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ヴァニタスの鳥籠  作者: 鮭のアロワナ、しゃろわな
三章
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トワイライト

「これで暫くしたら元に戻るはずだよ」


切り取られた耳を縫合し終わった。今の治療技術の恩恵を受けるとは思わなかったな。


「連理君~!あら...…もしかしてもうくっ付いちゃった?」


俺達を見るなり響が言う。


今や美羽は俺にベッタリなため見るだけで解ってしまうのだろう。


「連理は私のなんだから!」


「別にお前のじゃねぇよ」


「なんで!?」


なんでって、別に結婚しようが、自分は自分の物だろ。


「烏丸くん、それに連理君。何があったのかは聞かないよ。ただ、手の余る巨悪に立ち向かうのは無謀だよ」


俺の傷を見てか、そんなことを言う。


「お父さん、彼は私たちが止めれるような器じゃないわ…悲しいけどね」


どこか憂えた目をしながら言う。


「おっさん...聞きてぇことがあるんだが」


「なんだい?私が答えられる範囲なら勿論答えさせてもらうよ」


「トワイライト…聞き覚えは?」


端的に言う。


「………知らないね。なんだろうそれは新しい病気かい?」


嘘…だな。鼓動の音が乱れた。


なるほどな…あの女が言っていた事も強ち嘘じゃ無いらしい。


「トワイライト…?どっかで聞いたような聞いてないような…」


響が悩んだ顔をしながら言う。まあ、トワイライトの詳細を聞きたい訳では無い。


一つ確信を持てただけでも良しとするか。


「響、お前母親はどこに居るんだ?」


「え?お母さん…?………何年か前に死んじゃったの」


「病気か?事故か?答えたくないなら答えなくていい」


これはあまりに礼儀を欠いた質問だ。相手の事なんて何一つ考えていない。自分勝手な問。


「別に…もう何年も前だからなぁ…。お母さんね、私が生まれてからずっと寝たきりだったの」


「響…それ以上は止めておきなさい」


「おっさんには聞いてないぜ?」


おっさんが遮る。


「お父さん…お母さんは幸せだったの?絶望症にかかって、寝たきりで」


やはりな。このおっさん…何かあるな。


歓楽街の女に言われた事…それはこの病院の院長は妻を絶望症で亡くした…ってな。


「おっさん...何を企んでやがる?トワイライトも知ってんだろ?」


死の宣告。娘が隣に居るなかで嘘を吐き続けれるか?


「………君はいつか障害になると、あの人が言っていた意味が分かったよ」


「あの人は誰だ。お前たちのトップは……一体誰なんだ」


「それは私の口からは言えない。だが…既に完成した。命の重さは等しく無いんだよ」


そう言って奥に行ってしまう。いや…何かを取りに行ったのか。


「ずっとお父さんの傍に居たのに…気付かなかった…」


響が項垂れる。隣に長い間居たからこその落胆。自身の親が何か怪しいものに手を出しているのは娘からすれば精神に響くものだろう。


なんて考えていると奥からおっさんが戻ってくる。


「待たせたね。これがトワイライトだ」


一粒の錠剤を見せてくる。一見ただの錠剤で何も可笑しい所は無い。


「…その薬は一体何の薬なんだ」


「トワイライト脳症の特効薬だよ」


トワイライト脳症…たしか絶望症の事だったな。


「そ、そんな…だって原因不明の不治の病じゃなかったの!?」


そう。トワイライト脳症は原因不明の不治の病だ。そんな病気に対する特効薬など世間を揺るがす大事件だ。


「だけどね…そんな神の如き薬では無いんだよ。これは」


「製造法だな?」


「ああ…。莫大な脳…いや、脳内物質を抽出した錠剤なんだ」


「そ、そんな…じゃあ、その錠剤一つで何人の人が犠牲に!?」


考えるだけ無駄だな。俺は正義の味方でも何でもない。この薬を否定する事は俺には出来ない。


それに...命の価値は平等では無い。胸糞悪いけどな。


「だから言ったじゃないか…命の価値は等しく無いんだってね」


「おっさん、知ってることがあったら全部話してくれ」


ここまで来たらもう同じだ。知ってる情報全てを吐き出して貰おう。


「これの開発、それはね当院の研究施設で行ってるんだよ。僕も手伝ってね」


真っ黒って訳か。響はショックからか一言も話さなくなってしまった。


「指導者は…おおまか予想は付いてるけどな」


「多分想像通りだろう。監視カメラ見たよ。君は雪音さんに会ったみたいだね」


「え、ええ。理事長の婚約者の方ですよね?」


おっさんが美羽に問いかける。あの病室に居た女は理事長の婚約者だったのか。の割には若かったが。


「彼は、ずっと目標にしていたんだよ。彼女を助ける事を」


その結果トワイライトが生まれた訳か。


「そんな...理事長が…」


「君たちはまだ若い、まだ分からないんだ。大切なものを失った時の気持ちが」


何処か遠い目をしながら言う。妻の事を思っているのか、別の事を思っているのかは俺には分からない。だが、俺たちに否定する権利など持ち合わせてはいない。それだけは俺でも分かった。


「お前らを否定はしない。だが、その気持ちを分かりたくはねぇな」


”護りきる力”が無かった。その一言に尽きる。


「なんで泣いてんだ…美羽」


「えっ!?どうしちゃったんだろ私…」


美羽の眼から止め処なく涙が溢れている。何かを思い出したか、過去に失ったもの…それを思い出していたのかも知れない。


「そうか...君たちは」


おっさんが何か意味深な事を言う。


「俺達がなんだ?」


「いや、何もないよ。次来るときはあまりボロボロじゃないことを祈ってるよ」


そう言って奥に行ってしまった。


意味深な事だけ言って…すげぇモヤモヤする。おっさんが何を言いたかったのか、気になって仕方が無い。


「響、お前の親父がもしかしたら悪に手を染めているかも知れない。だが、それはあいつの正義なりの行動だ。肉親のお前が否定してやるな」


それだけ言い部屋から出て行く。

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