正体
「お、お嬢さま!?れ、連理さんその傷…!?す、すぐに病院に!!」
帰るなりメイドが喚きだす。
「大丈夫だ。俺より美羽を頼む」
手に持つ美羽を任せる。今は意識が無いだけだが、すぐに目覚めるだろう。無茶をさせてしまった。
「で、ですが!その傷は!?」
「だから大丈夫だつってんだろ。俺より美羽を頼むぜ」
まだやることを残している。
。
「よくのこのこと戻ってきやがったな!!頭の仇ぃ!!」
「お前にそれが出来るのか?」
もう今の俺に躊躇いも何もない。だが、それ故に弱点が増えた。今までみたいには行かないかもしれない。
「く、クソがぁぁぁぁ!!!」
捨て身の特攻。勝ち目のない戦いにおいてすべきことは相手の意表を付く事だ。その点捨て身の特攻は嫌いじゃない。
「弱点なんて関係ねぇ…全て”護りきる”…それだけだ」
。
静寂が支配する。純然たる暴力の証、それが周辺に転がり落ちている。
意識の無い者、あるいは既に息絶えている者。様々だろう。
「もう迷わない。俺は俺だ」
いつか、美羽が言われたその言葉に救われた。
「やはりこうなりましたか。忠告はしていたんですがね」
男が虚無から姿を現す。
「キル…いや会長さんか」
「気づくのが早かったですね。然程問題ではありませんが」
生徒会長が学園に居なかった訳では無い。むしろ留学なんて嘘だった訳だ。
些細な事だ。電車の中での違和感、あの女狐の違和感。全ての元凶がこいつって訳だ。
「何がしたいんだ?ギャングが一時期壊滅しかけたのもお前の仕業だろ?」
闇バイトの後にギャングが消滅したことがあった。それも此奴の仕業だろう。むしろコイツ以外でそれが出来る奴が居るだろうか。
「だから条件付きで解放したんですけどね」
「その条件は?ギャングがそんな事護るとでも思ったのか?」
「まあ些細な事だよ。これまで通り事が進んでいるのは変わらない」
それだ。なぜそんな未来を分かったような発言が出来る?タイムスリップでもしてるって言うのか?
「お前は言った。生きている年数が違うと…。それはどういう事なんだ?若返りの薬でも使ってるのか?」
カモフラージュ。どうせこいつは口を割らない。徹底して観測する立場を貫くだろう。
「秘密ですよ。それだけは貴方に知られる訳にはいかないんだ」
笑顔なのか、嘲りなのか。だとしてもその余裕、腹が立つ。観測者を気取り、全てを知ったような口ぶり。
「ギャングに言った条件は何だ?何故ギャングを潰さない」
こいつの行動原理が分からない。フィリアの為か?
「条件はですね…銀髪の少女に手を出さない事…ですよ」
何だと?それだけだと言うのか。
何の為に?お前にとっては美羽は邪魔な存在じゃ無いのか?
「……何故だ。美羽は元々関係なかった筈だ」
「私は美羽さんとは言ってませんが?……冗談ですよ。まあ理由なんてなんだって良いだろ?」
張り付いた笑みが癪に障る。
「それに…俺もお前もやることがまだある...そうだろう?」
急激な口調の変化。素は今みたいだな。
何故従者として学園に居るのか。こいつが一体何を知っているのか。俺には何も分からない。
だが...こいつは敵だ。俺の勘がそう言っている。
「理事長も動き出したからね…私はやることが多いんだよ」
そう言って消えてしまった。まさに幽霊みたいな奴だ。虚空から現れ、視認する間もなく消え去っていく。
「あのおっさんが…?」
なんなんだ、一体何なんだよ!?俺の知らない世界で一体何が起きていると言うのだ?
あぁ...虫唾が走る。世界に、自分自身に。
短いので夜にもう一話投稿します。




