかも知れない。この”虚構の世界”を元の世界に戻すことを…。ならば…彼が記憶を取り戻すのは何が何でも阻止しなければいけない。世界を破壊するために…。


「君は…力とは何だと思う?暴力か、正義を貫く信念か」


思わず聞いてしまった。彼が記憶を失っているからこそ、聞けることだった。


「…筋力って回答は嫌いか?」


やはり彼は私の事も忘れている様だ。


「私は嫌いだ。それはこの質問の意図したものでは無いからね」


そう言うと彼は少し面倒臭そうな顔をして答えた。


「”護りきる力”ってのはどうだ?」


はは…やはり、彼の行動原理はそこにあったんだね。


私にもあった、護る力が最も大切な力だと思っていた時が。だが…奪う力の重要さに気付いてしまった。


彼女はとても大切にされている。世界中の女の子が羨むような位にね…。幾星霜の時が経っても、記憶を失っても変わらないその愛は”真実の愛”と呼ぶに相応しい。俗物の考える真実の愛なんかほど遠い…崇高な愛。


故に…悲しくなる。自身の愛は本当に愛なのか…自己を否定するつもりは無いが…。真実の愛を目にしたら途端に自分がユキに抱いているこの愛は脆く儚いものに見えてしまう。いいや、愛は儚く貰いからこそ輝く…異質なのは彼の方かも知れない。


そろそろか。”我妻”には世話になったな。彼もまたこの世界の被害者だ。妻が絶望症になり、娘も”下”で誘拐されかけた。こんな私に付いてきてくれただけでありがたい物だ。


彼には幸せになってもらいたいね。こんなくそったれな世界でも。


「天城、そろそろ時間だ。彼がやってくる」


我妻が言う。天城…その名は元はユキに貰った名前だった。肝心のユキはぐっすりだけどね。


「そうか…叢雲はいつも手が早いね」


その情報は何処から得るのだろう。…いや解ってるんだ。あの男が普通で無いことは。


今回の世界はどうなるんだろうね。彼と彼の戦い、最後まで見届けたかった。

実はツイッターで投稿した報告してるのでよかったらフォローお願いします!

鮭のアロワナ、シャロワナって名前でやってます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ